ドリップコーヒーや猫舌は理に叶っていた?──熱すぎるお茶やコーヒーとがんリスクの関係性

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寒い日の熱いコーヒーやお茶は、心も体も温まる必須アイテムです。

  

日常的に口にする温かい飲み物は、単なる水分補給にとどまらず、私たちにとって安らぎや習慣の一部になっています。

  

しかし、その「熱さ」が健康にどのような影響を及ぼすのかについて、普段考えることは多くないと思います。

   

実は、飲み物そのものではなく飲む温度が高すぎる場合、がんのリスクが上昇する可能性があると複数の研究が示しています。

  

今回は、そんな熱い飲み物とがんのリスクについての研究がテーマです。

  

参考記事)

Your Tea’s Temperature Could Put You at Risk of Some Cancers(2025/08/20)

 

参考研究)

Hot beverage intake and oesophageal cancer in the UK Biobank: prospective cohort study(2025/02/19)

 

 

熱い飲み物とがんの関係

これまでの研究では、熱い飲み物と喉頭がんとの関連は見つかっておらず、胃がんとの関連も明確ではありません。

 

しかし、食道がんとの関連性については一貫して報告がなされています

 

2016年、国際がん研究機関(IARC) は、65℃を超える非常に熱い飲料を「ヒトに対しておそらく発がん性がある」と分類しました。(IARC Monographs evaluate drinking coffee, maté, and very hot beveraより

 

この分類は、室内での木材燃焼による煙や、大量の赤肉摂取と同じカテゴリーに位置づけられる程度のリスクです。

 

つまり、飲み物自体の種類に関係なく、温度もリスク要因であることが明らかになったのです。

  

この調査は南米での研究(Maté drinking and esophageal squamous cell carcinoma in South America: pooled results from two large multi-center case-control studies)を参考としており、伝統的な飲料であるマテ茶を70℃前後で常飲する人々において、食道がんのリスクが高いことが主な根拠とされています。

 

同様の結果は中東、アフリカ、アジアでも報告されています。

 

しかし、ヨーロッパや欧米諸国における大規模な調査が不足している状態でした。

 

これに対し最近、イギリスで約50万人を対象に行われた大規模研究が発表されました。

 

この調査では、紅茶やコーヒーを非常に熱い状態で日常的に飲む人は、そうでない人と比べて食道がんの発症リスクが大幅に上昇することが確認されました。

 

特に1日に8杯以上の熱い飲み物を摂取する人は、飲まない人に比べて食道がんリスクが6倍近く高いとされています。

 

 

なぜ熱い飲み物が食道に悪影響を及ぼすのか

熱すぎる飲み物を繰り返し摂取すると、食道の粘膜細胞が損傷を受け、その修復過程でがん化が促進される可能性があると考えられています。

 

実は、この関連性はおよそ90年前から研究者により提唱されていた概念でもあります。(High-temperature beverages and foods and esophageal cancer risk—A systematic reviewより

 

2016年の動物実験では、がんを発症しやすいマウスに70℃の熱湯を与えたところ、より早く、より多くの前がん病変が形成されたと報告されています。

  

これにより、高温ががんの進行を加速させる可能性が示唆されました。

  

もう一つの仮説は、熱による粘膜の損傷が食道の防御機能を低下させ、胃酸の逆流による炎症や損傷を受けやすくなるというものです。

 

慢性的な損傷の蓄積が、やがてがんにつながるリスクを高めるのです。

 

 

飲む量や飲み方も重要 

 

がんリスクは単に温度だけでなく、どのくらいの量を一度に飲むか、どのくらいの速度で飲むかによっても影響を受けます。

 

ある研究では、被験者が65℃のコーヒーを飲んだ際、一口あたりの量が多いほど食道内部の温度が急激に上昇することが確認されました。(The relationship between the ingestion of hot coffee and intraoesophageal temperatureより

 

たとえば20ミリリットルを一度に飲むと、食道の温度は最大12℃も上がると報告されています。

 

これを長年繰り返すことで、熱損傷が蓄積し、がんのリスクが増加すると考えられています。

 

一方、少量をゆっくり口に含んで飲む場合には、食道に与える熱の影響は大幅に軽減されます。

 

つまり、小さな一口でゆっくり飲む習慣がリスク低減につながる可能性があります。

 

  

安全な温度はどのくらいか

コーヒーや紅茶の抽出温度はしばしば100℃近くに達します。

 

さらに、テイクアウトのコーヒーは持ち帰り後に適温で飲めるよう、90℃前後で提供されることもあります。

 

これでは当然、すぐに飲むと危険な温度です。

 

アメリカで行われた研究では、味覚を損なわず、かつ食道の熱損傷を防げる最適なコーヒーの温度は約57.8℃と算出されています。

 

この温度なら香りや風味も保たれ、かつリスクを抑えることができるとされています。

 

 

ドリップコーヒーを抽出した際の温度

 

参考までに、コーヒーをフィルターなどでドリップした際の温度の目安についてもまとめておきます。

 

【条件】

・沸騰直後のお湯を使用

・粉20g、お湯300mL 

・カップに注ぐ前に、ガラスサーバーにドリップする

・フィルターはペーパー、メタル問わない

 

  

1. 投入直後のお湯(約100 °C)

・やかんやボイルサーバー内で沸騰したお湯は100 °C。

・ドリッパーまで注ぐ間に5〜10 °Cほど自然に下がる。

 

2. コーヒー層内の瞬間温度(約92〜95 °C)

・ペーパー/メタルフィルターとコーヒー粉の熱容量が水温を約5〜8 °Cほど引き下げる

・コーヒー粉(20 g程度)とお湯(300 mL程度)の比率では、粉との接触で一時的に92〜95 °Cに落ちる

  

3. サーバー内最終温度(約75〜85 °C)

・抽出液(約300 g)をガラスサーバー(1.5 kg相当の熱容量)に溜める際、さらに10〜20 °C程度低下

・80 °C前後で安定し、その後もゆっくり温度は下がる 

 

4. 飲用適温(約60〜70 °C)

・カップに注いでから1〜2分放置すると、さらに10 °C以上冷めて60〜70 °C台になる

・このあたりが香りと熱さのバランスがよく、飲みやすい温度帯

   

 

安全に飲むための工夫 

熱い飲み物を健康的に楽しむためには、時間をかけて冷ますことが大切です。

 

研究によると、飲み物は5分間放置するだけで10~15℃ほど温度が下がります。

 

また、かき混ぜたり、表面を吹いて冷ますことや、テイクアウトカップの場合は蓋を外す(蓋を外すと2倍の速さで冷める)ことも効果的とされています。

 

さらに、大きな口で一気に飲むのではなく、小さな一口で温度を確かめながら飲むことも、食道を守るために重要と考えられます。

 

この研究を解説したのは、ウエスタン・シドニー大学 の臨床消化器病学者である Vincent Ho 准教授は、「熱い飲み物を無理に我慢する必要はないが、飲む温度、飲み方、量を意識することで、がんリスクを減らせる」と強調しています。

 

熱い飲み物は、私たちの生活に欠かせない楽しみの一つです。

 

しかし、温度に無頓着に飲み続けると、思わぬ健康リスクが潜んでいます。

 

研究の知見を踏まえ、日々の習慣を少し見直すことで、安心して長く楽しむことができるでしょう。

 

 

まとめ

・65℃を超える熱い飲み物は食道がんリスクを高める可能性がある

・一度に大量に飲むことや、大きな一口で飲むことが特に危険

・最適温度はおよそ57.8℃で、少し冷ましてから小口で飲むことが推奨される

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