たまの食事にピザやハンバーガーを楽しむことは、一見すると無害な息抜きのように思えるかもしれません。
しかし、たった一回の高脂肪食でも脳の血流に悪影響を与える可能性があることが、南ウェールズ大学の最新の研究で明らかになりました。
脂肪は、エネルギーの供給や脂溶性ビタミンの吸収補助、臓器の保護や体温の保持など、私たちの体にとって必要不可欠な栄養素です。
一方、本研究では、一般的に流通している“脂肪が多すぎる食品“を摂ることが、脳卒中や認知症のリスクに直結する可能性が高いとして大きな注目を集めています。
今回のテーマとして、研究の内容を以下にまとめます。
参考記事)
・Just One High-Fat Meal Can Disrupt Blood Flow to Your Brain, Study Finds(2025/08/08)
参考研究)
脳の血流と動的脳自己調節機能

脳はエネルギーの貯蔵能力が極めて限られており、常に酸素とグルコースの供給が必要です。
このため、血圧が日常的に変動する中でも、脳の血流を安定して保つ必要があります。
この働きを担っているのが「動的脳自己調節(dynamic cerebral autoregulation)」という仕組みです。
この機能は、たとえば立ち上がったときや運動中などに血圧が急変しても、脳への血流を一定に保とうとする緩衝材のような役割を果たします。
しかし、この自己調節機能が損なわれると、血流の過不足が起こりやすくなり、結果として脳卒中や認知症などのリスクが高まるとされています。
高脂肪食と血管機能の変化

研究チームは、飽和脂肪酸を多く含む高脂肪食が、この脳自己調節機能に悪影響を与える可能性があることに着目しました。
高脂肪の食事を摂取すると、血中の脂質濃度が急上昇し、摂取後約4時間でピークを迎えます。
この時、血管は硬くなり、拡張能力が低下します。
これは全身の血流を悪化させる要因となりますが、これが脳にもどのような影響を及ぼしているのかについては、これまであまり明らかにされてきませんでした。
実験の概要:若年層と高齢層を対象に比較
この疑問に答えるため、研究チームは18歳から35歳までの若年男性20人、および60歳から80歳までの高齢男性21人を対象に、実験を行いました。
実験では以下のような方法が用いられました。
• 腕の血管の拡張反応(flow-mediated dilatation)を測定し、心血管の健康状態を評価
• スクワット運動によって血圧の急激な変化を起こし、それに対する脳血流の反応を超音波で測定
被験者には、「ブレイン・ボム(Brain Bomb)」と名付けられた特製のミルクシェイクを摂取してもらいました。
このドリンクは生クリームを主成分とし、カロリーは1,362kcal、脂肪量は130gに達し、まさにファストフードに匹敵する高脂肪の食事内容でした。
実験結果:血管機能と脳血流に即時の影響
研究結果は、高脂肪の食事が若年層・高齢層の両方において、血管拡張機能を著しく低下させることを明確に示しました。
特に高齢層では、その影響は若年層よりも約10%大きく現れ、高齢者の脳がこのような食事により一層脆弱であることが浮き彫りになりました。
また、今回の研究では直接的な認知機能の変化が評価されたわけではありませんが、過去の研究からは、高脂肪食が体内の活性酸素を増加させ、血管拡張に必要な一酸化窒素を減少させることが確認されています。
この酸化ストレスの増大は、血管の弾力性を損ない、結果として脳の血流を制御する能力を低下させることに繋がると考えられています。
長期的リスクと日常的な食生活の重要性

この研究は、「たった一度の高脂肪食でも、すぐに血管や脳に影響が出る可能性がある」ことを示した点で非常に重要です。
高脂肪の食事は慢性的な健康リスクだけでなく、即時的な生理的変化を引き起こすという事実は、健康意識の再考を促すものです。
特に高齢者は、もともと血管機能が低下していることが多く、飽和脂肪酸の摂取にはより注意を払う必要があります。
また、認知症や脳卒中の発症リスクも高齢になるほど上昇するため、日常的な食生活の質が脳の健康を大きく左右すると言えるでしょう。
イギリスのNHS(国民保健サービス)では、飽和脂肪の1日の摂取量の上限を、男性は30g、女性は20gまでとするよう推奨しています。
しかし、週末のテイクアウトや外食で簡単にこの基準を超えてしまう人も少なくありません。
また、多くの人は「食後高脂血症」と呼ばれる、食後に血中脂質が高まる時間帯を長時間過ごしていることが分かってきています。
この時間帯こそが、血管や脳にとって最もリスクの高い状態なのです。
食事がリアルタイムに脳と体に及ぼす影響
研究チームは今後、多価不飽和脂肪酸(PUFA)を多く含む食事を摂った場合に、脳血流にどのような影響が出るかについてや、女性の脳が高脂肪食に対してどのように反応するかなど、解明すべき課題がいくつか残されていると述べています。
本研究は、私たちの食生活が長期的な健康に与える影響だけでなく、「いまこの瞬間」に体と脳へ影響を及ぼしているという現実を改めて浮き彫りにしました。
これまでのように、「週末くらいは好きなものを食べてもいい」という意識を持つことは必ずしも間違いではありませんが、そのたった一度の選択が、脳の血流に明確な変化を引き起こす可能性があるのです。
私たちが日常的にどのような脂肪を摂取するかが、脳の健康を守るうえで極めて重要であることが、この研究によって裏付けられたと言えるでしょう。
まとめ
・たった一度の高脂肪食でも脳の血流制御機能が低下する可能性があることが明らかになった
・高齢者は特にこの影響を受けやすく、脳卒中や認知症のリスクが高まる可能性がある
・今後は女性や多価不飽和脂肪酸の影響についても、さらなる研究が求められている


コメント