科学

腸内細菌を調べることで、自閉症やADHDを従来より10年以上早く予測可能に

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科学の発展によって健康に対する見知が広がってきた現代。

 

近年、特に注目されている健康科学の一つに、“腸脳相関”が挙げられます。

 

 

これは、神経伝達物質やビタミンなど、腸内細菌によって作られる様々な物質が身体だけでなく脳に影響を与えることが分かってきたことがきっかけで広がった認識です。

  

特に、腸と脳とはホルモンや自律神経を通じて関係することが明らかになっており、腸の状態が脳に、脳のストレスが腸に影響を与えるとされています。

 

腸の状態が健康にとって非常に大切であることが近年取り沙汰されていることから、神経の不調による障害も腸内細菌に由来すると考えられています。

 

今回は、そんな腸内細菌の具合と、自閉症やADHDなどの発達障害との関係について調べた研究を紹介します。

 

参考記事)

Study Identifies Gut Microbe Imbalances That Predict Autism And ADHD(2024/10/03)

 

参考研究)

Infant microbes and metabolites point to childhood neurodevelopmental disorders(2024/04/11)

Understanding the Role of the Gut Microbiome in Brain Development and Its Association With Neurodevelopmental Psychiatric Disorders(2022/04/14)

Autism-related dietary preferences mediate autism-gut microbiome associations(2021/11/23)

 

 

腸内細菌と発達障害の早期発見

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自閉症などの神経発達障害の早期検査は、子どもたちが日常生活に必要な能力をサポートするためには大切なことです。

 

アメリカ小児科学会は、すべての子どもが発達遅延(発達障害)の検査を受けることを推奨し、未熟児や低出生体重の子どもはさらに追加の検査が必要であると述べています。

 

障害を持つ子の検査が遅れることで、その子や親への負担は大きくなり、家族としての将来の可能性を潰してしまうことにもなりかねません。

 

米国予防チームは、現在の自閉症検査の有効性に関する研究を模索しています。

 

専用のチェックリストと症状に基づいて診断される自閉症は、多くの場合行動の観察の結果に依存しています。

 

行動が見られた後で検査するということは、重要な発達段階が経過した後ということでもあります。

 

早めに診断できるほど二次障害を防ぐことができ、その子に合わせた支援が提供されるきっかけにもなります。

 

研究者と臨床医は、症状が明らかになる前に、初期兆候や危険因子を特定できる簡単で信頼できる方法を模索しています。

 

その中でも効果的と考えられているのが、腸の状態を確認することです。

 

スウェーデンの子ども16,440人を対象として行われた研究では、糞便と臍帯血の両方に見られる乳児の腸内で生成される微生物と代謝物を測定し、その後の発達障害の発症率が分析されました。

 

その結果、乳児期の代謝物に見られる腸内細菌が、自閉症などの神経発達疾患を検査するのに役立つ可能性があることがわかりました。

 

また、出生時または生後1年以内に検出することができ、これは一般的に子どもたちが発達障害と診断される期間から比べて、10年以上早く結果が分かることが分かりました。

  

 

バイオマーカーとしての微生物

自閉症のバイオマーカー病状の変化や治療の効果の目安となる、血圧や心拍数、タンパク質や遺伝子などの体内の物質など)は、現時点ではその多くが未解明です。

 

そんな謎多き神経発達障害(自閉症など)に関するバイオマーカーの1つは、やはり腸内微生物です

 

研究者は、マイクロバイオーム(ヒトの体内で共生する微生物)は人によって様々で、生まれてから非常に早い段階で微生物のコロニーが形成が始まります。

 

微生物の分布は免疫系によって形成され、幼少期に大きな変化を遂げていきます。

 

その後は主に食べ物によって細菌の種類が変化していきますが、近年では、人生の変化や出来事、一緒に住んでいる人からも影響受けるという興味深い研究も示されています。

 

腸内の環境と密接関係する症状に下痢、腹痛、便秘などの症状があります。

 

