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甘い誘惑の代償――砂糖が心臓と身体に与える深刻な影響

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朝食に市販のシリアルやパンケーキ、昼食にパンやパスタ、ドレッシングたっぷりのサラダを味わうことを楽しんでいる人もいるのではないでしょうか。

 

これらの食品を美味しく感じさせる最大の要素は砂糖です。

 

砂糖は、私たちの体にとって重要なエネルギー源であり、激しい活動を行う際には欠かせない燃料となり、脳の主要なエネルギー源でもあります。

 

砂糖自体は必要不可欠なものですが、多くの人が過剰に砂糖を摂取していること、そしてその摂取形態が最も単純かつ加工された形であることが問題しされています。

 

この食生活が原因で、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、動脈硬化症、高血中コレステロール値、高血圧症など、さまざまな健康リスクが増大しているのです。

 

さらに深刻なことに、心臓病による早期死亡リスクも著しく高まることが知られています。

 

今回紹介するのは、そんな砂糖の摂取リスクと体への影響についての研究です。

 

参考記事)

Just How Bad Is Sugar For Your Heart And Body?(2018/02/19)

 

参考研究)

Added Sugar Intake and Cardiovascular Diseases Mortality Among US Adults(2014/02/03)

 

 

体内での砂糖の消化プロセス 

  

人間の身体は、果物、野菜、全粒穀物などに自然に含まれている形での砂糖を消化するよう設計されています。

 

これらの食品の中では、単純な糖分子が鎖状に結びついて存在しているのです。

 

この鎖状の炭水化物(でんぷん)は、小腸ではそのまま吸収できません。

 

そのため、体内で一つずつ糖分子を切り離しながらゆっくりと消化され、最終的に吸収されます。

 

例えるなら、長い貨物列車から一両ずつ車両を切り離していくようなものです。

 

一方、スクロース(グルコースとフルクトースが結合したもの)など、単純な形の砂糖を摂取した場合、分解のプロセスが不要なため、一気に血中へ糖が放出されます。

 

スクロース(C₁₂H₂₂O₁₁)

 

この結果、私たちは一時的に血糖値の上昇を感じるのです。

 

このとき、体はインスリンを分泌し、血中のグルコースを筋肉や肝臓、その他の臓器に取り込み、エネルギー源として蓄えようとします。

 

しかし血糖値が急激に上がった後、インスリンの効果で血糖値が標準値より下がりすぎる現象が起きます。(反応性低血糖)

 

【血糖値と血中インスリンのイメージ】

Added Sugar Intake and Cardiovascular Diseases Mortality Among US Adults より

・赤線=血糖値レベル

・青線=血中インスリンレベル

・赤点線=グルコースの多い食事

・青点線=グルコース+フルクトースの多い食事

※標準的な血糖値は、空腹時で約70~110mg/dL

 

その際、下がりすぎた血糖値を上げるために、コルチゾールやグルカゴンなどのストレスに反応して放出されるホルモンが分泌され、血糖値を上昇させて安定させようとします。

 

このとき、ブドウ糖を使わずにアミノ酸を分解して糖に変える糖新生と呼ばれる生理現象が起こります。

 

これは、肝臓への負担が大きい上に筋肉の分解なども進むため、怠感や空腹感を覚えやすくなり、必要以上にカロリーを摂取してしまう傾向にあるのです。

 

筋肉量の減少によって糖をエネルギーとして利用されにくくなった結果、肥満が促進されたり、臓器の機能低下による倦怠感など悪循環に陥る傾向にあります。

 

そのため、血糖値の急上昇は避けたい現象なのです。

 

 

インスリン抵抗性と心臓病リスク 

高糖質の食生活は、さらに多くの健康問題を引き起こします。

 

私たちの体にはグルコースを蓄える限界があるため、余剰分は脂肪に変換されます。

 

この脂肪の一部は血中に流れ出し、インスリンの働きを妨害して、血糖値のさらなる上昇を招きます。

 

長期間この状態が続くと、インスリンは効果を失い始め、血糖値が恒常的に高くなり、インスリン抵抗性へと進行し、やがて糖尿病へと至ります。

 

糖尿病は心臓病の主要なリスク要因でもあります。

 

