うつ病や不安障害に対する治療として、薬物療法や心理療法が一般的に用いられていますが、近年ではそれらに匹敵する、あるいはそれ以上の効果を持つ可能性がある方法として「運動」が改めて注目されています。
ダンスや水泳のような身近な活動が、精神的健康に強力な影響を与える可能性が示されたのです。
今回紹介する大規模な統合解析では、運動がうつ症状および不安症状を有意に軽減し、その効果は薬物療法やカウンセリングと同等、あるいはそれを上回る場合もあることが明らかになりました。
特に若年成人や出産直後の女性において顕著な改善が確認されています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Exercise may be one of the most powerful treatments for depression and anxiety(2026/02/17)
参考研究)
・Effect of exercise on depression and anxiety symptoms: systematic umbrella review with meta-meta-analysis(2026/02/10)
世界で増え続けるうつ病と不安障害

研究者らによれば、うつ病や不安障害は世界人口の約4人に1人が生涯のどこかで経験する可能性があるとされています。
特に若年層および女性において罹患率が高いことが知られています。
これまでの研究でも、身体活動が心理療法や抗うつ薬と比較して遜色ない効果を持つことは示唆されてきました。
しかしながら、以下のはじめとするいくつかの疑問が残されていました。
• 年齢層によって効果は異なるのか
• 運動の強度や頻度はどの程度が最適なのか
• 個人で行う場合と集団で行う場合に差はあるのか
• 生涯を通じた影響はどうか
さらに、従来の大規模レビューの多くは成人のみを対象としていたり、他の疾患を併存している参加者を含んでいたりしたため、純粋にうつや不安に対する効果を評価するには限界がありました。
研究の方法:メタ・メタ解析というアプローチ
研究チームは、2025年7月までに発表された無作為化比較試験(RCT)の統合データ解析を網羅的に検索しました。
対象となった研究は、計画的で構造化され、反復的かつ目的を持って実施される運動プログラムを扱ったものです。
比較対象は以下のいずれかです。
• 何かしらの活動活動
• プラセボ
• 治療なし
運動の種類は幅広く含まれており、強度、頻度、実施環境(個人またはグループ)を問わず評価されました。
うつ病に対する効果
うつ病に関する解析では、57件の統合データ解析が対象となり、800件の個別研究、合計57,930人(10歳〜90歳)が含まれました。
対象者は、臨床的にうつ病と診断された人、または明確なうつ症状を示す人で、他の併存疾患は持たない人々です。
運動プログラムは以下のように分類されました。
• 有酸素運動(19件)
• レジスタンストレーニング(8件)
• マインド・ボディ運動(ヨガ、太極拳、気功など)(16件)
• 複合プログラム(39件)
解析の結果、運動は中等度の効果量でうつ症状を軽減することが示されました。
特に注目すべきは、18〜30歳の若年成人および出産直後の女性において最も大きな改善が観察された点です。
不安障害に対する効果
不安に関する解析では、24件の統合データ解析、258件の個別研究、19,368人(18〜67歳)が含まれました。
運動の分類は以下の通りです。
• 有酸素運動(7件)
• レジスタンス(1件)
• マインド・ボディ(9件)
• 複合型(13件)
結果を統合すると、不安症状は小〜中等度の効果量で軽減されました。
うつ病に比べると効果量はやや小さいものの、依然として臨床的に意味のある改善と評価されています。
どのような運動が最も効果的か

分析によれば、すべての運動形式が精神的健康の改善と関連していました。
特に有酸素運動がうつ病に対して最も大きな効果を示しました。
また、監督下またはグループ形式で実施された場合に効果が最大でした。
この結果は、運動そのものだけでなく、社会的つながりやサポート環境が精神的改善に重要である可能性を示唆しています。
不安に対しては、有酸素、レジスタンス、マインド・ボディ、複合型これらすべてが中等度のポジティブ効果を示しました。
さらに、不安に関しては、8週間以内の比較的短期間プログラムかつ低強度の運動が特に有効である可能性が示されました。
薬や心理療法との比較

重要なのは、運動の効果が抗うつ薬やトーキングセラピー(心理療法)と同等、あるいは一部ではそれを上回る場合があったという点です。
この点は非常に意義深い発見です。
なぜなら、運動は以下の利点を持つからです。
• 低コスト
• アクセスしやすい
• 身体的健康にも追加的利益がある
• 副作用が比較的少ない
研究者らは、運動を第一選択の介入として位置付ける可能性を強調しています。
研究の限界
研究チームは以下の限界も認めています。
• 運動強度やプログラム期間の定義が研究間で統一されていない
• 生涯のすべての段階を網羅するデータは比較的限られている
また、効果量は統計的に中等度と評価されていますが、個々の症例において必ずしも同様の効果が保証されるわけではありません。
この点については、臨床応用の際に慎重な判断が必要です。
さらに、ここで報告された「薬物療法を上回る」という表現については、研究ごとの条件や対象集団の違いにより結果が変動する可能性があるため、すべての状況に当てはまると断定することはできません。
この点はやや曖昧な部分があるといえます。
これらを踏まえ、研究者らは次のように結論づけています。
「本メタ・メタ解析は、運動がすべての年齢層においてうつおよび不安症状を効果的に軽減するという強固な証拠を提供する。」
さらに、「費用対効果、アクセスの容易さ、身体的健康への追加的利益を考慮すると、運動は特に従来の精神医療が利用しにくい環境において第一選択介入となり得る。」と述べています。
まとめ
・運動はうつ症状に対して中等度、不安症状に対して小〜中等度の改善効果を示した
・効果は薬物療法や心理療法と同等、またはそれ以上となる場合もあった
・特に若年成人と出産後の女性で顕著な改善が見られ、グループ形式や指導(監督)付き運動が最も効果的であった

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