サフランは、クロッカス・サティバス(Crocus sativus L.)という花のめしべから作られるスパイスであり、世界でもっとも高価な香辛料の一つとして知られています。
和名では番紅花、蔵紅花と呼ばれ、漢方としても長らく使用されてきました。
身近でいうとサフランライスなどとして料理に使用されており、独特の香りと鮮やかな色合いを与える存在です。
そんなサフランですが、近年ではそれ以上に、抗酸化作用や抗炎症作用を中心とした健康効果に注目が集まっています。
実際、糖尿病、抑うつ、不安、認知機能低下、加齢性眼疾患、心血管リスク、睡眠の質など、さまざまな健康分野においてサフランの有用性を示唆する研究報告が増えており、その効能について深掘りが進められている所です。
ただし、これらの知見の多くは小規模研究やレビュー論文に基づくものであるため、その効果の解明にはしばらく時間が必要という未来あるスパイスでもあります。
今回のテーマはそんな世界一高価と言われるスパイスについて、Science Alertの記事を参考にまとめます。
参考記事)
・What Happens to Your Body When You Add Saffron to Your Diet(2025/12/13)
参考研究)
・Phytochemistry, quality control and medicinal uses of Saffron (Crocus sativus L.): an updated review(2023/04/17)
強力な抗酸化物質

サフランには、カロテノイド類(クロシン、クロセチン)やテルペン類(サフラナール)といった抗酸化成分が豊富に含まれています。
これらの物質は、体内で発生する活性酸素を抑制し、酸化ストレスによる細胞障害を軽減する可能性があるとされています。
2019年に実施された、二型糖尿病患者80人を対象とした研究では、1日100mgのサフランを12週間摂取した群において、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒド(MDA)が有意に低下したことが報告されています。
この結果は、サフランが慢性炎症や糖尿病関連合併症のリスク低減に寄与する可能性を示唆しています。
ただし、この研究は被験者数が限られており、長期的影響については十分に検証されていない点が限界として挙げられます。
気分の改善や、うつ・不安症状の軽減
サフランは、天然の抗うつ補助療法としても注目されています。
いくつかの臨床試験では、軽度から中等度のうつ症状に対して、サフランが抗うつ薬と同程度の効果を示したと報告されています。
その背景には、サフランに含まれるクロシンやサフラナールが、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンといった神経伝達物質の再取り込みを抑制する作用が関与していると考えられています。
これにより、脳内の「幸福感に関与する化学物質」の濃度が高まり、気分の安定につながる可能性があります。
ただし、これらの研究の多くは短期間であり、また被験者数も限定的です。
そのため、医師の診断や治療の代替としてサフランを用いるべきではない点は明確にしておく必要があります。
認知機能や脳の健康
サフランは、軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー病患者において、記憶力や日常生活機能の改善と関連した報告もあります。
2021年に発表されたレビュー論文では、サフランの抗酸化・抗炎症作用が、神経細胞の保護を通じて脳機能を支える可能性があると指摘されています。
一方で、研究結果には一貫性がなく、改善効果が明確に確認されていない試験も存在します。
そのため、認知症予防や治療効果については、現時点では補助的可能性にとどまると評価するのが妥当です。
目の健康(加齢性黄斑変性症など)
サフランは、高齢者の視力低下の主要因である加齢性黄斑変性症(AMD)に対しても研究が進められています。
一部の研究では、サフランの摂取によって視機能が改善したり、糖尿病性黄斑症の患者で視力の向上が見られたと報告されています。
目の疾患の多くは慢性的な炎症と関連しているため、サフランの抗炎症作用が疾患進行を抑制する可能性があると考えられています。
ただし、これらの研究もサンプルサイズが小さく、標準治療の代替にはなり得ません。
心血管の健康維持
2021年に発表された19件の研究をまとめたレビューでは、サフランの摂取が、拡張期血圧、空腹時血糖値、LDLコレステロール、総コレステロールの低下と関連していたと報告されています。
これらの因子はいずれも心疾患リスクと深く関係しており、サフランが心血管疾患予防の補助的手段となる可能性が示唆されています。
ただし、生活習慣全体の改善なしに、サフラン単独で心疾患を防げるというエビデンスは存在しない点には注意が必要です。
睡眠の質向上
5件の研究、合計379人を対象としたレビューでは、サフランを含む介入が睡眠の質や睡眠時間を改善したと報告されています。
研究者らは、サフランがメラトニン分泌を高める可能性や、特定の脳内受容体に作用する可能性を指摘しています。
ただし、研究数が限られており、用量や長期的安全性については、さらなる検証が必要です。
栄養成分と安全性について

サフランは少量で使用されるため、ビタミンやミネラルの主要供給源ではありませんが、マンガンを比較的多く含む点が特徴です。
マンガンは代謝、免疫、神経機能、血液凝固に関与します。
通常の料理使用量では安全とされていますが、高用量摂取では不安、めまい、吐き気などの副作用が報告されています。
妊娠中・授乳中の高用量摂取やサプリメント使用については、安全性が確立していないため注意が必要です。
まとめ
・サフランは抗酸化・抗炎症作用を通じて、脳、心臓、目、睡眠など多方面の健康を補助することが多くの研究によって示唆されている
・しかし、研究は小規模であり、効果は補助的と考えた方が良い
・通常の料理使用量では安全ですが、高用量摂取やサプリメント利用には注意が必要

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