心理学

【歴史を変えた心理学③】実験心理学の始まり

心理学

【前回記事】

 

この記事では著書“図鑑心理学”を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

 

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から気になった内容を取り上げていきます。

  

今回のテーマは「実験心理学の起源とジェームズ・ランゲ説」です。

  

  

 

実験心理学の始まり

ヴィルヘルム・マクシミリアン・ヴント(1832~1920年)

 

ヴィルヘルム・ヴントは、19世紀〜20世紀初頭にかけて活躍したドイツの生理学者心です。

 

生理学者でもあると同時に哲学者でもあったヴントは、哲学的な思考で人間と精神の関係を解き明かすことに関心を寄せていました。

 

彼は訓練を受けて医師の資格を取得するも、心理学への熱は冷めることはなく、1879年にはドイツのライプツィヒ大学に心理学の実験室を設立しました。

 

心理プロセスを調べるためのこの実験室の開設によって“実験心理学”が始まっていきます。

 

また彼の教え子たちは世界中に散り、 各々が心理学の研究拠点を開設するなど、近代心理学に大きな影響を与えることになったことから、いつしか彼は“実験心理学の父”と呼ばれるようになっていきます。

 

ヴントは、ダーウィンらが人間の行動を広範囲にわたって解明しようと動物の観察を行ったことを知っていました。

 

この考えを基にヴントは、すべての生物に何らかの“精神”が備わっていると考えました。

 

ネズミやヒトなどの多細胞生物はもちろん、アメーバのような単細胞生物にも精神が備わっており、精神機能のあるところには意識があり、捕食行動や生殖行動などに作用するとしていました。

 

ただし、彼は“意識”という単語を、“あらゆる心理プロセス”という意味で用いました。

 

したがって、細菌のような生物が、私たちと同じように考えたり、夢を見たり、 想像したりすることができると言ったわけではありません。

 

また、ヴントは、人の内側にある経験を研究するため、測定する事柄を「外的観察」と「内的観察」という二つのタイプに区別しました。

 

外的観察は、空気を吹きかけると目が瞬くといった反射のように、明確な原因に対する結果のことを言います。

 

この外的観察では、実験参加者の精神生活について詳しく知ることができません。

 

彼が本当に求めたものは、客観的に観察することができない、内的観察または“心理的”観察でした。

 

内的観察は、事象(感覚刺激)に対してどのように感じたかを観察することです。

 

そのため、彼は実験参加者の心に浮かぶ思考や感情だけを記録し測定しようとしました。

 

つまり、人間の意識というものを測定しようとしたのです。

 

彼は実験参加者に対して、質、強度、そして“情調”という三つの要素を用いて感覚刺激について報告するように求めました。

 

ここでの「情調」とは、実験参加者が感覚刺激についてどのように感じたかを言い表すことです。

 

しかし、彼は、人の自由意思が心や身体をどのように制御しているかを数量化する方法を見つけることはできませんでした。

 

この段階で既に、人間の意識とは複雑怪奇なシステムあることが判明し、彼の弟子や、そのまた弟子たちによって研究が進められていくことになります。

 

  

「笑うから楽しい?」ジェームズ・ランゲ説

ウィリアム・ジェームズ(1842~1910年)

 

1880年代の半ば、“情動(一時的で急激な感情の動き)”という複雑な心理プロセスを解明する新しい方法を提案した者達がいました。

 

アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズとデンマークのカール・ランゲです。

 

楽しいから笑うのではない、笑うから楽しいのだ」というどこかで聞いたことがあるフレーズは、ウィリアム・ジェームスが残した言葉です。

 

笑うから楽しい」とは一体どういうことなのか……。

 

それは彼らの心理学の研究を見ると明らかになってきます。

 

二人は、研究者として交流があった訳ではありませんが、同じ時期に“最初に生じるのは身体反応と心的反応のどちらなのか”という研究課題に取り組んでいました。

 

彼らは“情動”を理解しようと、次のようなシナリオを考えつきました。

 

【シナリオ】

怒り狂った大きな雄牛があなたに突進してきたとする。

 

あなたの筋肉は緊張し、心臓の鼓動は高まり、顔から血の気が引き、胃が締め付けられる感覚に陥る。

 

すなわち、 恐怖が生まれる。

 

あなたは恐怖とあらゆる身体変化とを結びつけ、あなたが恐怖に気づくことで精神的な硬直が生じる。

 

ジェームズとランゲは、身体の生理的な覚醒は雄牛を知覚した結果生じたものであるという説明に納得しませんでした。

 

この説明は、もともと11世紀にアヴィセンナが脳の機能モデルのなかで具体化した「共通感覚」のアプローチでした。

 

このアプローチによれば、雄牛に対する共通感覚の知覚が不安の感情を生み出すことによって、適切な方法で反応するよう知覚が身体に命令を与えます。

 

これに対しジェームズとランゲは、「脳の感覚器官が身体に指令を送って反応を準備させ、脳内変化が意識にフィードバックさ れることによって、恐怖と結びつけた感情を生成する」と考えました。 

 

このことは情動反応が二次的な効果であることを意味しています。

 

身体は要求されたことを実行するのであって、心や感情は単にそれに協力するために後から生まれるにすぎないという意見です。

 

カール・ヘンリック・ランゲ(1834~1900年)

 

この考え方は、情動に関する“ジェームズ・ランゲ説”として知られるようになりました。

 

しかし、 この理論に名前がつけられた二人は研究に関して完全に意見が一致していたわけではありませ ん。

 

ジェームズはランゲよりも数年間早く研究に着手しており、情動は身体変化から生じる現象の一つで、とくに明確な働きをもっていないことを主張していました。

 

一方、ランゲは、自覚された情動は身体に変化が生じていることを意識に伝える一種の信号であると考えていたのです。

 

細かい違いはあれど、根底では行動の後に情動が来るという考えは変わっていません。

 

しかし、この理論では、身体が麻痺している人は情動を感じることができないのではないか、という反対意見もありました。

 

1920年代になり、身体の覚醒に及ぼすホルモン (アドレナリンなど)の役割が明らかにされると、さらにその批判は強まります。

 

アドレナリンが投与された検査対象者は、恐怖を感じることがほとんどなく、情動反応が身体反応をコントロールしているともとれる結果が見られるようになりました。

 

1960年代になると、スタンリー・シャクターとジェローム・E・シンガーという、二人の研究者が2要因理論を提唱しました。

 

この理論では、情動は身体的な覚醒と、正しい情動反応を選択する認知プロセスの両方から引き起こされると考えられています。

 

心理学の研究が進むごとに、ジェームズ・ランゲ説は影を潜めていきます。

 

しかし近年では、「笑うから楽しい」という言葉通り、行動する(笑う)ことで後から情動反応(気分が上向きになる)が表れることも分かっており、再評価がされる研究分野でもあります。

 

買う気がなかったのに、試遊してみたらいつの間にか購入していた……」なんてことも、実はジェームズとランゲの理論が基になっていたりするかもしれません。

 

 

まとめ

・ヴントは「すべての生物に何らかの“精神”が備わっている」と考えた

・「外的観察」と「内的観察」という二つのタイプに区別して実験を行い、実験心理学が発展していった

・ジェームズとランゲはこの精神の動きを「笑うから楽しい」という視点で説明しようとした

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