科学

過敏性腸症候群が勃起不全のリスクを倍増させる可能性がある

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過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome, IBS)は、大腸や小腸に病的な異常がないにもかかわらず、下痢や便秘、腹痛、腹部膨満感などの症状が慢性的に繰り返される病気です。

 

原因は不明ですが、高糖質&高脂質な食べ物や人工甘味料、グルテンなどを含む食べ物(パンや麺類など)を摂取している人に多く見られる傾向があるとされています。

 

今回紹介するセザール・バジェホ大学(ペルー)による研究では、過敏性腸症候群を持つ男性は、勃起不全(Erectile Dysfunction, ED)を発症するリスクが2倍以上高い可能性があるとする発表がされました。

 

この結果は、腸の状態と男性機能との関連性を探る新たな手がかりとなる可能性を示しているとし注目を集めています。

 

以下に研究の内容をまとめていきます。

参考記事)

Common Condition May Double Risk of Erectile Dysfunction, Study Finds(2025/01/10)

参考研究)

Irritable bowel syndrome and erectile dysfunction in medical students at a Peruvian university: an analytical cross-sectional analysis(2024/05/07)

 

研究の背景と目的

  

勃起不全は推定3,000万人の米国男性に影響を与える問題で、心理的ストレスや身体的損傷、病気など多くの原因が考えられます。

 

日本においては症状が軽度な場合も含めると、約1,800万人の患者がいるとされ、医療機関に相談できない者も含めると、さらに数が増えるとされています。

セザール・バジェホ大学の医師Mario Valladares-Garrido氏らは、EDの新たな要因として過敏性腸症候群との関連性が疑われるとして、本研究の実施へと動きました。

 

研究チームは、19歳から24歳の医学部生を対象に、腸の健康状態と性機能に関する調査を実施しました。

 

その結果、IBSと診断された学生は勃起不全の発生率が高いことが明らかになりました。

以下はその方法と結果です。

 

研究の方法と結果

【方法】

2021年後期学期に、ペルー北部の大学の医学生133人を対象に調査を実施。

 

参加者の平均年齢は22歳(範囲: 19-24歳)でした。

勃起不全(ED)の状態を5項目の質問で調べ、過敏性腸症候群(IBS)の有無を質問票で確認しました。

 

【結果】

• 勃起不全のスコアの平均は21点

• 勃起不全の人は38.4%で、中等度が3%、重度が9%

• 24.8%の人が中等度の抑うつ症状、13.5%が不安症状、24.1%が重度の症状を示した

• 10.5%の人が過敏性腸症候群を持っていた

• 過敏性腸症候群のある人は、ない人より勃起不全の割合が108%高いことがわかった

 

 

過敏性腸症候群と勃起不全の共通点

  

【過敏性腸症候群(IBS)の概要】

IBSは米国で人口の最大15%に影響を及ぼす一般的な疾患で、腹部不快感、けいれん、膨満感、便秘、下痢などの症状を引き起こします。

 

この疾患は、患者の生活の質に大きな影響を及ぼし、日常生活のさまざまな側面で不便をもたらします。

 

【EDとの共通要因】

一方、勃起不全も心理的ストレスや感染症など、さまざまな要因が関係しています。

 

今回の研究では、次のような共通の誘因が注目されました。

 

心理的ストレス: 医学部生は学業や将来のプレッシャーからストレスを抱えやすく、これがIBSおよびEDのリスクを高める可能性がある 

 

ホルモンの変化: 腸内環境の悪化がホルモン分泌に影響を与え、間接的に勃起不全を引き起こす可能性がある

 

慢性的な炎症: IBSや炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)は慢性的な炎症を引き起こし、血管障害を介して勃起機能に影響を及ぼす

 

またこれらの懸念される要因以外にも、他の消化器疾患(炎症性腸疾患など)勃起不全との関連が示唆されています。

 

これらの疾患はいずれも血管に影響を与える炎症を引き起こし、勃起を妨げる可能性があります。

 

 

心理的および身体的影響

研究チームは、IBSが患者の心理的および感情的な健康に与える影響についても注目しました。

 

IBS患者は、腹痛や消化器症状による生活の質の低下を経験することが多く、それが精神的ストレスを増幅させると考えられています。

 

この精神的ストレスは、性的健康に直接的または間接的に影響を与え、勃起不全のリスクを高める要因となり得ます。

 

 

今後の研究課題

Valladares-Garrido氏らは、今回の研究が大学生を対象とした限定的なサンプルで行われたことを指摘しています。

 

そのため、この結果がより広範な人口に当てはまるかどうかを確認するには、さらなる研究が必要です。

 

さらに、IBSとEDの間に存在する可能性のある因果関係やメカニズムを解明するための研究も求められています。

 

将来的に両者の関連が確認されれば、治療法にも影響を与える可能性があります。

 

 

治療への影響と包括的アプローチの重要性

今回の研究結果は、IBSとEDの治療において、身体的および心理的要因を包括的に考慮する必要性を示しています。

 

研究チームは、「IBSとEDの重要な関係性は、身体的および心理的要因を考慮した包括的なアプローチの必要性を示している。」と述べ、有効な治療方法として、以下のようなアプローチを挙げてています。

 

心理療法: ストレス管理や認知行動療法を通じて、患者の精神的な健康を向上させる

腸内環境の改善: 食事療法やプロバイオティクスの利用により、腸の健康をサポートする

医薬品の適切な使用: 炎症やホルモンバランスをコントロールするための医薬品の利用する

  

本研究は、過敏性腸症候群勃起不全の関連性を明らかにする重要な手がかりを提供しました。

 

特に、心理的ストレス慢性的な炎症といった共通の要因が、両疾患の発症リスクを高める可能性があることを示唆しています。

 

また、腸内環境の改善心理療法を含む包括的なアプローチが、これらの疾患の治療において重要であることが強調されました。

 

さらなる研究が進むことで、より広範な人口に適用可能な治療法や、より深い因果関係の解明が期待されます。

 

 

まとめ

・過敏性腸症候群を持つ男性は、勃起不全のリスクが2倍以上高い可能性がある

・心理的ストレスや慢性的な炎症が、両疾患の共通の引き金となる可能性がある

・さらなる研究が必要であり、両疾患を包括的に理解することが重要である

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