「日々のウォーキングは健康に良い」この考えは広く知られていますが、その「歩く速さ」まで意識している人はどれほどいるでしょうか。
今月(2025年8月)にヴァンダービルト大学より発表された研究から、ゆっくりと長時間歩くよりも、短時間でもテンポ良く歩く方が、寿命の延長により大きく寄与することが示されました。
対象となったのは米国の12の州に住む79,856人の成人です。
平均して17年という長期にわたり追跡調査が行われ、歩行の速さと死亡率の関係が詳細に分析されました。
その結果、毎日わずか15分でも「速足で歩く」習慣がある人々は、そうでない人に比べて死亡率が明らかに低かったことが判明したのです。
特に心血管疾患による死亡のリスクが顕著に下がる傾向が見られました。
今回のテーマとして、研究の内容を以下にまとめます。
参考記事)
・Short, Brisk Walks Could Help You Live Longer Than Long, Slow Strolls(2025/08/05)
参考研究)
・Daily Walking and Mortality in Racially and Socioeconomically Diverse U.S. Adults(2025/07/29)
速く歩くことの健康効果、17年にわたる追跡調査で判明

この大規模な研究では、「ゆっくり歩く時間」「速く歩く時間」それぞれについて、個人のライフスタイルと健康リスクとの関連を評価しています。
研究チームを率いた疫学者Wei Zheng氏によると、1日15分間の速足歩行で全死亡率が約20%低下するという結果が得られたとのことです。
また、1日に3時間以上のゆっくりした歩行でも一定の効果は見られましたが、速歩の効果には及ばなかったとされています。
さらにこの研究の注目すべき点は、従来の運動研究では過小評価されがちだった「低所得層」や「アフリカ系アメリカ人」を中心とした対象者層が多く含まれていたことです。
これにより、より幅広い層において「速足歩行の健康効果」が明らかになったといえます。
「速歩」と「遅歩」の具体的な違いとは?
この研究では、歩く速さを明確に定義して調査が進められています。
具体的には以下のように分類されています。
遅歩(slow walking):犬の散歩や職場内の移動など、日常的で緩やかな歩行
速歩(brisk walking):階段をのぼる動作や、運動目的での早歩き
したがって、「速歩」に分類されるには、ある程度の心拍数の上昇が求められるような活動、すなわち有酸素運動としての強度を持つウォーキングである必要があります。
研究チームはこの「歩行ペースの違い」が、心臓血管系への影響に直結すると考えています。
速歩によって心臓の働きが活性化され、血流が改善されることで、心疾患の予防につながるという見解です。
「たった15分」でも続ければ効果的

この研究の背景には、「運動が健康に良いことは分かっていても、実践が難しい」という多くの人々の現実があります。
Wei Zheng氏は、以下のように述べています。
「日々のウォーキングの健康効果は広く知られているが、歩く速さなどの要因が死亡率にどう関係するかについては、特に低所得層やアフリカ系アメリカ人を対象にした研究はほとんどなかった」
つまり、これまで見落とされがちだった社会的背景を考慮し、誰でもできる「手軽な健康法」としての速歩の価値を改めて確認したのが今回の研究です。
この視点から、共同研究者の疫学者Lili Liu氏は次のような提言をしています。
「公衆衛生の啓発活動や地域プログラムにおいて、速足歩行の重要性を強調し、すべての地域でそれが実践できるようなリソースや支援の提供が求められる」
日常生活の中で速歩を取り入れるには、通勤時に少し遠回りして歩く、階段を使う、昼休みに意識的に歩く時間を設けるなど、さまざまな工夫が可能です。
速足歩行の効果は「明確」だが、因果関係は未確定
今回の研究は長期間にわたる観察データを用いたコホート研究であり、得られた結果は統計的に非常に有意です。
しかしながら、研究者たちはあくまで「直接的な因果関係を証明するものではない」と注意を促しています。
つまり、速歩によって死亡率が下がるのか、速歩を日常的に行うような健康的なライフスタイルそのものが影響しているのかは、今後さらなる介入研究が必要だということです。
とはいえ、心臓の機能強化、カロリー消費による体重管理、血圧の安定化、ストレス軽減などの複合的な健康効果が速歩に含まれている可能性が高いと考えられており、「歩く速さ」に注目した運動指導の重要性がますます高まっています。
歩行という「最も簡単な運動」への再注目
ウォーキングは特別な道具も施設も必要なく、ほとんどの人が手軽に始められる運動です。
さらに今回の研究が示すように、「どのくらい歩くか」だけでなく「どんなペースで歩くか」も、健康への影響を大きく左右する要素であることが明らかになりました。
歩行の安全性が確保された地域づくり、地域コミュニティによるウォーキングプログラムの充実、速足歩行の啓発、実践しやすい習慣の共有……。
こうした環境が整えば、社会全体の健康寿命の延伸にもつながると期待されています。
まとめ
・1日15分の早歩きで、全死亡率が約20%低下する可能性がある
・低所得層やマイノリティ層を含む大規模調査により、日常的な「歩行ペース」が健康リスクに大きく影響することが確認された
・早歩きは心臓の働きを高め、体重管理にも寄与することから、日常生活に取り入れる工夫が推奨されています


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