朝の目覚めに欠かせない存在として、多くの人に親しまれているコーヒー。
そのほろ苦い一杯には、単なる覚醒作用を超えた健康効果があることが、これまで多くの研究で示されてきました。(各研究はコーヒーと論文要約の記事にて)
特に、二型糖尿病や心疾患、死亡リスクの低下との関連が注目されてきましたが、その恩恵を受けられるかどうかは、「コーヒーの飲み方」に大きく左右されるかもしれません。
アメリカのタフツ大学の研究チームが発表した新たな研究によれば、コーヒーがもたらす死亡リスクの低下効果は、ブラックあるいは少量の甘味料や乳製品を加えた飲み方に限られるという結果が示されました。
逆に、砂糖やクリームを多く加えた飲み方では、その健康効果が弱まるとのことです。
以下に研究の内容をまとめます。
参考研究)
・Coffee Consumption and Mortality among United States Adults: A Prospective Cohort Study(2025/05/12)
コーヒーと死亡リスクの関係:研究の背景

コーヒーには、100種類以上の生理活性物質や抗酸化物質が含まれており、近年の研究では、抗炎症作用や血糖値の調整、さらには心血管機能の保護など、多岐にわたる健康効果が報告されてきました。
しかし一方で、「砂糖やクリームといった添加物」が加わった場合に、こうした健康効果がどの程度維持されるのかについては、これまで明確なデータが不足していました。
今回の研究は、そういった添加物に焦点を当てた初の大規模な疫学調査として行われました。
研究の方法:10年間にわたる大規模追跡
研究チームは、アメリカ国内の46,000人以上の成人を対象に、約10年間にわたる前向きコホート研究を実施しました。
研究開始時に、全参加者に24時間の食事調査票を配布し、コーヒーの摂取量や、そこに加える砂糖・ミルク・クリームといった添加物の種類・量を記録しました。
その後、参加者の健康状態を長期にわたって追跡し、全死因死亡、心血管疾患死亡、がん死亡との関連性を調査しました。
主な研究結果:飲み方で健康効果が変わる
調査の結果、コーヒーを飲む人と飲まない人において、以下のような違いが得られました。
• 1日1杯のコーヒー摂取で、死亡リスクは16%低下
• 1日2〜3杯では、死亡リスクが17%低下
• 心疾患による死亡リスクは29〜33%低下
• 死亡リスクが低下するのは、ブラック、または砂糖や脂肪分の少ないコーヒーに限定されていた
つまり、コーヒーそのものに健康効果があることは確かですが、それをどのように飲むかによって効果の程度が変わることが示されたのです。
研究では、以下の基準を満たす場合に「添加物が少ない」と判定されました。
• 砂糖:1杯(約240ml)あたり2.5グラム以下(ティースプーン約1/3〜1/2)
• 脂肪:1杯あたり1グラム以下(2%ミルク約大さじ5、またはライトクリームやハーフ&ハーフ約大さじ1)
この範囲内であれば、コーヒーの健康効果が保持される可能性が高いとされています。
逆に、これを超える量の砂糖や脂肪を日常的に加えていた人には、死亡リスクの低下は見られませんでした。
がんとの関連は?限定的な結果に
今回の研究では、コーヒーとがん死亡リスクの関係については明確な関連が確認されませんでした。
この点について、ハーバード大学のMingyang Song氏は、「参加者の規模やがんの種類ごとの分析が行われなかったことが理由のひとつだろう」と指摘しています。
ただし、過去の研究ではコーヒーが大腸がんの予後を改善する可能性や、大腸がんリスクの低下が報告されています。(Coffee Consumption and the Risk of Colorectal Cancerより)
したがって、がん全体との関連については研究の余地があるため、さらなる調査が必要とされています。
また、今回の研究で調査しきれなかった点として、以下のようなものも存在します。
• 多くの参加者はブラックコーヒーを飲んでおり、添加物入りコーヒーの影響を比較するにはサンプル数がやや不足していた可能性がありること
• 調査時点での飲み方しか把握していないため、日常的な変化(平日と週末の違いなど)を十分に反映できていないこと
• また、フィルターの有無や砂糖の種類(白砂糖か人工甘味料か)、乳製品と植物性ミルクの違いなどは考慮されていないこと
このように、現時点では「明確な因果関係」までは立証されていないものの、関連性の強さは示唆的であり、今後の研究に期待が寄せられています。
ポリフェノールがカギ:コーヒーの抗酸化作用

コーヒーに含まれる健康成分の中心は、クロロゲン酸をはじめとするポリフェノールが知られています。
これらは抗酸化物質として、炎症の抑制や細胞の損傷防止に影響することで知られています。
セントルーク・ミッドアメリカ心臓研究所のJames O’Keefe氏によれば、「コーヒーはアメリカ人の食生活の中で最大の抗酸化源」であり、死亡リスクの低下という結果は生物学的にも合理的であるとのことです。
ただし、ポリフェノールの効果が砂糖や脂肪によって「打ち消される」わけではなく、砂糖や飽和脂肪酸そのものが心血管の健康を害する要因であることが、死亡リスクの上昇とつながっていると説明されています。
健康的なコーヒーの飲み方とは?
今回の研究を通して、「健康的なコーヒーの飲み方」に関する新たな示唆が得られました。
コーヒーは1日1〜2杯まで(人によっては4杯程度)が適量とされ、それ以上摂取しても効果が大きく高まることはないと考えられています。(Coffee consumption is associated with a reduced risk of colorectal cancer recurrence and all-cause mortalityより)
むしろ過剰摂取は不安感や不整脈、高血圧などのリスクを高める恐れがあるとの指摘もあるため、多くとも4杯までの摂取が推奨されます。
また添加物について、ノースウェスタン大学のMarilyn Cornelis氏は「ブラックが最理想だが、少しの砂糖やミルクで死亡リスクが跳ね上がるわけではない」と述べ、少量の砂糖やミルクを加える程度であれば、極端に神経質になる必要はないと補足しています。
コーヒーは、適切な量と飲み方を心がけることで、私たちの健康を支える有益な飲料となり得ます。一方で、砂糖やクリームの加えすぎには注意が必要です。
日々の習慣の中で、ちょっとした工夫を加えるだけで、将来の健康リスクを抑えられるかもしれません。
まとめ
・ブラックコーヒーまたは添加物が少ない飲み方は、死亡リスクの低下と関連していた
・砂糖や飽和脂肪の摂りすぎは、健康効果を相殺する可能性がある
・適量(1〜2杯)を心がけ、飲みすぎには注意が必要である
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