【前回記事】
この記事では著書“図鑑心理学”を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。
心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から勉強になった内容を取り上げていきます。
今回のテーマは「クレペリンと双極性障害」です。
クレペリンと双極性障害
1899年、ドイツの精神科医エミール・クレペリンによって、“双極性障害”が他の精神障害とは異なることが明らかにされました。
双極性障害は、気分が高まり活動的になる躁状態と、気分が落ち込み普段の行動にも影響が出るような鬱状態を繰り返す病気です。
この障害のメカニズムは解明されていませんが、私たちの2%に現れるといわれています。
現代では、うつ病と関係して広く知られる病気ではありますが、双極性障害の患者の存在は、もっと古くから知られていました。
作家のバージニア・ウルフと画家のヴィンセント・ヴァン・ゴッホはともに、双極性障害であったといわれています。
二人とも自殺を試みたことがあるという共通点があります。
双極性障害は、すぐれた才能をもつ、創造性の豊かな人に共通して見られるともいわれます。
そうした人たちは芸術や芸能の世界で名声を得ており、多くの著名人が双極性障害に苦しんでいることからも明らかです。
うつ状態では覚醒水準が低下しますが、躁状態では、罹患していない人が経験したことのないような気分の高揚感を覚えます。
おそらく、躁状態からくる覚醒が、創造性を高める働きも併せ持っているのでしょう。
これだけ聞くと躁状態が悪いことではないように聞こえますが、日常生活において、取り返しのつかない、間違いを起こすこともあります。
一時的に気分が高まった勢いで仕事を捨て、借金をし、会社を立てようとするも失敗する例などがそれです。
人によっては、双極性障害であることを認めない人もいるため、扱いが難しい病気ではありますが、治療せずにいると自傷や自殺につながることがあります。
1950年代にこの用語が導入された当初、クレペリンがこの病気に与えた名称は、躁うつ病という精神病でした。
診断の中で彼は、患者は一般的な生活を送っているにもかかわらず、躁病またはうつ病の症状に関連した行動が規則的に現れることに注目しました。
規則的な気分の変動レベルが低い病態はすでに気分循環性障害として知られており、この障害が新たに同定されたうつ病という疾患の軽度の病態だと考えました。
ほとんどの患者は、躁病とうつ病の症状が短期間に入れ替わるなど、軽度とは言えないような深刻な情動変化を経験していました。
これ以降、心理的な変化に深く関係のあるこの障害が広く研究されていくことになります。
双極性障害の症状について、初めて指摘したのは、実はクレペリンではありませんでした。
1850年代に、フランスの神経科学者ジュール・バイヤルジェとジャン=ピエール・ファルレが同様の症状について報告しています。
バイヤルジェはこれを二重病態精神病とし、ファルレはこれに循環性精神病と呼びました。
クレペリンは、彼らの研究の分類を試みる中で早発性痴呆(現在でいう統合失調症)を発見し、精神医学の分野として体系化したことも大きな功績の一つです。
また、クレペリンは、双極性障害は男女に等しく現れ、遺伝的に受け継がれると述べました。
このことは後年の研究で支持されることとなっていきます。
近代の理論の一つでは、双極性障害は情動に関係した脳の一部にストレスがかかると過剰に活動してしまい、脳は気分変化に陥りやすくなるということが主張されています。
また別の可能性として、神経のナトリウムチャネルの機能不全が双極性障害の原因であるのかもしれないという説もあります。
ナトリウムチャネルは、うつ病のときに働きが遅くなり、躁病のときは過剰活動を示します。
チャネルの活性、不活性を司る何らかのメカニズムが気分の上下と関係していると言うわけです。
いずれにしろ、現在でも未解明な部分が多く、今後の研究に期待が持たれる分野でもあります。
まとめ
・クレペリンによって、双極性障害が他の精神障害とは異なることが明らかになった
・彼の研究によって双極性障害は男女に等しく現れることや、遺伝的に受け継がれることが分かった
・近年の理論は、脳にストレスがかかることや、ナトリウムチャネルなどの要因も考えられている
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