孫の世話が脳の認知機能向上に関与

科学
科学
この記事は約6分で読めます。

年齢を重ねるにつれて、私たちの多くが気にかけるのが脳の健康です。

 

運動習慣やパズル、社交活動などが認知機能の維持に役立つことは広く知られています。

アメリカ心理学会(American Psychological Association)によって発表された研究から、孫の世話をすること自体が脳の健康を支える可能性があるという新たな研究結果が報告されました。

 

祖父母が孫と遊び、本を読み聞かせ、日常的な世話をすることは、子どもだけでなく祖父母自身にも恩恵をもたらすかもしれません。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Babysitting grandkids can boost brain health(2026/01/26)

 

参考研究)

Grandparents’ cognition and caregiving for grandchildren: Frequency, type, and variety of activities(2025/10/28)

  

研究の背景と目的

 

研究を主導したのは、オランダのティルバーグ大学に所属するFlavia Chereches氏です。

 

ティルバーグ大学はオランダ南部に位置する公立大学で、社会科学や行動科学分野で高い評価を受けている教育研究機関です。

 

高齢期における認知機能の低下は、多くの人にとって避けがたい課題です。

 

これまでの研究では、身体活動や知的活動、社会的交流が認知症リスクの低減や認知機能の維持に関連することが示唆されてきました。

 

しかし、「祖父母として孫の世話をすること」が、祖父母自身の脳機能にどのような影響を与えるのかについては、十分に検討されていませんでした。

 

Flavia氏は声明の中で、「多くの祖父母が定期的に孫の世話をしており、それは家族や社会全体を支えている。しかし、そのケアが祖父母自身にも利益をもたらすのかどうかは未解明の問題だった」と述べています。

 

本研究では、孫の世話が祖父母の健康、特に認知機能の低下を遅らせる可能性があるかどうかを検証することを目的としました。

 

 

研究方法

研究チームは、「English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)」のデータを分析しました。

 

ELSAは、イングランド在住の中高年を対象とした大規模な縦断研究であり、加齢と健康に関するさまざまなデータを長期にわたって収集しています。

 

今回の分析対象となったのは、50歳以上の祖父母2,887人です。

 

参加者の平均年齢は67歳でした。2016年から2022年にかけて、参加者は3回にわたり認知機能テストを受けるとともに、詳細なアンケートに回答しました。

 

アンケートでは、過去1年間に孫の世話をしたかどうかが尋ねられました。

 

また、以下のような具体的なケア内容や頻度についても調査されました。

• 孫を一晩預かる

• 孫が病気のときに世話をする

• 一緒に遊んだり余暇活動を行う

• 宿題を手伝う

• 学校や習い事への送迎

• 食事の準備

  

このように、単なる「世話をしているかどうか」だけでなく、ケアの種類や関与の度合いも細かく把握した点が本研究の特徴です。

 

 

主な研究結果

分析の結果、孫と時間を過ごしている祖父母は、世話をしていない祖父母と比べて、記憶力および言語流暢性のテストで高いスコアを示しました

 

この結果は、年齢、健康状態、社会経済的要因などを統計的に調整した後でも維持されました。

 

特に注目すべき点は、ケアの頻度や具体的な活動内容よりも、「ケアに関わっていること」自体が認知機能と強く関連していたということです。

 

つまり、毎日長時間世話をするかどうかや、どの活動を行うかよりも、祖父母として関与しているという事実そのものが重要である可能性が示唆されました。

 

さらに、孫の世話をしていた祖母は、研究期間中の認知機能の低下が比較的少なかったことも報告されました。

 

この点については祖母において特に明確な傾向が見られたとされていますが、祖父について同様の効果が同程度に認められたかどうかは記事からは明確ではありません。

 

Flavia氏は、「最も印象的だったのは、どれくらい頻繁に世話をしているかや、具体的に何をしているかよりも、ケアに関わっていること自体が認知機能にとって重要だったことだ」と述べています。

 

 

なぜ孫の世話が脳に良いのか

 

本研究は観察研究であり、因果関係を直接証明するものではありません。

 

しかし、いくつかの可能性が考えられます。

 

第一に、孫の世話は社会的交流の増加につながります。

 

社会的孤立は認知機能低下のリスク因子とされており、家族との交流は精神的刺激をもたらします。

 

第二に、孫との関わりは認知的刺激を伴う活動を含みます。

 

本の読み聞かせや会話、遊び、宿題の手伝いなどは、記憶、注意、言語能力を自然に使う機会になります。

 

第三に、孫の存在は心理的な意味や役割意識をもたらします。

 

自分が家族の中で重要な役割を担っているという感覚は、精神的健康に良い影響を与える可能性があります。

 

 

ただし注意すべき点

研究者たちは、結果の解釈には慎重であるべきだと述べています。

 

まず、本研究は縦断データを用いているものの、孫の世話が直接的に認知機能を改善したと断定することはできません

 

もともと健康で認知機能が高い祖父母のほうが、積極的に孫の世話をしている可能性もあります。

 

また、家族環境の影響も重要です。

 

Flavia 氏は、「自発的で支援的な家族環境の中でのケア」と、「負担感やストレスを伴うケア」とでは影響が異なる可能性があると指摘しています。

 

つまり、ケアが義務や重荷として感じられる場合には、同じ効果が得られない可能性も考えられます。

 

さらに、今回の記事情報だけでは、性別による差の詳細や、社会経済的背景との相互作用などについて十分な情報が示されていません。

 

そのため、どのような祖父母にとって最も効果が大きいのかについては、まだ不明な点が残っています

 

 

今後の研究への期待

研究チームは、今後さらに家族関係の質や文化的背景、ストレスレベルなどを考慮した研究が必要であるとしています。

 

特に、異なる国や文化圏で同様の結果が再現されるかどうかを検証することが重要です。

 

現時点では、孫の世話が認知機能低下を遅らせる可能性が示唆された段階であり、医学的介入として推奨できるほどの確定的証拠があるわけではありません。

 

しかし、高齢期における社会的・家族的役割の重要性を改めて示す結果であるといえます。

 

 

まとめ

・孫の世話をしている祖父母は、記憶力と言語流暢性のテストで高い成績を示した

・ケアの頻度や内容よりも、「関わっていること」自体が認知機能と関連していた

・因果関係は確定しておらず、家族環境やストレスの影響については今後の研究が必要

コメント

タイトルとURLをコピーしました