冬になると鬱気味に…、それはサボりなどではなく病気の症状かも?── 季節性情動障害(SAD)

科学
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季節性情動障害(Seasonal Affective Disorder: SAD)は、季節の移り変わりとともに気分が落ち込み、日常生活に大きな支障をきたす精神疾患です。

 

特に冬季に悪化する「冬季型SAD」がよく知られていますが、夏季に強い不安や不眠、食欲低下が生じる「夏季型SAD」も存在し、そのメカニズムはいまだ完全には解明されていません。

  

日照時間の変動、ホルモンバランスの乱れ、体温調節機能の変化、あるいは神経伝達物質の働きなど、複数の要因が複雑に関与している可能性が指摘されています。

  

また、環境要因だけでなく、個人の遺伝的背景や生活習慣も症状に影響を及ぼすと考えられており、近年は脳機能の変化や睡眠パターンの異常に着目した研究も進んでいます。

  

しかし、現時点で明確に確立された理論はなく、治療方法についても光療法、薬物療法、生活習慣の調整などが併用されることが多いものの、最適解は人によって異なります。

 

このように、SADは一般的に理解されている以上に多面的で、科学的にも課題の多い疾患です。

  

今回は、そんな季節と感情の疾患をテーマとして研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

What Is Seasonal Affective Disorder?(2025/11/20)

Seasonal Affective Disorder

  

参考研究)

Seasonal Affective Disorder: An Overview of Assessment and Treatment Approaches(2015/11/25)

 

  

季節性情動障害の2つのタイプ

  

先ほども述べたように、季節性情動障害には冬型と夏型の2種類が存在します。

  

【冬季型SAD(Winter-pattern SAD)】

冬季型は最も一般的なタイプで、多くの人が12月頃から症状を感じ始めます。

 

1月から2月にかけて症状のピークを迎えることが多く、3月頃になると日照時間の増加とともに軽減していきます。

 

主な症状は、強い疲労感、過眠、食欲増加、特に炭水化物への強い渇望、そして社会的な引きこもりです。

  

  

【夏季型SAD(Summer-pattern SAD)】

夏季型はまれなタイプですが、存在が確認されています。

 

このタイプでは、6月頃に症状が現れ始め、9月頃に和らぎます。

  

主な症状は、食欲低下、不眠、不安感、体重減少などで、冬季型とは正反対の傾向を示します。

 

 

共通してみられる症状

季節にかかわらず、SADの人にみられる一般的な症状には次のようなものがあります。

 

• 強い悲しみ、空虚感、無価値感、絶望感

• 集中困難

• 極度の疲労

• 動作が遅くなる、身体の重さ

• 基礎疾患とは無関係な身体痛

• 興味や喜びの喪失

  

こうした症状の違いは、光・気温・生活リズムの変化との関連が推測されていますが、その詳細な因果はまだ研究段階です。

 

 

要因:日照不足とホルモンの変化 

  

冬季型のSADの原因として、次のような生物学的要因が考えられています。

  

ただし、これらは仮説段階のものも多く、特に夏季型については研究が不足しているため、明確に確立された理論ではない点に注意が必要です。

 

・セロトニンの減少

日光は脳内のセロトニンを調節する分子に影響を与えることが示唆されており、日照不足によってセロトニンが減少すると気分が落ち込みやすくなると考えられています。

 

・ビタミンDの低下

ビタミンDは日光を浴びることで体内で生成することが可能です。

ビタミンD欠乏はうつ症状と関連があるという報告もありますが、因果関係はまだ議論中です。

 

・メラトニンの増加

メラトニンは睡眠サイクルを担うホルモンですが、季節変化によってその分泌量が変化し、冬季には過剰に分泌されることで過眠や倦怠感を招く可能性があります。

 

また、以下の人はSADを発症するリスクが高いとされています。

• 女性

• 18〜30歳

• 赤道から遠い地域に住む

• うつ病や双極性障害など既存の精神疾患がある

 

  

医療者の視点における診断基準としては以下が参考とされています。

• 症状に季節性のパターンがあるか

• 症状が3〜5ヶ月持続しているか

• 少なくとも2年以上、繰り返し季節変動が見られるか

  

   

治療方法

 

季節が変われば改善することも多いものの、治療によって症状を早期に軽減することができます。

   

【光療法(Light Therapy)】

冬季型のSADに最も一般的に用いられる治療法です。

10,000ルクスの強度を持つ専用ライトを使用し、毎日30〜45分ほど光を浴びます。多くの医師は、秋の終わりから春の初めまで継続することを推奨しています。

  

【心理療法(Psychotherapy)】

とくに認知行動療法(CBT for SAD)は、SADに特化して開発されたアプローチで、否定的思考の修正や行動活性化を促す点に特徴があります。

 

【抗うつ薬】

セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が最も一般的で、特に効果が報告されているものとして以下が挙げられています。

• Prozac(fluoxetine)

• Zoloft(sertraline)

 

【ビタミンD補充】

ビタミンDサプリによって症状が改善するかどうかは研究結果が一致しておらず、効果は不明確です。ただし、医師の判断のもとで試す価値がある場合もあります。

 

【予防とセルフケ】

冬季型SADでは、秋のうちに治療や運動習慣を始めておくと効果的だとされています。

夏季型では、春の段階で食事管理や睡眠環境の工夫(遮光カーテン、ホワイトノイズマシン)を始めることが推奨されます。

 

 

関連しやすい疾患

SADはしばしば次の疾患と共存します。

• うつ病

• 双極性障害

• ADHD

• 摂食障害

• 全般性不安障害

• パニック障害

 

 

季節性情動障害とともに生きる

SADと診断されても、適切な治療と早期の対策により、季節に左右されず安定した生活を送ることは十分可能です。

 

冬や夏に症状が強くなることを理解し、周囲の人や医療者に相談することで、最もつらい時期を乗り越える力になります。

 

また、「症状は永遠に続くものではない」という認識を持つことが、精神的な負担を和らげる助けとなります。

 

 

まとめ

・SADは日照不足や季節変化と関連するが、原因は完全には解明されていない部分も多い

・冬季型と夏季型があり、症状・原因・治療法が異なる

・光療法、認知行動療法、薬物療法が有効であり、季節前の予防的ケアも重要

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