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「タウリン」が白血病の進行を助ける可能性──エナドリやサプリには要注意

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多くのエナジードリンクや、魚・肉などの食品に含まれるアミノ酸の一種「タウリン」が、白血病などのがん細胞の成長を促進する可能性がある……。

 

このような研究結果が、アメリカ・ロチェスター大学メディカルセンターの研究チームによって発表されました。

 

タウリンは、もともと人体内に自然に存在する物質であり、肝臓や脳、心臓、筋肉などに多く含まれています。

 

健康補助食品やエナジードリンクにも多く配合され、疲労回復や集中力の向上、持久力の強化などの目的で摂取されることが一般的です。

 

これまでの研究では、タウリンには一定の抗酸化作用や免疫機能強化の効果も報告されてきました。(Taurine deficiency as a driver of agingより

 

Taurine deficiency as a driver of agingより

  

しかしロチェスター大学による今回の研究では、このタウリンがん細胞、特に白血病細胞にとって重要な「燃料源」となっている可能性が指摘されています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Common Energy Drink Additive Could Be Fueling Growth in Leukemia(2025/05/21)

A Downside of Taurine: It Drives Leukemia GrowthA Downside of Taurine: It Drives Leukemia Growth(2025/05/14)

  

参考研究)

Taurine from tumour niche drives glycolysis to promote leukaemogenesis(2025/05/14)

Cancer SLC6A6-mediated taurine uptake transactivates immune checkpoint genes and induces exhaustion in CD8+ T cells(2024/04/25)

 

 

骨髄中のタウリンが白血病細胞の成長を促進

研究チームは、白血病細胞が周囲の骨髄からタウリンを取り込み、それを成長促進のエネルギー源として利用していることを突き止めました。

 

これはちょうど、私たちがエナジードリンクを飲んで一時的な覚醒状態に入るのと似たような仕組みです。

 

研究を主導した腫瘍学者のJane Liesveld氏によると、「骨髄内の局所的なタウリン濃度が白血病の進行を後押ししている可能性があり、高用量のタウリン摂取には慎重になるべき」と述べています。

  

実験では、マウスモデルにおいてタウリンの取り込みを遮断した上で、ヒトあるいはマウス由来の白血病細胞を移植したところ、がん細胞の増殖が抑制されることが明らかになりました。

 

Taurine from tumour niche drives glycolysis to promote leukaemogenesisより

  

この結果は、タウリンの供給を遮断することが新たながん治療法となり得る可能性を示しています。 

  

  

サプリメントやエナジードリンクによるタウリン摂取に注意が必要

   

研究者たちが特に懸念しているのは、エナジードリンクやサプリメントによってタウリンを過剰に摂取してしまうことです。

 

もちろん、日常的な食事で摂取されるタウリンの量はごくわずかですが、エナジードリンクなどには高濃度で含まれている場合があり、注意が必要です。

 

現時点では、外部から摂取されたタウリンが骨髄内の濃度にどう影響を及ぼすか、また人間においてどの程度影響するのかについては明確ではありません。

 

しかし、体内のがん細胞がタウリンを取り込む仕組みそのものが、がん治療における新しい標的になる可能性があることは、非常に意義深い発見といえます。

 

  

がんの代謝経路を理解することの重要性 

がん研究はこれまで遺伝子変異に注目してきましたが、近年ではがん細胞の代謝経路、つまり、どのように栄養を取り込み、エネルギーを生産して生き延びているのかへの関心が高まりつつあります。

 

Liesveld氏は「代謝の再プログラミングは、がんの特徴の一つであり、白血病細胞における代謝の影響を理解する取り組みはまだ始まったばかりである」と述べています。

  

さらに、研究者たちは、タウリンの有無によって白血病細胞の成長にどのような違いが生まれるのかを詳細に観察し、タウリンの存在ががん細胞の増殖を顕著に後押ししていることを確認しました。

 

  

他のがんにおけるタウリンの効果との違い 

注意すべきは、すべてのがんに対してタウリンが悪影響を与えるわけではないという点です。

 

たとえば、過去の研究ではタウリンが免疫系を刺激し、胃がんの抑制に役立つ可能性があることも報告されています。

 

つまり、タウリンの役割はがんの種類やその発生部位によって異なるのです。

 

そのため、タウリンの摂取を一律に制限すべきだという結論には現段階では至りませんが、特定のがん種(特に白血病)においては、タウリンの摂取量が病状に影響する可能性を視野に入れる必要があるでしょう。

 

  

がん細胞の「エネルギー源」を断つという発想 

今回の研究の最大の意義は、がん細胞が必要とする「燃料供給」を止めることで、がんの進行を遅らせる新たな治療法が見えてきた点です。

 

特に、骨髄で発生する「骨髄性白血病」などの急速に進行するタイプのがんにおいて、この戦略は有効である可能性があります。

  

幹細胞およびがん生物学の専門家であるJeevisha Bajaj氏(UR Medicine所属)も、「白血病細胞によるタウリンの取り込みを標的とすることで、これらの攻撃的ながんに対する新たな治療の可能性が開けるかもしれない」と述べています。

 

さらにBajaj氏は、「今後はタウリンの細胞内への取り込みを安定的かつ効果的にブロックする方法を開発することが重要である」と続け、臨床応用への展望を示唆しました。

 

今回の研究は、身近な成分であるタウリンが、私たちの健康に与える影響について新たな視点を提供しています。

 

特にがんという重大な疾患において、日常的に摂取している物質がその進行に関与している可能性があることは、今後の医療や生活習慣の見直しに大きな影響を与えるかもしれません。

 

 

まとめ

・タウリンが白血病細胞の成長を促進する「エネルギー源」になっている可能性がある

・タウリンの取り込みをブロックすることで、がんの進行を抑えられる可能性がある

・タウリンの作用はがん種によって異なり、一律な評価はできないが、白血病に対しては新たな治療標的となり得る

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