さらに、血液中を循環する過剰なグルコースは、動脈壁を弱らせ、リークや機能障害を引き起こし、動脈硬化症の形成を助長するのです。

 

 

高果糖コーンシロップ(HFCS)の役割 

1960年代から70年代にかけて、マクガバンレポート(原文)をはじめとする食事と健康に関する研究が行われました。

 

その結果、食事中の脂肪が心臓病のリスクを高めるという研究が発表されました。

 

これを受け、1980年にアメリカ初の「食事ガイドライン」が策定され、食事中の脂肪制限が推奨されるようになりました。(現在の食事のガイドライン 内閣府 食品安全委員会より

 

厚労省 世界のフードガイドより

  

その結果、食品業界は低脂肪商品を次々と開発しましたが、同時に砂糖の摂取量は大幅に増加しました。そして、肥満率も上昇していったのです。

 

カナダでは、成人の肥満率が1985年の6.1%から、2011年には18.3%へと3倍に増加しました。

 

この時期に登場したのが、高果糖コーンシロップ(HFCS)です。

 

これは米国のトウモロコシ補助金政策のおかげで安価に供給され、食品の甘味料として大量に使用されるようになりました。

 

結果として、米国やカナダではHFCSの消費が爆発的に増加し、2004年にはカナダ人一人当たりの砂糖摂取量が1日平均110グラム(ティースプーン26杯分にも達しました。

 

これは1日の総カロリー摂取量の約21%を占める量です。

 

しかもその三分の一以上は加工食品からの添加糖によるものです。つまりカナダ人は年間30ポンド以上の栄養価ゼロの添加糖を摂取している計算になります。

 

 

砂糖業界と飲料業界の影響 

高果糖コーンシロップの摂取がグルコース以外の健康問題を引き起こしているのではないか、という疑問も生まれています。

 

グルコースと異なり、フルクトースはインスリンを介さずに肝臓で代謝されるため、高いHFCS摂取は、腹腔内臓脂肪の蓄積を促進することがランダム化試験により示されました。

 

内臓脂肪の増加は、インスリン抵抗性、血中コレステロール上昇、高血圧といった、心臓病のリスク因子を引き起こします。

 

ただし、この研究では一般的な摂取量のほぼ2倍にあたるフルクトースを使用しており、現実的には一部の高摂取者に限った問題かもしれません。

 

さらに近年では、「Big Food(大手食品業界)」が1950年代のタバコ業界のように行動していたのではないか、という懸念が高まっています。

 

スタンフォード タバコの広告宣伝 より

 

1960〜70年代に行われた研究の一部では、砂糖業界が資金提供し、砂糖のリスクを軽視させ、脂肪を悪者に仕立て上げた証拠も明らかになっています。

 

 

世界的な砂糖課税の動き

 

この数十年で、加工糖の消費量は世界的に増加しましたが、各国政府はこの潮流を逆転させようとしています。

  

最も一般的な対策は、砂糖入り飲料(SSB)への課税です。

 

メキシコではすでに導入されており、イギリスも2018年4月から実施しています。

 

導入して間もないですが、メキシコではSSBの摂取量が減少した兆候が見られています。

 

カナダでは、SSB課税の議論に加え、子ども向けに低栄養価食品の広告を制限する動きが進められています。

 

これらの多くが添加糖を多く含む食品です。

 

ケベック州では1980年から独自に子ども向け広告規制食品表示(低食物繊維や低ナトリウムといった旨の表示)を行っており、カナダ国内でも最も低い小児肥満率を誇っています。

 

また、Health Canadaは、食品の栄養表示制度の改革にも取り組んでいます。

 

例えば、現在バラバラに記載されている砂糖、コーンシロップ、モラセス、ブラウンシュガーなどをまとめて一つの「糖類」として表示する案が検討されています。

 

これは消費者が実際の糖の量をより正確に把握できるようにするための措置です。

 

砂糖問題は一朝一夕には解決できません。

 

政府規制、市民団体の活動、消費者の意識向上……これらが一体となって初めて、砂糖摂取量の実質的な削減が可能となるでしょう。

 

 

まとめ

・過剰な砂糖摂取は肥満・糖尿病・心臓病のリスクを高めある

・高果糖コーンシロップの摂取量増加が内臓脂肪蓄積に関与している

・世界各国では砂糖入り飲料への課税など様々な対策が進められている

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