私たちが日常的によく目にする植物の一つであるアロエベラ(Aloe vera)。
この植物は皮膚ケアや便秘解消などの健康効果が知られていますが、その内部に含まれる化合物の中には、神経変性疾患であるアルツハイマー病に対して有効な作用を示す可能性のあるものが存在することが、最新の研究によって示されました。
今回の研究は、アロエベラ葉に含まれる複数の化学成分がアルツハイマー病の進行に関わる酵素にどのように作用し得るかを、コンピューターシミュレーション(in silico)を通じて評価したものです。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・In silico exploration of Aloe vera leaf compounds as dual AChE and BChE inhibitors for Alzheimer’s disease therapy(2025/03/26)
研究の背景と目的

アルツハイマー病は進行性の神経変性疾患であり、記憶力や認知機能の低下が徐々に進行します。
その病態の一部として、神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)の減少が関与していることが知られています。
アセチルコリンは脳内の神経細胞同士の信号伝達を助ける重要な役割を持ちますが、その分解を担う酵素が活発になると、神経伝達がさらに阻害されてしまいます。
このため、アセチルコリン分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)およびブチリルコリンエステラーゼ(BChE)を抑制することは、アセチルコリンの分解を防ぎ脳内の神経伝達を改善させる可能性があると考えられています。
既存のアルツハイマー病治療薬も、このような酵素阻害を目的としたものが多く使われています。
しかし、天然由来化合物の中に同様の効果を持つものがあるかどうか、また副作用が少なく安全に使用できるかどうかは十分に検証されていませんでした。
そこで本研究は、「アロエベラ葉由来の複数の化合物がAChEおよびBChEに対しどのように作用するか」を詳細に解析し、アルツハイマー病治療薬としての可能性を探ることを目的としました。
アロエベラ葉から抽出された化合物の選定

本研究では、アロエベラ葉抽出液から主要な化学成分(フェノール酸、フラボノイド、アルカロイドなど)を特定・分析し、以下のような複数の化合物を選定しました。
In silico exploration of Aloe vera leaf compounds as dual AChE and BChE inhibitors for Alzheimer’s disease therapyより一部抜粋 • Aloin
• Aloe-Emodin
• Elgonica Dimer A
• Aloesin
• Beta sitosterol
• Esculetin
• Umbelliferone
• Veratric acid
• Vanillic acid
• Succinic acid
• 7-hydroxy−2,5-dimethylchromone
これらはすべてアロエベラ葉に天然に含まれ、化学構造が異なる多様な成分です。
コンピューター解析(in silico)による作用評価
研究者たちは、各化合物がAChEおよびBChEとどのように結合するか(結合親和性や安定性)を評価するために、以下の方法を用いました。
• 分子ドッキング解析
• 分子動力学(Molecular Dynamics)シミュレーション
分子ドッキング解析は、化合物が標的酵素の活性部位にどの程度フィットするかを予測する手法です。
一方、分子動力学シミュレーションは、時間経過に応じて結合がどれだけ安定して維持されるかを調べることができます。
その結果、いくつかの化合物の中でも特に注目されたのが、ベータ・シトステロール(Beta sitosterol)でした。
Beta sitosterolの優れた結合性と作用の可能性

ベータ・シトステロールは、AChEおよびBChEの両酵素に対して高い結合親和性を示しました。
この数値は、結合がどれだけ強いかを示す指標であり、結合親和性がより負の値であるほど強固に標的に結合していることを意味します。
• AChEに対して: −8.6 kcal/mol
• BChEに対して: −8.7 kcal/mol
これらの結果は、他の化合物よりも強く酵素に結合することを示しており、両方の酵素を同時に抑制する(デュアル阻害)可能性を示唆しています。
この作用は、アセチルコリンの分解を遅らせる重要な手段となり得、アセチルコリンの分解を遅らせることで、アルツハイマーに伴う以下の効果が期待できます。
・記憶力の一時的改善
・注意力の改善
・日常生活機能の維持
・行動症状の軽減
など
また、結合の安定性が高いことは作用が持続しやすい可能性を示唆し、薬としての開発に向けて有望視されています。
薬物動態の予測(ADMET解析)による評価
薬として実際に利用できるかどうかを評価する上で、体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるか、そして毒性の有無を推定することは不可欠です。
本研究では、オンラインの解析プラットフォームを用いてADMET解析を実施しました。
特に評価された項目は以下の通りです。
• 消化管からの吸収性(HIA%)
• 血液脳関門(BBB)通過能
• CYP450酵素系との相互作用(代謝関連)
• 全体的な毒性プロファイル
その結果、ベータ・シトステロールとコハク酸(Succinic acid)は高い吸収性を示し、また毒性リスクが低い可能性があることが示されました。
これらの予測値は、初期段階で薬としての適性を測る上で重要な指標となります。
研究の限界と今後の展望
本研究はコンピューターシミュレーションを基盤としており、以下の点について注意が必要です。
• 実際の生体内での効果は未確認
• 細胞実験や動物実験がまだ実施されていない
• 臨床試験に至るまでの検証が必要
また、アルツハイマー病においては、単一の作用機序だけで治療効果が得られるわけではないという現在の医療現場の知見もあります。
天然化合物の効果については、現時点で十分な臨床的根拠があるとは言い難いという状況です。
今後は、実験的検証や臨床試験が進むことで、アロエベラ由来化合物の実際の治療効果や安全性がより明確になることが期待されています。
まとめ
・アロエベラ葉由来の複数の化合物が、アルツハイマー病関連酵素(AChEおよびBChE)に高い結合力を示した
・ベータ・シトステロールは両酵素に対して強固な結合性と安定性を示し、AChEおよびBChEの阻害剤としての可能性が示唆された
・体内動態(ADMET)解析でも安全性と吸収性が良好と予測され、将来的な薬剤開発の候補となり得る


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