【前回記事】
この記事は、著書“心理学をつくった実験30”を参考に、”パヴロフの犬”や”ミルグラム服従実験”など心理学の基礎となった実験について紹介します。
「あの心理学はこういった実験がもとになっているんだ!」という面白さや、実験を通して新たな知見を見つけてもらえるようまとめていこうと思います。
今回のテーマは、“タクシー課題”です。
タクシー課題
【本書より引用(要約)】
ある都市でひき逃げ事件が起こりました。
その都市ではタクシー会社が二つあり、一つ目の会社の車両は青色で統一され、全体の85%のシェアを占めています。
もう一つの会社の車両は緑で統一され、残りの15%のシェアを持っています。
事故の目撃者は、「事故を起こしたのは青いタクシーだ」と証言しました。
裁判所は、この目撃者の証言が正しいかどうかを調べるため、標準的な視界が保たれている日にタクシーの色を見分けるテストを行いました。
サンプルでは、青いタクシーと緑のタクシーを半分ずつ提示したところ、正しく色を識別できた割合は80%ほどでした。
ここで質問です。
このひき逃げ事件を起こした車両が青いタクシーだった確率は何%でしょう。
この問題は、行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーらによって行われた実験の一部で“タクシー課題”と呼ばれています。
ダニエル・カーネマン(1934~) Wikipediaより
問題によってはタクシーの色が違ったり、車両のパーセンテージが変わったりと多少の差異はありますが、どの問題でも被験者は「ひき逃げ事件を起こしたのは青いタクシーであった可能性が80%ほどである」と回答するといいます。
しかしこれは間違いで、正しくは約41%となります。
よくよく考えてみれば、41%という数字は出ずとも80%でないことはすぐに分かります。
この確率の計算には2つの要素があります。
ひとつは、都市のタクシーのうち85パーセントが青、15パーセントが緑ということ。
もうひとつは、タクシーの色を正しく識別できる人の割合が80%ということです。
ここで、識別する人が「緑のタクシーがひき逃げ事故を起こしたと言う確率」を正しく見ていきます。
緑のタクシーが事故を起こし、それに対して正確に述べた場合は15%×80%となります。
そして、実は青いタクシーが事故を起こしてしまったにもかかわらず、識別する人が「緑のタクシーが事故を起こした」と述べた(識別する人が誤った)場合は85%×20%となります。
ここから、識別者が「緑のタクシーがひき逃げ事故を起こした」と述べる確率は、
(0.15×0.8)/(0.15×0.8+0.85×0.2)=0.413……
となります。
直感的に考えると80%かそれに近い数字になることも想像できますが、要素を分解していくと必要な比率などが考慮されていないことがあることを感じてもらえたと思います。
これは、事前確率の無視と言われるもので、私たちが生活している中でもよく見られる現象と言われています。
直感はあてにならない
現在のスーパーコンピューターでさえ、落ち葉の軌道を計算することができないとされています。
その理由は、気流や落ち葉の形状、空気の粘土など様々な情報が複雑に絡み合い、最終的にどこに落ちるかは理論的には確率で表せても前提となる要素が多すぎて計算が困難だからです。
また、直感の怖さは、株やFXの短期取引をやったことがある方は分かるかもしれません。
直感に頼ると失敗することが多い、もしくは大きく負けてしまうことがある……なんてことを経験したり、それに似た話を聞いたことがないでしょうか。
「なんとなく上がりそうだなぁ」という直感よりも、チャートの形状からインジケーターを利用すると多少なりとも利確や損切りを決めることができます。
人の直感とはその程度のものなのです。
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