超加工食品の摂取と肺がんリスク上昇の関連性:新たな研究が

科学
科学
この記事は約7分で読めます。

ホットドッグやキャンディー、インスタント麺、清涼飲料水などなど、今ではどこでも入手ができる超加工食品。

 

日本では2023年に東京大学が行った調査では、普段の食事の中に占める超加工食品の割合は、少なくとも27.9%、多くとも42.4%と考えられています。(Highly Processed Food Consumption and Its Association with Anthropometric, Sociodemographic, and Behavioral Characteristics in a Nationwide Sample of 2742 Japanese Adults: An Analysis Based on 8-Day Weighed Dietary Recordsより

 

これはフランスやオーストラリア、メキシコでも同じ程度の割合とされる一方、アメリカではこうした食品が食事の約55%を占めていると考えられています。

 

今回はそんなアメリカが、食事に対する懸念を払拭するべく行った研究がテーマです。

 

これまでにも、超加工食品は肥満や心疾患、糖尿病、さらには大腸がんや乳がんといった疾患リスクの上昇と関連づけられてきました。

 

そして今回、研究から肺がんリスクの増加との関連が報告されました。

 

この研究結果は、喫煙を経験したことがない人においてもリスクが上昇していたことから、食生活が肺がん発症に果たす役割について、改めて注目が集まっています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Eating More Ultra-Processed Foods Linked to Higher Lung Cancer Risk—Even If You’ve Never Smoked(2025/08/21)

 

参考研究)

Association between ultra-processed food consumption and lung cancer risk: a population-based cohort study(2025/07/20)

 

 

研究の概要と背景

研究チームはアメリカのProstate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Trial前立腺がん、肺がん、結腸直腸がん、卵巣がんスクリーニング試験)のデータを活用しました。

 

この大規模調査には55歳から74歳の約10万2千人が参加しており、一度きりの食事アンケートから超加工食品の摂取量を推定しました。

 

平均的な摂取量は1日あたり約3サービングで、少ない人は0.5サービング、多い人は6サービングを超えていました。

 

その後、摂取量に応じて参加者を4つのグループに分け、約12年間にわたって追跡調査を行いました。

  

その結果、1,706人が新たに肺がんを発症していたことが示されました。

 

全国的な傾向と同様に、多くは非小細胞肺がんであり、約14%はより進行の早い小細胞肺がんでした。

 

解析の結果、最も多く超加工食品を摂取していたグループは、最も少なかったグループに比べて肺がん発症リスクが41%高いことが判明しました。

 

特に、非小細胞肺がんの発症リスクは37%増加、小細胞肺がんのリスクは44%増加していました。

  

さらに重要なのは、この傾向が喫煙者・非喫煙者の双方で確認されたという点です。

 

  

超加工食品とは何か 

 

研究で対象とされた超加工食品は、私たちの家庭でもよく見かけるものばかりで、具体的には以下のような食品群が挙げられました。

• ホットドッグ、ハンバーガー、ピザ

• 菓子パンやペイストリー

• 清涼飲料水や加糖フルーツドリンク

• インスタントラーメンや即席スープ

• シリアルやスナック菓子

• キャンディーやアイスクリーム、マーガリン

• 市販ソースやクリームチーズ

 

これらの食品は、原料となる食材を大きく加工し、添加物や人工甘味料、保存料などを多用して製造されます。

 

一般的に 高カロリーで食べやすく、塩分や脂質、糖分を多く含む一方で、食物繊維や栄養素に乏しい のが特徴です。

  

もちろん、すべての超加工食品が「悪」とされるわけではありません。

 

ヨーグルトやフムス、全粒粉パンなど、健康的な選択肢も含まれています。

 

しかしながら、今回の研究で指摘された食品群は、いずれも栄養価が低く加工度の高い種類のものでした。

 

 

なぜ肺がんリスクが上昇するのか 

喫煙は依然として肺がんの最大のリスク要因ですが、近年の研究では、空気汚染やアスベスト、ラドン、受動喫煙なども関与することが明らかになっています。

 

そして今回、食事もまたリスクに影響する可能性が浮かび上がりました。

  

ハーバード大学公衆衛生大学院ダナ・ファーバー研究所のTim Rebbeck博士は、「UPFとがんの関連はまだ研究途上だが、私たちが口にする食べ物が発がんリスクに影響するという重要な証拠になり得る」と今回の結果について指摘しています。

 

一方、カリフォルニア大学のDavid Geffen School of Medicine博士は、「人体は本来『自然の食品』を代謝するように設計されているが、加工度の高い食品は炎症や代謝異常を引き起こす可能性がある」と説明しています。

 

特に保存料や添加物が多く含まれる食品は、体内で慢性的な炎症を誘発する恐れがあると考えられます。

  

ただし、現時点では 具体的なメカニズムは不明 であり、「炎症が何らかの形で肺がんリスクに関与している可能性はあるが、確定的な証拠は得られていない」とRebbeck博士も付け加えています。

 

 

今後の課題 

今回の研究は観察研究であるため、因果関係を断定することはできません。

 

研究チームも以下の限界点を認めています。

• 食事データは一度きりのアンケート調査によるもので、時間の経過による変化を反映していない

• 肺がんの症例数は比較的少ない

• 喫煙量や生活習慣の詳細を十分に考慮できていない可能性がある

• バイアスが完全に排除できているとは言い切れない

 

このため、UPFが肺がんリスクを「直接的に」高めるのか、それとも「健康的な食品を食べる機会を減らすこと」による二次的な影響なのかは、まだ明確にされていません。

  

それでも今回の研究結果は、食生活改善が肺がん予防の一助となる可能性を示しています。

 

Rebbeck博士は「UPF(超加工食品)の摂取を減らすことががんリスクを下げる方向に働く可能性がある」と述べています。

 

Li博士も「肺がんリスクを下げたいなら、最も重要なのは禁煙であることは間違いない」と強調していますが、そのうえで「完全にUPFを排除するのは現実的でないにしても、食生活のバランスを意識することが大切」と述べています。

 

例えば、朝食にシリアルを食べるのであれば、昼食にはベジタブルサラダや魚料理、鶏肉などを選び、昼食や夕食に加工肉を重ねて摂取しない工夫が推奨されます。

 

Li博士自身も、朝食にコーンフレークを食べる代わりに、カリフラワーと鶏肉を使ったオムレツを調理するよう心がけていると語っています。

  

Rebbeck博士も「すでに低加工食品や野菜、果物、全粒穀物の摂取ががん予防に役立つことは分かっている。UPFとがんの関係を今後さらに解明しても、結局は『加工度を抑えた植物中心の栄養価の高い食事を心がける』という基本的なメッセージに行き着くだろう」とまとめています。

 

 

まとめ

・超加工食品の多量摂取は、喫煙歴の有無を問わず肺がんリスクを約4割上昇させる可能性がある

・非小細胞肺がんと小細胞肺がんの両方でリスク上昇が確認された

・具体的な因果メカニズムはまだ不明確だが、慢性炎症が関与している可能性がある

・禁煙が最重要な予防策であることに変わりはないが、食生活の改善も補助的に有効

コメント

タイトルとURLをコピーしました