骨粗しょう症研究の新展開──運動による刺激と「Piezo1」との関係

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骨粗しょう症は加齢や疾病によって骨が脆くなる病気であり、特に高齢者の骨折リスク増大と密接に関係しています。

  

これまで、運動が骨の健康を増進し骨密度を維持することは知られていましたが、その分子レベルでの仕組みは不十分に理解されていました

  

香港大学は2025年10月、この仕組みの解明に寄与する研究成果を発表しました。

   

参考記事)

Breakthrough Study Reveals The Secret of How Exercise Fights Osteoporosis(2026/02/13)

参考研究)

Piezo1 activation suppresses bone marrow adipogenesis to prevent osteoporosis by inhibiting a mechanoinflammatory autocrine loop(2025/10/28)

 

 

骨髄間葉系幹細胞の運命と骨粗しょう症

 

骨髄の中には 骨髄間葉系幹細胞(BMMSCs:Bone Marrow Mesenchymal Stem Cells) が存在し、これらの細胞は以下の二つの細胞へ分化する可能性を持っています。

  

1. 骨を形成する「骨芽細胞(osteoblast)」

2. 脂肪細胞である「骨髄脂肪細胞(BMAs)」

  

本来、骨の健康維持のためにはこの二つのバランスが重要ですが、加齢や骨粗しょう症では 脂肪細胞への分化が増加し骨量が減少するという傾向があることが知られています。

 

 

機械的な刺激を感知するタンパク質「Piezo1」

 

今回の研究は、これらのBMMSCsが物理的な刺激(運動や圧力)をどのように感知し、細胞運命に影響を与えているのかを探ることを目的としました。

 

その中で、Piezo1(ピエゾワン) と呼ばれる機械刺激センサータンパク質に着目しました。

 

Piezo1は、細胞膜上で機械的刺激を感知し、細胞内に信号を送る「機械受容チャネル」です。 

 

機械受容チャネルは、細胞膜にかかる圧力、張力、伸展などの物理的な歪みを検知して開閉するイオンチャネルです。

 

このタンパク質が骨髄間葉系幹細胞に存在すると、物理的刺激(運動など)によって活性化され、細胞の挙動に影響を与える仕組みであることが明らかになりました。

 

また、ヒトを対象とした過去の研究によると、このPiezo1は短距離走や重量挙げなどの瞬発的な運動によって活性化させる可能性が高く、Piezo1の発現性が高いマウスは身体能力も高いことが分かっています。

 

  

Piezo1 欠損で起きる骨と脂肪の異常

研究では、Piezo1をBMMSCsから特異的に欠損させた遺伝子改変マウス(PDGFRα-Piezo1ノックアウトマウス)を作成し、その骨の状態を解析しました。

 

その結果、Piezo1欠損マウスは次のような症状を示しました。

• 骨密度と骨量の著しい低下

• 骨の微細構造(骨梁)の損失

• 骨形成速度の低下

• 骨髄内に蓄積される脂肪細胞(BMAs)の増加

  

これらはいずれも、骨粗しょう症の特徴的な変化です。

 

さらに、Piezo1欠損マウスは運動による骨強化効果をほとんど示さないことも確認されました。

 

通常、運動は骨の形成を促進すると考えられていますが、Piezo1 が欠損するとこの効果が失われるため、Piezo1 の存在が運動と骨強化効果を結ぶ重要な鍵であることが示唆されました。

 

 

Piezo1 が制御する炎症ループと細胞運命

研究では、さらにPiezo1がどのようにBMMSCsの分化を制御しているのかを、分子レベルで解析しました。

 

その結果、Piezo1は以下のような経路を介して細胞の変化を左右していることが分かりました。

 

Piezo1 activation suppresses bone marrow adipogenesis to prevent osteoporosis by inhibiting a mechanoinflammatory autocrine loopより

1. Piezo1 活性化は、細胞内CaMKII経路を介して Klf2(転写因子) の発現を促進する

2. 高レベルの Klf2 はNF-κBの活性化とc-Jun活性化を抑制する

3. これによりCcl2およびLcn2(炎症性分子)の産生が抑制される

4. 結果として、BMMSCsが脂肪細胞へ分化する率が低くなり、骨芽細胞への分化が促進される

  

言い換えれば、Piezo1 の活性化は炎症性の自己分泌ループ(Ccl2–Lcn2)を阻害し、骨形成を優勢にする方向に細胞を導く役割を果たします。

 

逆に、Piezo1が欠損していると、炎症性シグナルが増加し、BMMSCsは脂肪細胞に分化しやすくなります。

 

これが骨髄脂肪の蓄積と骨量の低下を誘発し、骨粗しょう症の発症につながると考えられます。

 

 

人間での関連エビデンスと臨床への示唆 

論文では、以下のような ヒトでの関連エビデンスも報告されています。

• 骨組織におけるPIEZO1発現の低下は骨密度の低下と関連

• PIEZO1遺伝子多型(SNP)が骨密度と関連する可能性

• KLF2の上昇は骨芽細胞分化を促進

• CCL2およびLCN2の増加は骨粗しょう症患者で観察される

 

これらの知見は、Piezo1–Klf2–Ccl2–Lcn2 のシグナル軸が人間でも骨質維持に重要である可能性を示唆しています。

 

ただし、現時点では 臨床試験データや治療法の確立には至っておらず、ヒトへの応用は慎重な検討が必要です。 その点は注意が必要です。

 

 

まとめ

・Piezo1はBMMSCsにおける「機械刺激センサー」として機能し、炎症性シグナルを抑制して骨芽細胞分化を促進し、骨量維持に寄与することが明らかになった

・Piezo1の欠損は骨密度低下と骨髄内脂肪蓄積を引き起こし、運動の骨強化効果を消失させるため、骨粗しょう症悪化の要因となる可能性が示された

・Piezo1の活性には、瞬発的な運動が関係している可能性が確認されている

・ヒトへの応用には慎重な検証が必要「Piezo1–Klf2–Ccl2–Lcn2」の関係は、将来の骨粗しょう症治療標的として注目されている

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