科学

甘い食べ物が不安やうつ病を助長する

科学

気分が落ち込みや不安が襲いかかってきたとき、甘いものやジャンクフードなどを食べてストレスを発散する……。

 

誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。

 

一見有効とも思われるこのストレス解消法ですが、実は逆効果である可能性が高いことが明らかになっています。

 

今回のテーマとして取り上げていきます。

 

参考記事)

Your Food Choices Can Fuel Anxiety And Depression. Here’s How.(2024/08/22)

 

参考研究)

Risk of depression and anxiety disorders according to long-term glycemic variability(2023/12/15)

The effect of a Mediterranean diet on the symptoms of depression in young males (the “AMMEND: A Mediterranean Diet in MEN with Depression” study): a randomized controlled trial(2022/08)

The Effects of Dietary Improvement on Symptoms of Depression and Anxiety: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials(2019/04)

High glycemic index diet as a risk factor for depression: analyses from the Women’s Health Initiative(2015/08)

 

 

血糖値の上昇と気分の変化

 

ハングリー精神」という言葉通り、動物の多くは、空腹時に感情が爆発しやすくなり、時には凶暴になることもあります。

 

それとは逆に、満腹の場合だと、獲物が目の前にいたとしても見向きもせずに寝入ってしまいます。

 

このように空腹の度合いと感情とは切っても切れない関係があり、生理的な欲求とも大きく関係しています。

 

延世大学校医科大学の最新の研究では、食べ物による血糖値の変動が、私たちの精神に対して部分的に関係があることを示唆しています。

 

血糖値が上がると、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞からインスリンが分泌され、このホルモンの作用によって筋肉や肝臓、脂肪に取り込まれていきます。

 

インスリンによって血糖値が下がりすぎないようにグルカゴンやアドレナリンやコルチゾールなどの血糖値を上昇させるホルモンも分泌されます。

 

この際コルチゾールなどの影響によって、筋肉などを分解して糖への変換が行われることで血糖値が上昇します。(糖新生)

 

また、偏食や不規則な食事などによってこれらのホルモンが変調をきたすと、それに伴い不安やストレス、倦怠感なども引き起こされることが知られています。

 

つまり、血糖値は不安やうつ病の悪化につながる可能性があるということです。

 

精神の不調は複雑で、社会的、心理的、生物学的要因などさまざな要素が絡みあって引き起こされます。

 

しかし、多数のランダム化比較試験では、生物学的要因のひとつとして、食事(特に女性)によるうつ病や不安の症状に大きく影響することが示されています。

 

一部の患者には抗うつ剤が効き、ある患者には効かないといったことも臨床の現場では見られます。

 

その場合、薬ではなく、食事によってメンタルのコントロールを行うことも、有効な手段になると言えるでしょう。

 

また、食事の改善は、精神科医や医師ではなく、個人が行える身近で経済的な予防策でもあります。

 

 

グリセミックインデックス

グリセミックインデックス(血糖値指数)は、食品がどれだけ糖質を吸収するかを示した値です。

 

ブドウ糖のグリセミックインデックス(以下GI)を100とし、GIが55以下の食品を低GI食品、56~69の間の食品を中GI食品、70以上の食品を高GI食品と定義されています。

 

 

2015年8月に発表されたコロンビア大学の研究では、高GI値の食品(甘い飲み物やお菓子)がうつ病の発症と高い確立で関係していることが示されました。

 

2022年8月に発表されたシドニー工科大学の研究では、血糖値の変動が気分に影響を与えるという観察結果が示唆されており、食べものがうつ病や精神病のリスク増加に関与していることは明らかになってきています。

 

一方、緑黄色野菜や果物、全粒穀物や豆類、魚や肉などを中心とした地中海式の食事(低GI値の食事)を行うと、精神的な不安に対するリスク低下を関連していることも示されました。

 

これは、食事に含まれている食物繊維などによって糖がゆっくり吸収され、血糖値の急激な上昇を抑えたために、ホルモンや神経伝達物質のバランスが保たれたことによるものとされています。

 

 

食事による気分への影響

 

現在でも食事とメンタルヘルスの関連性を説明するために、多くの科学的メカニズムが研究されています。

 

多くの研究で共通しているのは、前項でも説明したような血糖値の上昇による精神的な不安のリスク増大です。

 

パン、米、パスタ、ジャガイモ、クラッカーなどの砂糖や炭水化物を食べることで生じる血糖値の上昇は、ホルモン分泌や伝達分子に刺激を与えます。

 

例えば、ドーパミンは私たちの脳の喜びを感じる信号ですが、デザートや焼き菓子など甘いものを摂取した直後に“シュガーハイ”と呼ばれる多幸感を経験することができます。

  

本来、ドーパミンは、狩猟生活時代に生存に必要なカロリーまたはエネルギーを調達した際に得られる一種の快楽物質と考えられています。

 

ですが、カロリーをどこでも摂取できる現代においてその必要性は皆無です。

  

インスリンの仕事は、摂取した糖を細胞や組織のエネルギーとして使用できるように促し、血糖値を下げることです。

   

しかし、糖の摂取が過多になりがちな現代では、血糖値の急増によってインスリンの急激な上昇が引き起こされます。

 

大幅に上がった血糖値を下げるためにインスリンが多量に分泌されると、血糖値が本来の値よりも下回ることがあります。

 

こうなると、前述したように血糖値を上昇させるホルモンであるコルチゾールやアドレナリン、ノルアドレナリンなどが分泌され、血糖値を適切に戻そうと働きます。

 

しかし、これらのホルモンは、血糖値の正常化以上に、不安、恐怖、または攻撃性となって影響を与えます。

  

性別、遺伝、腸内細菌叢などの違いによって、誰もが同じような影響を受けるわけではありません。

  

したがって、食事の最適化が全ての心理的悪影響の解決手段とは言い切れませんが、食事が悪いことによって多くの人が精神的に悪影響を受けていることは確かなようです。

 

また、砂糖を人工甘味料に置き換えるといった方法も悪手です。(Consumption of Ultraprocessed Food and Risk of Depressionより)

 

人工甘味料によって甘味を感じると、血中に糖がないのにインスリンが分泌されます。

 

これが続くと、インスリンを分泌するメカニズムやそれを受け取る細胞の受容体などが変調をきたし、結果的にうつ病や精神病、果ては糖尿病などの生活習慣病と強く関連性があることも指摘されています。

 

これらを避けるためには、“甘いものを断つ”ということが最適な手段となります。

 

それが無理な場合は、食事に全粒穀物を追加したり、しっかり噛んでゆっくりと食べることを意識したり、血糖値を急激に上げやすいジュースや洋菓子だけでもやめてみたりと段階を踏むことが推奨されます。

 

 

まとめ

・血糖値の変動が私たちの精神に影響する

・血糖値の急激な上昇は、インスリンによって血糖値を下げ過ぎる原因となる

・必要以上に下がった血糖値は、コルチゾールやアドレナリンによって再度上昇される

・これらホルモンや神経伝達物質の影響によって不安や恐怖が引き起こされる

・甘いものを断つことが一番の解決法

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