がん治療後の生活において、運動が果たす役割が今、世界中の注目を集めています。
カナダ、オーストラリア、イギリス、イスラエル、アメリカの5か国で実施された画期的な研究により、3年間にわたる運動プログラムが結腸がん患者の生存率を大幅に向上させることが明らかになりました。
この研究は、治療後の生活において運動が薬と同等、あるいはそれ以上の効果を持つ可能性があることを示す、極めて質の高いエビデンスとして注目されています。
参考記事)
・Regular Exercise Reduces Death From Colon Cancer by 37%, Study Finds(2025/06/04)
・Exercise boosts survival rates in colon cancer patients, study shows(2025/06/02)
参考研究)
・Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer(2025/06/01)
世界初のランダム化対照試験による強力な証拠

これまで、身体活動ががんの再発や死亡率に与える影響については、運動習慣のある人とない人を比較する観察研究が主でした。
しかし、それらは因果関係を証明することが難しく、効果の程度にも疑問が残っていました。
今回の研究では、889人の化学療法を終えた治療可能な結腸がん患者を無作為に2つのグループに分け、3年間の追跡調査を実施しました。
一方のグループは健康に関するパンフレットを配布されたのみでしたが、もう一方のグループは運動コーチと定期的に面談し、運動習慣を身につけるための支援を受けました。
このプログラムでは、最初の1年間は隔週でコーチと面談し、その後の2年間は月1回のペースで支援が続けられました。
顕著な成果:死亡率37%減、がん再発28%減
研究開始から8年後、運動支援を受けたグループは、がんの再発率が28%低下し、あらゆる原因による死亡率が37%も減少したことが確認されました。
これらの成果は、薬物治療に匹敵、もしくはそれ以上の効果であることも示され、さらに運動プログラムは1人あたり数千ドルで提供可能な手頃な介入です。
研究を共同で主導したキングストン・ヘルス・サイエンス・センター(Kingston Health Sciences Centre)のDr. Christopher Boothは、「人々の生活の質を高め、がんの再発を減らし、寿命を延ばすことができる」と述べています。
患者の実体験が示すモチベーションの力

カナダ・オンタリオ州キングストンに住む62歳のTerri Swain-Collinsさんは、このプログラムの参加者の一人です。
理学療法士の指導のもと、週に数回、45分程度のウォーキングを継続してきた彼女は、「これは自分のためにできること。気分が良くなるだけでなく、責任感も芽生えた」と語っています。
コーチとの定期的なやりとりが、運動を続ける上での原動力となったそうです。
これはある一例に過ぎませんが、運動が習慣化されていない人においては、自分の意思だけでなく、外部から介入が必要も大切な要因となるでしょう。
科学的メカニズムの解明へ向けて
また、研究チームは参加者から採血も行い、運動がなぜがん再発を防ぐのか、その生物学的メカニズムの解明を進めています。
インスリン代謝の改善、免疫機能の強化、炎症反応の制御など、さまざまな可能性が検討されています。
また、エビデンスの力は人々の行動を変えると、共同研究者であるカナダ・アルバータ大学のKerry Courneya氏は述べています。
「楽しさを見つけ、社会的なつながりを感じながら取り組めば、行動は定着しやすい。いまや、運動は生存率を改善すると“断定的に”言えるの」と話しました。
医療の現場での応用を求める声
第三者機関であるダナ・ファーバーがん研究所(Dana-Farber Cancer Institute)のDr. Jeffrey Meyerhardtは、この研究結果を高く評価しており、これを機に、がんセンターや保険制度が、運動指導を標準的なケアとして導入することを検討すべきだとの意見も広がっています。
アメリカ臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology)の最高医療責任者であるDr. Julie Gralowも、「この研究は、私が長年推進してきた活動に強力な根拠を与えてくれた」と述べ、運動によるがん抑制の科学的根拠についてを評価しています。
まとめ
・結腸がん患者において、定期的な運動指導を受けたグループは、がんの再発率が28%、全死亡率が37%減少した
・研究はカナダ、オーストラリア、イギリス、イスラエル、アメリカの5か国の研究チームによって実施され、学術資金で支援された
・今後、医療機関や保険制度における運動支援の標準化が期待される
一方で、マラソンなどの過度な持久運動が、腸に悪影響を及ぼす可能性も示唆されています。(Physical hobby loved by millions shockingly linked to colon cancer in young people for first time)
ワシントンD.C.の研究者によると、長距離ランナー100人を対象に大腸内視鏡検査を行った結果、約4割に前がん性ポリープが見つかり、1割以上は進行性の病変を有していたことが判明しました。
また、半数以上のランナーが「ランナーズ・トロッツ」などの消化器系の異常や直腸出血を経験しています。
これは運動による腸の血流低下や粘膜損傷が影響していると考えられており、専門家は、過度な運動は腸へのストレスや微細な炎症を引き起こし、腫瘍形成の引き金になりうると警鐘を鳴らしています。
したがって、がん再発予防には、高強度ではなく中程度の継続的な運動を推奨することが、今後より重要になるといえるでしょう。
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