日常的に飲まれるコーヒーが、ただの嗜好品にとどまらず、重度の精神疾患を持つ人々の細胞レベルでの老化を遅らせる可能性が示されたという興味深い研究が報告されています。
とりわけ、1日に3〜4杯程度の中等量のコーヒーを飲むことで、テロメアと呼ばれる細胞の老化指標が長く保たれる傾向が認められ、結果として生物学的な「若さ」に結びつく可能性があるとされています。
一方で、5杯以上の多量摂取になると、この効果が消失し、むしろ細胞ストレスを高める方向に働く可能性が指摘されるなど、摂取量に応じて効果が大きく変わる点も注目されます。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Daily coffee may slow biological aging in mental illness(2025/12/05)
参考研究)
・Coffee intake is associated with telomere length in severe mental disorders(2025/11/25)
コーヒー摂取とテロメアの関係:なぜ精神疾患と関連するのか
人間の染色体の末端に存在するテロメアは、靴紐の先端についたプラスチックのチップのような役割を持ち、遺伝子情報を保護する重要な働きをしています。
テロメアは年齢とともに必然的に短くなっていきますが、精神疾患、とくに統合失調症、双極性障害、精神病性うつ病などの重度の精神状態では、このテロメア短縮が通常より早く進行することが知られています。
研究チームは、テロメアは食事などの環境因子によっても影響されることから、コーヒーのような日常的に摂取される食品がテロメアの短縮速度に関与するかどうかを検証しました。
コーヒーは抗酸化作用・抗炎症作用を持つ化合物が豊富であり、適量摂取が健康に寄与する可能性が広く議論されているため、「精神疾患と細胞老化」というテーマにおいても重要な研究対象となりました。
研究参加者とコーヒー習慣の調査

本研究は、ノルウェーで実施されたThematically Organised Psychosis(TOP)研究に参加した436名の成人データを利用しており、期間は2007年から2018年までとされています。
内訳は、259名が統合失調症、177名が双極性障害または精神病性うつ病などの感情障害を持つ人々です。
参加者は自身のコーヒー摂取量を申告し、以下の4つの群に分類されました。
• 0杯(44名)
• 1〜2杯
• 3〜4杯(110名)
• 5杯以上
また、喫煙習慣についても調査されました。
喫煙はカフェイン代謝を早めるため、コーヒーの影響を評価する際には重要な要素となります。
研究対象者のうち約77%(337名)が喫煙者であり、平均喫煙歴は9年でした。
特に5杯以上飲む群では喫煙歴も長かったようで、この点が結果に影響を与えた可能性があることは否定できず、研究者もその点について明確に注意を促しています。
なお、統合失調症の参加者は、感情障害を持つ参加者よりも平均的にコーヒーの消費量が多いという特徴も見られました。
テロメア長の測定と結果:J字型の関連を示す興味深いパターン
研究者たちは、採血した白血球(白血球:leucocytes)からテロメアの長さを計測し、コーヒー摂取量との関連を解析しました。
その結果、摂取量とテロメア長の関係が「J字型」を描くような特徴的なパターンとなることが分かりました。
特に注目されるのは以下の点です。
Coffee intake is associated with telomere length in severe mental disordersより • 3〜4杯の中等量摂取群では、コーヒーを全く飲まない群よりもテロメアが長かった。
• しかし5杯以上の多量摂取群では、この関連は完全にみられなくなった。
さらに1日4杯飲む参加者は、コーヒーを飲まない人に比べて、生物学的に約5歳若い状態に相当するテロメアの長さを示していました。
この評価は、年齢・性別・民族・喫煙歴・精神疾患の種類・治療内容といった要因を調整したうえで算出されたものです。
ただし、これらの分析結果が「因果関係」を示すものではない点は極めて重要です。本研究は観察研究であり、コーヒーが直接的にテロメアを延ばすとは断定できません。
生物学的メカニズムの考察
研究者たちは、コーヒーに含まれる抗酸化物質や抗炎症性化合物が細胞を保護する可能性に注目しています。
テロメアは酸化ストレスや炎症に非常に敏感であるため、これらのストレス因子を抑える食品がテロメア短縮を遅らせる可能性があると考えられます。
論文では次のように述べられています。
テロメアは酸化ストレスと炎症の両方に非常に敏感であり、 コーヒーの摂取が、病態生理学の老化促進の原因やそれに関係する細胞の老化を維持するのにどのように役立つかを強調する。
ただし、このメカニズムに関する証拠はまだ探索段階であり、生物学的作用の詳細については明確ではありません。
また、コーヒーの種類、焙煎の深さ、飲むタイミング、カフェイン含有量、他のカフェイン飲料の摂取状況などの重要な情報が研究では取得されていないため、結論には曖昧な点も残されています。
コーヒー摂取量に関する国際的指針

コーヒーは世界的に最も消費されている飲料の一つであり、2021–2022年には約105億6000万キロが消費されたとされています。
この普及率の高さを踏まえると、コーヒー摂取が健康に及ぼす影響への関心は大きく、国際的に摂取基準が設定されています。
イギリスのNHSや米国食品医薬品局(FDA)は、1日のカフェイン摂取量を400mg以下(約4杯のコーヒー)に抑えることを推奨しています。
これは今回の研究で効果が見られた3〜4杯という範囲と一致しており、適量摂取の重要性を裏付けるものといえます。
一方で、研究者たちは次のように警告しています。
「1日の推奨量を超えるコーヒーを摂取すると、活性酸素種の形成を通じて細胞の損傷やテロメアの短縮を引き起こす可能性もある。」
つまり、過剰摂取は逆効果であり、細胞にダメージを与える可能性があるため注意が必要です。
まとめ
・3〜4杯の適量コーヒー摂取は、重度の精神疾患を持つ人々においてテロメア短縮を抑える傾向がみられ、生物学的老化の指標が若く保たれる可能性があることが示された
・しかし、5杯以上の多量摂取ではこの利益は失われ、むしろ細胞ストレスを増加させる可能性があることも指摘された
・研究は観察研究であり、因果関係を断定できない点、コーヒーの種類や飲み方などの詳細データが不足している点など、結論には曖昧な部分もある




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