家庭で日常的に使われる保存容器や食品包装において、プラスチック製品は非常に身近な存在です。
特に「電子レンジ使用可」や「冷凍保存可能」と記載された製品は広く流通しており、多くの人が安全だと信じて使用しています。
しかし近年、このような表示が人の健康にとって本当に安全なのかについて、疑問の声が高まりつつあります。
2024年、Ziplocブランドを展開するS.C. Johnson社に対して提起された集団訴訟では、同社のプラスチック製品が電子レンジ加熱や冷凍保存により有害なマイクロプラスチックを放出する可能性があるにもかかわらず、そのリスクを十分に警告していないと主張されています。

訴訟では「これらの製品は表示に反して、実際には電子レンジや冷凍での使用に適していない」とされ、消費者への誤解を招く表示であると問題視されています。
一方、S.C. Johnson社は「製品は使用方法に従えば安全であり、訴訟には根拠がない」と反論しています。
それでは実際のところ、電子レンジや冷凍でプラスチック容器を使うことは本当に危険なのでしょうか?
本記事では、専門家による最新の研究とともに、マイクロプラスチックの健康への影響を見ていきます。
参考記事)
・Just How Bad Is It to Microwave or Freeze Plastic? Here’s What Experts Say(2025/05/22)
マイクロプラスチックと健康リスク

マイクロプラスチックとは、長さ5ミリ未満の極めて小さなプラスチック片のことを指します。(National Ocean Service. What are microplastics?より)
プラスチック製品が紫外線や摩擦、熱などの影響で徐々に劣化し、微細な粒子として分解されたものです。
これらの粒子は、私たちが摂取する食品、水、空気などを通じて体内に入り、蓄積されていきます。
ある研究では、現代人の脳にはスプーン一杯分に相当するマイクロプラスチックが蓄積していると報告されました。(Bioaccumulation of microplastics in decedent human brainsより)
マイクロプラスチックが人間の健康に及ぼす影響については、まだ完全には解明されていませんが、現在までの研究結果は警戒を要する内容となっています。
National Resources Defense CouncilのKatie Pelch博士は、これまでに行われた多数の動物実験を含む研究を総合的に分析した論文を共著し、「確認できた限りでは、マイクロプラスチックは体内の複数のシステムに悪影響を及ぼしている」と述べています。
Pelch博士らの研究によると、マイクロプラスチックは生殖器系、消化器系、呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性があるだけでなく、大腸がんや肺がんとの関連も指摘されています。(Effects of Microplastic Exposure on Human Digestive, Reproductive, and Respiratory Health: A Rapid Systematic Reviewより)
さらに別の研究では、脳や心臓の機能にも悪影響を与える可能性があることが示唆されています。(Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Eventsより)
電子レンジや冷凍でマイクロプラスチックは増えるのか?
結論から言えば、電子レンジや冷凍でプラスチックを使用することは、マイクロプラスチックの曝露を増加させる可能性があるとされています。
たとえば2023年に発表されたある研究では、食品包装に使われるポリプロピレン製の容器を3分間電子レンジで加熱したところ、何百万個ものマイクロプラスチック粒子が内容物に放出されたことが確認されました。(Assessing the Release of Microplastics and Nanoplastics from Plastic Containers and Reusable Food Pouches: Implications for Human Healthより)

常温保存と比較しても、その放出量は圧倒的に多く、加熱が放出のトリガーとなることが明確に示されたのです。
また、冷凍保存についてもリスクがあると指摘されています。エモリー大学ローリンズ公衆衛生大学院のCarmen Marsit博士は、「冷凍過程でプラスチックが脆くなるため、マイクロプラスチックが剥がれ落ちて食品に混入する可能性がある」と述べています。
つまり、電子レンジ加熱も冷凍保存も、プラスチックからのマイクロプラスチックの放出リスクを高める行為であるということです。
電子レンジ使用による化学物質の浸出にも注意を
マイクロプラスチック以外にも、プラスチック製品には人体に有害な化学物質が含まれている場合があります。
その中でも特に問題視されているのが、PFAS(永遠の化学物質)、フタル酸エステル類(phthalates)、BPA(ビスフェノールA)などです。
これらの物質は、発がんリスクの上昇、免疫力の低下、生殖異常、子どもの発達遅延など、さまざまな健康リスクと関連づけられています。(Our Current Understanding of the Human Health and Environmental Risks of PFASより)
Marsit博士によれば、「電子レンジ加熱によって、これらの有害物質がプラスチックから食品に浸出しやすくなる」とのことです。
Pelch博士も、「電子レンジで加熱後に容器が柔らかくなっている場合、それは化学物質が食品に浸出しているサイン」だと指摘します。
仮に「電子レンジ使用可」と表示されていたとしても、それはあくまで溶けたり燃えたりしないという意味であり、化学的な安全性を保証するものではないという点に注意が必要です。
台所からプラスチックを減らすための工夫とは?
現代社会において、すべてのプラスチックを排除するのは現実的ではありません。
しかし、家庭内でできる範囲でプラスチックの使用を減らすことは、十分に可能です。
Pelch博士は、特に加熱や冷凍が必要な場面では、プラスチック以外の容器を使うことを強く勧めています。
たとえば、ガラス製やセラミック製の容器は、電子レンジや冷凍庫の使用に比較的安全とされています。
ただし、プラスチック製のフタが付いている場合は、加熱前にフタを取り外すことが重要です。
ステンレス製の容器も冷凍保存には適していますが、電子レンジでの使用は避けなければなりません。
さらに、まな板やミキサー容器など、調理器具のプラスチック製品も見直すことが推奨されています。
Pelch博士によれば、ノンスティック加工の調理器具も注意が必要で、そのコーティングにはPFASが含まれている場合が多く、剥がれ落ちることでマイクロプラスチックとPFASの両方を摂取してしまう危険性があるとのことです。
Marsit博士も、「プラスチックを完全に排除するのは難しいが、食品と接触するプラスチックの量を最小限に抑えることは、現実的で有益な目標である」と述べています。
まとめ
・電子レンジ加熱や冷凍保存により、プラスチック容器からマイクロプラスチックが放出されるリスクがある
・マイクロプラスチックや化学物質(PFAS・BPAなど)は、生殖器系・呼吸器系・がんリスクなど健康への悪影響が懸念されている
・家庭ではガラス・セラミック製容器などへの切り替えや、プラスチックとの接触を減らす工夫が重要
コメント