心理学歴史

【歴史を変えた心理学②】情緒を解き明かそうとしたモーズリーとダーウィン

心理学

【前回記事】

 

この記事では著書“図鑑心理学”を参考に、歴史に影響を与えた心理学についてまとめていきます。

  

心理学が生まれる以前、心や精神とはどのようなものだったのかに始まり、近代の心理学までをテーマとして、本書から気になった内容を取り上げていきます。

  

今回のテーマは「情緒を解き明かそうとした二人の男」についてです。

  

  

 

ヘンリー・モーズリーと気分障害

ヘンリー・モーズリー(1835~1918年)

 

19世紀に活躍したイギリス人医師のヘンリー・モーズリーは、病気を通じて精神を研究した精神医学の第一人者です。

 

彼は、うつ病や不安障害などの心の病気は物理的な脳の障害であり、情動を通じて引き起こされると主張した人物でもあります。

 

かつて彼は、インドの英国植民地局に在籍していた際、“精神病患者”が集められた病院で半年間働きました。

 

ここでの「精神病患者(lunatic)」とは、外見上は身体に問題はなく、精神障害による衰弱に苦しんでいる人たちのことを言います。

 

モーズリーは、精神病患者らと接してるうちに、自分の仕事が患者たちを元気づけることに気づきました。

 

この経験から彼は、本来志望していた外科医から精神医学へと進むことになります。

 

1800年代半ばの精神医学は著しく発展が遅れた学問領域であり、就職先も限られており、モーズリー自身も簡単に職を得ることができませんでした。

 

しかし、幸運にも、当時のロンドンで著名な精神科医ジョン・コノリーの娘と結婚し、義父の開業する民間の精神病院で働き始めることができました。

 

モーズリーはその病院を、自らの理論を検証する実験場として使います。

 

1870年に彼は、「身体と精神」という題名の講演を行い、実験から得た理論を提唱しました。

 

 

その中でモーズリーは、多くの精神疾患は患者の情動症状によって分類できることを主張しました。

 

彼はそれを“感情障害”と呼びました。

 

これは現在、“気分障害”として一般的によく知られています。

 

モーズリーは、気分障害を3つのタイプに分け、それぞれ“うつ病”、“躁病”、不安症”として現れると考え、今に続く精神医学の基礎を作っていくことになります。

 

モーズリーの時代以降、気分障害は下位の障害に分類されるようになっていきました。

 

現在、気分障害は脳の化学活性の一種であると考え られていますが、その原因はいまだ解明されていません。

 

 

チャールズ・ダーウィンと情動

チャールズ・ダーウィン(1809~1882年)

 

チャールズ・ダーウィンといえば、1859年に「種の起源」を出版し、“人間は神によって創造された”という宗教的な生物観ガラッと変えた人物です。

 

生物の徹底的な観察によって進化論を提唱するまでに至った彼ですが、「種の起源」を執筆した後も、勢力的に研究を続けていました。

 

彼が関心を示したのは、私たち人間、特に“情動(急激な感情の動き)”の機能についてです。

 

彼は1872年に「人及び動物の表情について」という書を出版しました。

 

この本は、第二作「人間の由来」に続く三つ目の著作で、「種の起源」で書ききれなかった、人間や動物の表情について考察したものです。

 

ダーウィンは、先にも紹介したヘンリー・モーズリーの友人でもあります。

 

二人は精神医学に多くの関心を共有しており、“情動”についても頻繁に議論しあう仲でした。

 

ダーウィンは、情動にはどのようなものがあるか、 なぜ人間には情動があるのか、情動と行動はどう違うのか、サルなど人間以外の動物にも見られ るのはなぜか、といったことを研究しようとしました。

 

ダーウィンの関心事の一つは、顔の表情を通して情動はどのように他者に伝達されるのかというものでした。

 

彼は、フランスの研究者、ギヨーム・ベンジャミン・アルマン・デュシェンヌ・ド・ブローニュと共同研究を行いました。

 

老人に電気生理装置を使うブローニュ

 

ブローニュは、 顔の筋肉にわずかな電気ショックを与えると、特定の表情が生じることを研究で示しており、ダーウィンは、この表情の変化から、身体的目的に遡ることができるのではないかと考えました。

 

サルが敵を警戒する時など、うなり声をあげるときは、威嚇のために歯牙を見せつけます。

 

一方、危険でないと分かると、うなり声から笑顔へと変化することがあります。

 

笑顔自体もよく見てみると、歯牙をむき出しにして、すぐにでも相手に噛みつく動作に移行できる状態です。

 

しかし、本来の意図は、手段をもっていても相手に危害を加える意思がないことを表す一種の信号です。

 

ダーウィンは、人が感じる怒りや悲しみなどの情動反応は、精神的な反射だと述べています。

 

そのため、面白いものを見ると怒りや悲しみを判断するまでもなく大笑いし、バカにされると怒りたくなるのです。

 

その場の状況に対し、考えすぎずに適切に反応することができるのも、情動が体に作用した結果と言えるでしょう。

 

ダーウィンは、この神経反射の過剰活動によって、怒りや妄想といった不適切な情動も生まれてくると考えていたよう。

 

このように、体と精神を切り離した考え方が、この時代に形成されてきたことが分かります。

 

では、どのような刺激がどのように体に影響を及ぼすのか……。

 

これを探求することが、心理学の発展に繋がっていくのです。

 

 

まとめ

・モーズリーが「精神疾患は患者の情動症状によるものである」と主張し、“うつ病”、“躁病”、“不安症”が分類されるようになった

・ダーウィンは、動物の観察によって生態を明らかにしながらも、人間の情動にも関心をしめしていた

・彼らの活動によって、体と精神を切り離した考え方が形成されてきた

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