年齢に関係なく効果的──脳の健康を促進する3種類の運動

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近年、運動が身体だけでなく脳の健康にも大きな恩恵をもたらすことが数多くの研究から明らかになっています。

 

とりわけ、HIITといった「激しさを伴う運動でなければ意味がない」と思われがちな中で、穏やかな運動でも認知機能や記憶力に有効であることが、サウス・オーストラリア大学の研究で示されました。

 

研究を主導したBen Singh博士らは、世界中の13万件以上の文献を分析し、運動の種類や強度を問わず、脳の健康を促進する効果が全年齢層に認められることを明らかにしました。

 

その中でも、特に大きな効果が認められたのは以下の3種類の運動でした。

• ヨガ

• 太極拳(Tai Chi)

• エクサゲーム(身体を使うビデオゲーム)

 

いずれも体だけでなく心と脳に同時に働きかける「マインドボディ運動」として注目されている運動です。

 

今回は、そんな運動と脳の研究に関する研究を紹介します。

 

参考記事)

These 3 Types of Exercises Boost Brain Health at Any Age, Study Finds(2025/06/20)

 

参考研究)

Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis(2025/06/03)

  

  

運動と脳機能の関係:13万件以上のデータ分析から見えた

この研究では、133本のシステマティックレビュー(系統的な文献レビュー)を対象とし、延べ25万8,000人以上の被験者データが分析され。

  

分析の主たる発見として、子どもから高齢者まで、運動による認知機能の改善効果が一貫して認められた点が挙げられます。

  

Ben Singh博士は、「運動が記憶力、実行機能(問題解決や推論)、さらには一般的な認知能力において、強力な改善効果をもたらすという強固な証拠が得られた。」と述べています。

 

さらにこの研究では、以下のような要因が脳の健康に与える影響についても詳細に検証されています。

• 運動の強度:穏やかな運動(低〜中程度)が、激しい運動よりも脳に良い影響を与える可能性がある

• 継続期間:1〜3か月の短期間でも効果があり、長期的な継続によりさらに効果が高まる

• 運動の種類:記憶や判断力に働きかけるエクサゲーム、ヨガ、太極拳がとくに効果的

 

以下に、健康効果の高かった3つの身体活動についてまとめます。

 

 

1. ヨガ:呼吸と動きで脳にアプローチする伝統的な健康法

 

ヨガは、身体的なポーズ(アーサナ)、呼吸法(プラーナーヤーマ)、瞑想といった要素を統合した、数千年の歴史を持つ伝統的な健康法です。

 

統合医療・機能性医学医であり、ヨガ教師でもあるAnna Emanuel医師によると、ヨガは身体の動きと精神の集中を同時に求めるため、認知的なエンゲージメントが非常に高い運動だとされています。

 

Singh博士は、ヨガが脳に与える影響について次のように説明しています。

 

ヨガは海馬(記憶を司る部位)の機能を支え、前頭前野(意思決定・計画・感情制御を担う領域)を強化する。

 

ストレス軽減と炎症抑制の効果も相まって、記憶力と注意力の改善、感情の安定など多角的な認知的メリットが期待できるとされています。

 

ヨガを始めるには、週2〜3回、1回20〜30分程度の短いセッションからスタートするのが理想的とされています。

 

特に、呼吸と動きをゆるやかに組み合わせるスタイルが脳への効果を高めると考えられています。

 

 

2. 太極拳:動きの瞑想が記憶と集中力を鍛える

 

太極拳(Tai Chi)は、中国の伝統的な武術をベースにした運動で、ゆっくりとした動きと深い呼吸、内的集中を組み合わせた「動く瞑想」と表現されることもあります。

  

Emanuel医師は、太極拳についてこう述べています。

 

太極拳は身体と心のつながりを強調する運動であり、脳の記憶機能や運動調整機能を活性化させる。

 

記憶すべき動作の連続性、集中力を要する動きのコントロール、そして呼吸とともに心身のバランスを整える点が、他の運動よりも高い認知効果をもたらす理由とされています。

 

太極拳を行う際は、週に3回以上、1回20〜60分程度が目安です。

 

型を覚えるなど、動作の記憶が求められる点も、脳への良い刺激とされています。

 

また、太極拳仲間との練習など社会的交流がある場合、孤立を防ぎ、認知機能低下の予防にも寄与します。

 

 

3. エクサゲーム:身体と頭を同時に動かす「遊び」が脳を鍛える

 

エクサゲーム(Exergames)は、身体を動かしながら操作するインタラクティブなビデオゲームです。

 

Nintendo switchでお馴染みのリングフィットアドベンチャーや、ダンスダンスレボリューションなどがこれに当たります。

 

現在では、VRゴーグルを装着して運動とゲームと楽しむBeat SaberやFitXRなども存在し、楽しんで運動をするという環境を身近に置くこともできるようになっています。

 

Singh博士はこの点について、次のように解説しています。

 

エクサゲームは動きに即応し、パターンを追い、課題を解決するなど複数の認知スキルを同時に要求します。これは記憶力や注意力、運動機能にとって非常に有効です。

 

さらに、ゲーム性が高く楽しさを感じやすいため、運動習慣の継続がしやすいというメリットもあります。

 

エクサゲームを効果的に取り入れるには、1回20〜30分、週に3〜5回程度が推奨されています。

 

特に、リズムに合わせて身体を動かすものや、スポーツを模したゲームは、動きと判断を同時に求められるため認知的メリットが大きいとされています。

 

 

脳の健康を守るには“継続可能な運動習慣”がカギ

今回の研究は短期的な認知効果に焦点を当てたものではありますが、あらゆる年代において運動が脳の健康をサポートする強いエビデンスがあることを示した点で非常に意義深いものです。

 

特にヨガ、太極拳、エクサゲームは、記憶力や注意力、実行機能を高め、認知症や加齢による脳機能の低下を防ぐうえで有望な選択肢として浮かび上がっています。

 

今後は、より長期的な介入効果や、運動と脳構造の変化との直接的な関連についても研究が進められることが期待されます。

 

 

まとめ

・強度の低い運動でも、記憶力や実行機能など一般的な認知能力に良い効果があることが明らかになった

・ヨガ、太極拳、ゲーム形式のエクササイズが特に高い認知機能向上効果を示した

・継続的で楽しめる運動を生活に取り入れることが、脳の健康を保つ鍵になる

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