コーヒー摂取が心房細動に与える影響を再考── 国際チームによる初のランダム化比較試験より

科学
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コーヒーといえば、その香りや味を楽しむとともに、覚醒作用をもたらし心拍数を上昇させる飲み物として知られています。

  

そのため、不整脈の一種である心房細動を患う人々には「コーヒーを控えるべき」と長らく助言されてきました。

  

しかし、この言葉に反する識臨床研究が報告されていることも興味深い飲み物でもあります 。  

     

オーストラリア・アデレード大学を中心とした国際研究チームによる最新の試験結果から、コーヒーを飲む人のほうが、心房細動の再発リスクがむしろ低いという結果が得られました。

  

今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。

  

参考記事)

Coffee Study Challenges Advice on Common Heart Condition(2025/11/11)

参考研究)

Caffeinated Coffee Consumption or Abstinence to Reduce Atrial Fibrillation(2025/11/09)

 

 

世界中で増加する「心房細動」

 

心房細動は、心臓の拍動を司る電気信号が乱れることで、心房が不規則かつ速く動く病態です。

 

これにより心臓全体の拍動が不規則になり、血液循環が不安定になります。結果として、脳梗塞や心不全のリスクが高まることが知られています。

 

世界的には数千万人がこの疾患に苦しんでおり、特に高齢化・肥満・糖尿病・過度の飲酒などが主な危険因子とされています。

  

これまで多くの医師は、カフェインによる心拍数上昇や興奮作用が不整脈を悪化させるのではないかと懸念しており、患者に対して「コーヒーを控える」よう指導してきました。

 

しかし、この助言が本当に科学的根拠に基づくものなのかについては、はっきりとした結論が出ていませんでした。

 

 

研究デザイン──200人を対象とした6か月間の臨床試験

今回の研究は、アメリカ、カナダ、オーストラリアの3か国で行われた無作為化比較試験(ランダム化臨床試験)です。

  

対象となったのは、心房細動の治療の一環として電気的除細動(electrical cardioversion)を受ける予定の200名の患者です。

  

参加者全員がコーヒーの飲用経験を持つ人々であり、半数は「6か月間コーヒーを一切飲まないという指示を受け、残りの半数は1日1杯以上のコーヒーを飲む」という条件のもとで生活しました。

  

研究者たちはこの6か月間、30秒以上続く心房細動の再発をモニタリングしました。

   

その結果、コーヒーを飲んでいたグループでは47%が再発を経験したのに対し、コーヒーを控えたグループでは64%が再発を経験しました。

  

Caffeinated Coffee Consumption or Abstinence to Reduce Atrial Fibrillationより

  

これは、コーヒー摂取者のほうが39%も再発リスクが低いという結果を意味します。

 

 

研究者の見解

研究を主導したアデレード大学の心臓専門医Christopher Wong氏は、この結果について次のように述べています。

 

結果は非常に驚くべきものだった。従来の常識とは対照的に、コーヒーを飲む人々はコーヒーを避けた人々に比べて心房細動の発生率が有意に低下していた。

   

この研究は、カフェインが心房細動を引き起こすか否かという長年の議論に対して、新たな視点を提供するものです。

 

これまでの研究結果は一貫しておらず、明確な結論が得られていませんでしたが、今回の試験は初めてのランダム化比較試験(RCT)として、このテーマに科学的な裏付けを与えました。

 

 

なぜコーヒーで心房細動が減るのか

 

研究チームは、今回の結果を説明する可能性のある複数の仮説を挙げています。

 

第一に、コーヒーが運動パフォーマンスを向上させる作用を持つことが知られており、適度な身体活動の増加が心房細動の発作を防ぐ効果につながった可能性があります。

 

ただし、本研究では食事内容や運動量についての詳細なデータは収集されておらず、この点については因果関係が不明確であると研究者は注記しています。

 

第二に、コーヒーには利尿作用と抗炎症作用があることが分かっています。

 

利尿作用によって体内の余分な水分が排出されることで血圧が低下し、さらに抗炎症作用によって血管の炎症やストレスが軽減される可能性があります。

 

高血圧は心房細動の主要な危険因子の一つであり、これらの生理的効果が結果に寄与した可能性があります。

  

第三の仮説として、コーヒーを飲む人々が他の「不健康な飲料」を摂取しにくくなった可能性も指摘されています。

 

例えば、砂糖入りの炭酸飲料やアルコールなどをコーヒーが置き換える形になっていたのかもしれません。

 

もっとも、これらの可能性については研究では直接検証されていません。

 

 

心房細動の拡大と今後の課題

心房細動は、世界的にその患者数が増加している心疾患の一つです。

 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の心臓専門医であり電気生理学者のGregory Marcus氏は次のようにコメントしています。

 

心房細動の患者数は増加傾向にあり、その発症リスクは加齢とともに高まる。したがって、この疾患の負担を減らす方法への関心は非常に高い。

 

本研究の結果は、コーヒー摂取が直接的に心房細動を防ぐ「原因」となることを証明するものではありません

 

相関関係を示したにすぎず、因果関係の解明にはさらなる研究が必要です。

 

それでも、これまでの「カフェインは避けるべき」という助言を見直すきっかけとなる可能性があります。

 

 

カフェインを完全に避ける必要はないかもしれない

 

Marcus氏は次のように述べています。

 

医療従事者が心房細動の患者に対して、コーヒーや紅茶といった天然のカフェイン飲料を適度に試すことを勧めるのは、合理的なアプローチと言える。

 

ただし彼は同時に、一部の人では依然としてカフェインやコーヒーが発作を誘発したり悪化させる可能性があることを強調しました。

 

したがって、患者ごとに個別の反応を慎重に見極める必要があります。

 

 

「コーヒー=不整脈悪化」という常識に再考を

本研究は、従来の医療的常識に一石を投じる重要な成果です。

 

コーヒーの摂取が心房細動の再発リスクを低下させる可能性を示唆したことは、今後の治療方針や生活指導に新たな選択肢を与えるものです。

 

ただし、まだサンプル数が限られていることや、生活習慣の違いが結果に影響している可能性など、今後の検証が不可欠です。

 

研究チームは今後、もともとコーヒーを飲まない人々への影響や、他のカフェイン飲料(紅茶やエナジードリンクなど)との関連についても調査を進める予定です。

 

 

まとめ

・コーヒー摂取者は心房細動の再発リスクが39%低下

・アデレード大学を中心とする国際チームによる初のランダム化比較試験

・カフェイン摂取の是非を再検討すべき科学的根拠が提示された

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