かつては「ちょっとした暇つぶし」にすぎなかったインターネットでの動画視聴。
現在ではTikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsといったショート動画プラットフォームが増え、多くの子どもたちの日常生活の一部になっています。
これらのサービスは、笑いや流行、他者とのつながりを素早く提供する点で親しみやすく感じられますが、その一方で、連続的な高速スクロールを前提とした設計は、特に子どもにとって制御が難しい側面を持っています。
これらのアプリは、そもそも子どもの利用を想定して設計されたものではありません。
それにもかかわらず、多くの子どもが日常的に、しかも一人で利用しているのが現状です。
ショート動画は、アイデンティティの形成や興味関心の拡大、友人関係の維持に役立つ場合もありますが、別の子どもにとっては、睡眠の質を乱し、生活の境界を曖昧にし、考えたり人と深く関わったりする時間を奪う要因にもなり得ます。
今回のテーマは、そんなショート動画が与える影響についてです。
参考記事)
・Short Videos Could Have an Insidious Effect on Children’s Brains(2025/12/14)
参考研究)
・Adolescents’ short-form video addiction and sleep quality: the mediating role of social anxiety(2024/06/28)
問題は「視聴時間」ではなく「使い方のパターン」

ショート動画の問題は、単に「何分見たか」という量的な問題ではなく、スクロールが止められなくなるような使用パターンにあります。
無意識のうちに指が動き続け、やめようと思ってもやめられない状態は、次第に睡眠、気分、注意力、学業成績、人間関係に影響を及ぼすようになります。
ショート動画は一般的に15秒から90秒程度と非常に短く、脳が新奇性を求める性質を巧みに刺激するよう設計されています。
画面を一度スワイプするだけで、ジョーク、いたずら、驚きの映像など、まったく異なる内容が次々と現れ、そのたびに脳の報酬系は即座に反応します。
さらに、フィードはほとんど停止することがありません。
そのため、本来であれば注意力をリセットするために必要な「自然な区切り」が失われます。
この状態が長期化すると、衝動の抑制や持続的な集中力が弱まる可能性があると考えられています。
実際に、2023年に発表された71件の研究、約10万人の参加者を対象とした分析では、短尺動画の大量利用と、抑制制御の低下や注意持続時間の短縮との間に中程度の関連が認められたと報告されています。
ただし、これは因果関係を直接示すものではなく、相関関係にとどまる点には注意が必要です。
注意力の乗っ取りと睡眠への影響

短尺動画の影響が最も顕著に表れる領域の一つが睡眠です。
現在、多くの子どもが就寝前の時間にスマホやタブレットなどのスクリーンを見ています。
画面から発せられる強い光は、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を遅らせ、入眠を困難にします。
しかし問題は光だけではありません。短時間で感情を大きく揺さぶるコンテンツが連続することで、脳が興奮状態から抜け出せなくなるのです。
最近の研究では、一部の10代において、短尺動画の過剰利用が睡眠の質の低下や社会不安の増加と関連していることが示されています。
睡眠の乱れは、気分の安定性、ストレス耐性、記憶力に影響を及ぼし、特にプレッシャーや不安を抱えやすい子どもにとっては、悪循環を生み出す原因となります。
比較文化と自己評価への影響
ショート動画は、睡眠以外にも心理面に影響を及ぼします。
絶え間なく流れる同年代の映像や「理想化された生活」は、比較意識を強めます。
特にプレティーン期の子どもは、人気、外見、成功といった非現実的な基準を内面化しやすく、自己肯定感の低下や不安感につながる可能性があります。
もっとも、こうした影響は短尺動画に限った話ではなく、他のソーシャルメディアにも共通する問題である点は明記しておく必要があります。
より幼い子どもほど影響を受けやすい
研究の多くは10代を対象としていますが、より幼い子どもは自己制御能力が未発達で、アイデンティティも不安定なため、短尺動画の感情的な引力に特に影響を受けやすいと考えられています。
短尺動画アプリの設計は、子どもが意図していなかった内容に触れてしまうリスクも高めます。
動画は即座に再生され、自動的に次へと進むため、暴力的な映像、有害なチャレンジ、性的な内容が、理解や回避の時間がないまま表示されることがあります。
長尺動画や従来型の投稿と異なり、短尺動画には文脈、警告、心の準備を促す要素がほとんど存在しません。
一度のスワイプで、ふざけた内容から不穏な映像へと急転換することもあり、これは発達途中の脳にとって特に強い刺激となります。
これらのコンテンツは必ずしも違法ではない場合もありますが、子どもの発達段階にふさわしくない可能性があります。
アルゴリズムは、ほんの一瞬の視聴からでも嗜好を学習し、似た内容をさらに強化して表示することがある点も問題です。
影響には個人差がある

すべての子どもが同じように影響を受けるわけではありません。
不安傾向、注意の困難さ、感情の不安定さを抱える子どもほど、強迫的なスクロールや気分の変動を経験しやすいことが示唆されています。(Longitudinal associations between digital media use and ADHD symptoms in children and adolescents: a systematic literature reviewより)
注意欠如・多動症(ADHD)を持つ子どもや若者は、テンポの速いコンテンツに特に引きつけられやすく、同時に、過剰利用が自己制御をさらに難しくする可能性があるという「循環的な関係」も指摘されています。
ただし、この点については因果関係が完全に解明されているわけではなく、今後の研究が必要です。
いじめ、家庭内の不安定さ、ストレス、睡眠不足などを抱える子どもが、感情をやり過ごす手段として深夜のスクロールに頼るケースもあります。
子ども時代に失われやすい「何もしない時間」
子ども時代は、人間関係の築き方、退屈への耐性、不快な感情との向き合い方を学ぶ 重要な時期です。
しかし、あらゆる静かな瞬間が即時的な娯楽で埋め尽くされると、空想したり、遊びを考え出したり、家族と会話したり、思考を自由に巡らせたりする機会が失われます。
何も予定のない時間は、心を落ち着かせ、内的な集中力を育てるために不可欠です。
この時間が不足すると、そうした力が十分に育たない可能性が指摘されています。
政策と家庭での対応の広がり
イギリスでは、学校教育にオンライン安全とデジタルリテラシーを組み込む新たな法定ガイドラインが導入されています。
一部の学校では、授業中のスマートフォン使用を制限する動きも進んでいます。
また、Amnesty Internationalなどの団体は、より安全な初期設定、年齢確認の強化、アルゴリズムの透明性向上をプラットフォーム側に求めています。
家庭では、対話が重要です。
親が子どもと一緒に動画を見て、なぜその内容が魅力的に感じられるのか、見た後にどんな気持ちになったのかを話し合うことで、子ども自身が自分の利用習慣を理解しやすくなります。
寝室に端末を持ち込まない、スクリーン利用の終了時刻を家族で共有するといったシンプルなルールも、睡眠を守り、深夜のスクロールを減らす助けになります。
加えて、オフラインの遊び、趣味、スポーツ、友人との時間を大切にすることが、健全なバランスにつながります。
ショート動画は、創造的で、面白く、安心感を与える側面も持っています。
適切な支援、政策的対応、安全性を重視した設計があれば、子どもたちは健全な発達を損なうことなく、これらのコンテンツを楽しむことが可能でしょう。
まとめ
・ショート動画の問題は視聴時間よりも、止めにくいという性質にある
・睡眠、注意力、自己評価への影響は特に発達途中の子どもで顕著になりやすい
・家庭での対話と社会的な安全設計の両立が、健全な利用には不可欠である

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