世界的に寿命が長くなっている昨今、かつては稀とされた百寿者(100歳以上の人々)は、今や特別な存在ではありません。
実際、1970年代以降、百寿者の人口は10年ごとにほぼ倍増しており、急成長している人口群となっています。
人間がどれだけ長生きできるのか、そして健康で長生きするための要因は何か、という疑問はプラトンやアリストテレスから議論されてきました。
しかし、長寿の秘密を解き明かすことは容易ではありません。
なぜなら、遺伝的要因と生活習慣の相互作用、はたまた医療技術の進歩などが人生全体でどのように影響を与えるかを探る作業を伴うからです。
今回、GeroScienceに掲載された研究から、90歳以上まで生きる人々のバイオマーカー(コレステロールや血糖値などの生態指標)が明らかになりました。
これによると、いくつかのバイオマーカーに共通点が見られたようです。
今回のテーマとして取り上げていきます。
参考記事)
・The Blood of Exceptionally Long-Lived People Shows Crucial Differences(2024/11/27)
参考研究)
長寿の秘密を探る
これまで90歳以上の人々や百寿者は、科学者にとって長寿のメカニズムを解明する手がかりとして長らく注目されてきました。
しかし、従来の研究は小規模であることが多く、特定のグループ、例えば介護施設に住む百寿者を除外する場合もありました。
ストックホルム環境医学研究所の研究者らは、百寿者とそれ以外の人々の生体指標を比較するこれまでで最大規模の研究を実施しました。
この研究では、100歳以上生きた人々とそれより短命だった人々の生体指標の違いを調査し、それらが長寿とどう関連しているのかを検討しました。
研究対象には、スウェーデンのThe AMORIS cohortに属する64歳から99歳までの44,000人のデータが含まれました。
これらの参加者は、健康診断を受けた後、最長35年間追跡されました。その中で1,224人(全体の約2.7%)が100歳以上まで生き、その85%が女性でした。
調査したバイオマーカー
研究では過去の分析によって、老化や死亡率と関連することが示されている12の血液ベースのバイオマーカーを分析しました。
• 炎症:尿酸(体内で特定の食品の消化によって生成される老廃物)
• 代謝機能:総コレステロール、血糖値
• 肝機能:アラニンアミノトランスフェラーゼ(Alat)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Asat)、アルブミン、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、アルカリホスファターゼ(Alp)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)
• 腎機能:クレアチニン
• 貧血:鉄、総鉄結合能(TIBC)
• 栄養状態:アルブミン
全体として、百寿者は60歳代以降、血糖値、クレアチニン値、尿酸値が低い傾向があることが分かりました。
また、百寿者はこれらの値が安定しており、極端に高い、または低いケースがほとんど見られませんでした。
例)
• 血糖値が6.5 mmol/Lを超える百寿者はほとんどいない
• クレアチニン値が125 µmol/Lを超えるケースもほとんど見られない
など
さらに、12のバイオマーカーのうち10(Alatとアルブミンを除く)は、100歳に到達する可能性と関連があることが示されました。
総コレステロールや鉄の値が最も低いグループの人々は、他のグループと比べて長寿の可能性が低いことが判明しました。
逆に、血糖値、クレアチニン値、尿酸値、肝機能のマーカーが高い人々は、百寿者になる可能性が低くなりました。
研究の意義と限界
今回の研究では、生活習慣や遺伝子がどのようにバイオマーカーに影響を与えるのかまでは明らかにできませんでしたが、栄養状態やアルコール摂取が役割を果たしている可能性が考えられます。
また、遺伝的要因や偶然も影響していると推測されます。
それでも、死亡のかなり前からバイオマーカーの違いが見られることは、遺伝や生活習慣が長寿に重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。
今後、食生活や運動において何に注目して行動するのかの指標を得るため、さらなる研究が期待されています。
まとめ
・百寿者は、血糖値や尿酸値などが安定している傾向がある
・長寿と関連するバイオマーカーには、栄養や代謝状態が大きく影響する可能性がある
・長寿を目指すには、腎臓や肝臓の値、血糖値、尿酸値を定期的にチェックすることが重要である
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