科学

再び広がる壊血病の脅威:経済的困難が健康に及ぼす影響

科学

17世紀から始まった大航海時代。

 

長い航海の中で、船乗りたちは壊血病という恐ろしい病気に恐怖しました。

 

壊血病は、新鮮な果物や野菜不足によるビタミンCの欠乏によって起こり、皮膚や粘膜からの出血、歯の脱臼や鬱状態などの症状が見られる病気です。

 

現代では医学の発展や食料の充実などにより、この病気に苦しむことは少ないとされています。

 

しかし、最近になって先進国のひとつであるオーストラリアの男性が壊血病と診断された例が判明しました。

 

今回のテーマとして取り上げていきます。

 

参考記事)

Man’s Case of Scurvy Shows Notorious Disease Could Make a Comeback(2024/10/24)

 

参考研究)

Scurvy—a re-emerging disease with the rising cost of living and number of bariatric surgical procedures(BMJ Case Report 2024年09月報告より)

 

 

壊血病の症例

オーストラリアに住むある50代の男性が、脚に痛みを伴う発疹やあざ、腫れを訴え、病院を訪れました。

 

サー・チャールズ・ガードナー病院の医師たちは、感染症や炎症、免疫系や血液の障害を疑いましたが、どれも適切とは言えない症状でした。

 

しかし、数日後にアンドリュー・デルマワン医師と彼のチームが詳しく話を聞くと、男性の食生活に経済的な問題が影響していたことが明らかになりました。

 

壊血病はビタミンCの不足によって引き起こされる病気で、十分な量のビタミンCが摂取されないと、傷の治癒が遅れ、毛細血管や歯茎からの出血が起こり、血液細胞の減少に繋がります。

 

50歳のこの男性も、白血球の数が少なく、尿中に血液が確認されるなど、ビタミンC不足の初期症状が見られました。これらの身体的な変化は、体重減少、関節の腫れ、身体の弱体化、うつ症状、そして最終的には致命的な出血のリスクに繋がる可能性があります。

 
幸い、治療は簡単で、患者はビタミンC 1000mgと他のサプリメントを摂取し始めた後、迅速に回復しました。

 

ビタミンCは新鮮な果物や野菜に含まれており、サプリメントとしても入手可能です。

 

 

しかし、この男性は以前に肥満手術を受けた後に処方されたサプリメントを、経済的な理由で中止していました。

 

根本的に必要なのは、サプリなどの一時的な対象ではなく、彼への支援やそうならないための社会なのでしょう。

 

 

経済的困難がもたらす健康への影響

 

日本で米の価格高騰が見られたように、オーストラリアでは2024年6月四半期までの12か月で、生活費指数(LIC)が3.7%から6.2%上昇、イギリスでは過去1年間に食品価格が6%近く上昇しています。

 

世界中で低所得者層が増加する中、多くの人が食事に関する厳しい選択を強いられています。

 

報告書には、「生活費の上昇により、人々はより安価で栄養価の低い食品に頼らざるを得ない状況にある」と述べられています。

 

ここでの安価で栄養価の低い食べ物は、ジャンクフードやファストフード、超加工食品などが当たります。

 

これらの食品は安価でありながらも高カロリーなため満腹感を得やすいですが、ビタミンなやミネラルなど栄養素が不足しがちです。

 

さらにはドーナツやスナック菓子などは高脂質、高糖質であることも多く、一部の栄養素に偏りがちである危険性と隣り合わせです。

 

また、ビタミンを摂取しようとしても、過度な加熱によってビタミンを含む栄養素が破壊されてしまうこともあり、果物や野菜はなるべく生に近い調理法で摂取するなどの工夫が必要です。

 

こういった事情から、デルマワン医師が診た患者の中には、食生活の偏り、肥満、手術を伴う既往歴、胃酸の分泌を抑制する薬(プロトンポンプ阻害薬)の使用など、様々なリスクを持つ者がいました。

 

これ以外にも、壊血病のリスクとして、低所得、摂食障害、喫煙、アルコール依存症、ステロイド使用、腎臓の問題といったことも特徴的で、そういった者は鉄やビタミンD、葉酸の欠乏も見られています。

 

この事例は一例に過ぎませんが、壊血病が先進国で増加している兆候があります。

 

例えば、イギリスでは2007年から2017年にかけて症例数が倍増しました。

 

デルマワン医師たちは、「生活費の上昇が続く中、壊血病は再び診断される病気になりつつある」と警鐘を鳴らしています。

 

 

壊血病のさらなるリスク

ビタミンC不足は、特に高齢者の記憶障害や意思決定の問題とも関連しています。

 

2022年の研究では、ビタミンC不足が認知機能の低下と関連していることが示されました。

 

フリンダース大学のヨゲシュ・シャルマ医師は、「ビタミンCは脳の機能に重要な役割を果たしており、不足すると認知機能の低下やうつ、混乱を引き起こす可能性がある」と述べています。

 

また、オーストラリアの高齢者の入院患者にはビタミンC不足が一般的であるため、医療専門家は常に注意を払い、ビタミンC不足が疑われる場合にはその状況を確認する必要があると指摘しています。

 

 

まとめ

・先進国で壊血病が発生、オーストラリアの男性がビタミンC不足により診断された

・原因は経済的困難による食生活の偏り

・生活費の上昇に伴い、人々が安価で栄養価の低い食品に頼るようになり、壊血病の再発リスクが高まっている

・壊血病は、ビタミンCが不足すると発症し、傷の治癒が遅れ、出血や重症化を引き起こすが、サプリメントで迅速に治療が可能

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