コーヒーやお茶に含まれるカフェインが、私たちの脳の健康にどのような影響を及ぼしているのかについては、これまでも多くの研究が行われてきました。
そして今回、新たに発表された大規模かつ長期にわたる疫学研究により、日常的な適度のカフェイン摂取が認知症リスクの低下および認知機能低下の抑制と関連している可能性が示されました。
毎日の一杯が、将来の脳の健康に寄与しているかもしれません。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Daily Caffeine Could Reduce Your Risk of Developing Dementia, Study Shows(2026/02/10)
参考研究)
・Coffee and Tea Intake, Dementia Risk, and Cognitive Function
(2026/02/09)
43年間にわたる大規模追跡研究

本研究は、米国ボストンに拠点を置く医療研究機関マス・ジェネラル・ブリガム(Mass General Brigham)に所属する栄養学者Daniel Wang氏らの研究チームによって実施されたものです。
研究では、合計131,821人(女性86,606人、男性45,215人)の健康データが解析されています。
対象となったのは、1980年代に開始された2つの大規模前向きコホート研究、すなわち「Nurses’ Health Study」と「Health Professionals Follow-up Study」に参加していた医療従事者です。
参加者は最大で43年間追跡され、2〜4年ごとに実施される食事頻度調査票(food frequency questionnaire)により、カフェイン摂取量が評価されました。
さらに、記憶力や注意力などの変化について自己申告が行われ、一部の約17,000人は電話による認知機能検査も複数回受けています。
カフェイン摂取量が多い人は認知症リスクが18%低い
追跡期間中、11,033人が認知症を発症しました。
解析から、以下のグラフに示される結果が得られました。
Coffee and Tea Intake, Dementia Risk, and Cognitive Functionより ・カフェイン摂取量が最も多い群は、最も少ない群と比較して認知症発症リスクが18%低い
・カフェイン入りコーヒーを飲んでいる人では、自己申告による認知機能低下の割合が7.8%であり、コーヒーを飲まない人の9.5%よりもやや低い
一方で、電話による客観的な認知機能テストの総合スコアでは、統計的に有意な差は認められませんでした。
この点については、主観的評価と客観的評価の間に乖離がある可能性があり、解釈には慎重さが求められます。
「コーヒー2~3杯 or 紅茶1~2杯」が適量

研究では、最も認知機能に良い影響がみられたのは、1日あたりコーヒー2〜3杯、あるいは紅茶1〜2杯程度の摂取量であることが示されています。
摂取量が増えても有害な影響は確認されませんでしたが、効果は一定の水準で頭打ちになり、それ以上の明確な利益は示されませんでした。
この結果は、1日6杯以上のコーヒー摂取が認知症リスク上昇と関連していると報告した過去の研究とはやや異なる傾向を示しています。
したがって、過剰摂取が完全に安全であると結論づけることはできません。
デカフェでは効果がみられず
興味深い点として、デカフェ(カフェインレス)飲料では同様の関連は認められませんでした。
このことから、保護効果の中心的要因はポリフェノールなどではなく、カフェインそのものである可能性が示唆されています。
ただし、この点についてはメカニズムの詳細が解明されているわけではなく、今後の研究が必要です。
遺伝的リスクにかかわらず効果は同様
本研究では、認知症の遺伝的リスクが高い人と低い人を比較した解析も行われました。
その結果、遺伝的素因の違いにかかわらず、カフェイン摂取による関連は一貫して確認されたと報告されています。
他の研究との整合性
今回の結果は、近年の他の大規模研究とも一定の整合性を示しています。
例えば、UK Biobankの20万人超を対象とした解析では、カフェイン入りかつ無糖のコーヒーを飲む人は、飲まない人と比べてアルツハイマー病の発症リスクが34%、パーキンソン病のリスクが37%低いことが報告されています。

また、1日3杯のコーヒー摂取が平均寿命を約2年延ばす可能性を示唆した研究(コーヒー企業との利益相反あり)や、高血圧患者において1日4〜5杯の紅茶摂取が認知症リスク低下と関連した研究もあります。
しかしながら、これらはいずれも観察研究であり、因果関係を直接証明するものではありません。
本研究では食事、既往歴、家族歴などの交絡因子が統計的に調整されていますが、それでもなお、未測定の生活習慣や社会経済的要因が影響している可能性は否定できません。
また、自己申告によるカフェイン摂取量の測定には誤差が含まれる可能性があります。
したがって、「カフェインが認知症を予防する」と断定することはできません。
カフェインはアデノシン受容体拮抗作用を持ち、神経炎症の抑制や神経保護作用を示す可能性があるとする基礎研究もあります。
しかし、本研究では生物学的メカニズムの直接的な検証には至っていません。
したがって、作用機序については現段階では仮説レベルであることには注意が必要です。
まとめ
・1日2〜3杯のコーヒー、または1〜2杯の紅茶の摂取は、認知症リスク18%低下と関連していた
・デカフェでは同様の関連が認められず、カフェインそのものが関与している可能性がある
・ただし観察研究であり、因果関係は確定していません。過度な摂取を推奨するものではない


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