 

この胃腸の症状は自閉症や ADHDの子どもによく見られ、自閉症患者の30%から70%が機能的胃腸障害と診断されています。

 

未治療の消化器系の問題は、これらの子どもたちの間で追加の睡眠障害や行動障害につながる可能性が指摘されており、腸内環境を整えることの重要性が示唆されています。

 

実験に際して行われたパイロット研究実験の実行性を判断するために行われる、本調査よりも小規模な実験)では、自閉症の子どもは、健康な腸内細菌が腸内に移された後、胃腸症状や自閉症関連の症状が改善し、精神的、身体的なメリットが最大2年続くことがわかりました。

 

高果糖や高脂肪の食事、野菜が少ないといった偏った食事が腸内細菌の多様性を低くする結果もあり、食事によって腸内細菌をコントロールするとは、神経系のみならず精神的な健康に大きく関わることが明らかになっています。

 

また研究者たちは、自閉症やその他の状態の診断や症状を示す前に、幼い子どもの腸内細菌がどう変化したかについて研究を行いました。

 

研究では、1997年から1999年の間に生まれた約17,000人の子どもが対象とされ、All Babiesと呼ばれる進行中の研究の参加者から約1歳で収集された臍帯血と便を調べました。

 

生後これらの子どもたちを追跡してきた結果、そのうち約1,200人が後に23歳までに神経発達障害と診断されました。

 

これに伴い、胃腸の不調、不機嫌、睡眠障害などの神経発達状態の症状の前に発症した細菌組成と代謝物レベルに有意差があることが示されました。

 

これらの差異は、自閉症、ADHD、言語障害など多くの症状に関連しています。

 

続けて、抗生物質による子どもの腸内細菌と神経発達障害の関係も分析しました。

 

すると、微生物の組成が不安定な時期に抗生物質を繰り返し使用すると微生物の不均衡が生じ、自閉症を発症する可能性が有意に高いことも示されました。

 

同様に、耳の感染症の繰り返しが自閉症を発症する可能性2倍に増加することがわかりました。

 

抗生物質の繰り返しの投与によってコプロコッカス(ヒトの腸内細菌の一部である嫌気性球菌)が存在しない子どもは、抗菌剤耐性で知られる細菌であるシトロバクターの有病率が増加し、神経発達障害を発症する可能性が2〜4倍高いことも判明しました。

 

とはいえ、抗生物質自体は子どもに対する特定の細菌感染症の治療に必要であるため、完全に使用を避けることは推奨されていないことに注意が必要です。

 

後に神経発達障害と診断された子どもたちのもう一つの微生物の不均衡は、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphilaという細菌の減少でした。

 

これは、内膜を強化し、神経学的健康に重要な神経伝達物質に関連する細菌です。

 

これらの不均衡は、自閉症、ADHD、または知的障害に対する従来の診断よりも、平均13〜14年はやく兆候が見られることが分かっています。

 

また、この場合は“腸内微生物が食事から生じるという仮定に反論する”点でもあり、食事を変えればどうにかなるという単純な話でないことでもあります。

 

腸内の検査は、健康な子どもにとっては一般的ではありません。

 

しかし、今回の研究による発見は、発達の重要な時期に、有益な細菌と有害な細菌の不均衡を検出することで、臨床医と家族、そして子ども本人に有益な洞察を提供できることを示唆しています。

 

世界中の子供たちの細菌の違いが時間とともにどのように変化するかは不明ですが、腸と健康、さらには神経発達の観点からも注目すべき研究と言えます。

 

  

まとめ

・腸内細菌が脳に影響を与えることが分かり、腸の状態が発達障害や精神的健康に関与しているとされている

・乳児の腸内細菌や代謝物が、自閉症やADHDなどの発達障害を早期に検出する手がかりになる可能性が示されている

・食事や抗生物質の使用が腸内細菌に影響を与え、神経発達障害のリスクを高めることが研究で示唆されている

  

  

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