前回記事
この記事では著書「身の回りのありとあらゆるものを化学式で書いてみた」から、興味深かった内容や身の回りの物質の性質を紹介していきます。
今回取り上げるテーマは“匂い”です。
前回の記事では油について構造についてまとめていきました。
油の性質は炭素同士の結合の強さによって変わることが分かりました。
また、炭素の同士が強く結合して折れ曲がった部分に酸素が作用し、匂いの元などの様々な成分に変わることも紹介しました。
今回はその油から発生する“匂い”についての化学です。
野菜を切ると香る仕組み
野菜や果物を切った際、カットしたものによって独特の香りを感じることがありますよね?
あの香りも分子が反応を起こしたものです。
今回はカロリーが最も低い果実として人気を博した“キュウリ”を例に挙げていきます。
キュウリを切ると特有の青臭さが現れますよね。
これは切り口の細胞が破壊されたことによって、“リパーゼ”と呼ばれる酵素と細胞を構成していた油脂やリン脂質、糖脂質、そして水が反応したためです。
反応を図で見てみるとこのようになります。
前回の記事では、油脂を構成する分子の折れ曲がった部分に酸素分子O2が作用して構造が変わることを示しました。
今回は水H2Oがあることで左側の分子に作用します。
こうして現れるのが“α-リノレン酸”です。
α-リノレン酸には折れ曲がった部分が3つ(赤の矢印)見えますね。
折れ曲がっているということは、そこから分解できるかもしれないということです。
この部分に酵素が作用して現れた分子がキュウリの香りに深く関係していきます。
次に主要な酵素と分子の分解についてまとめます。
リポキシゲナーゼとリアーゼ
本来、油脂が酸素などと反応するには時間がかかったり熱が必要だったりします。
しかしそんな特別な条件をクリアする要素が“酵素”です。
この酵素によって酸素の結合などが促進されて、化学的な変化が起こりやすくなります。
ではα-リノレン酸の反応について見ていきましょう。
今回のキュウリの香りについてはリポキシゲナーゼとリアーゼという2つ酵素が引き起こします。
まずはリポキシゲナーゼの作用によって酸素O2がα-リノレン酸の折れ曲がった部分に結びつきます。(この際水素もついでにくっつきます)
これだけではまだ分子の分断が起こりません。
この反応を促進させるのが“リアーゼ”です。
リアーゼの作用によって分子が分断され、“シス,シス-3,6-ノナジエナール
(C9H14O)”という分子が現れます。
このC9H14Oはメロンの香りがするそうです。
この分子に別の酵素が働くことで、スミレ葉アルデヒドとキュウリアルコールに分解され、この2つの分子がキュウリの香りの正体なのです。
端っこの水素Hの数が変わっただけですが、それだけで香りに影響を与えているのです。
まとめ
いかがでしたが匂いの化学。
今回は油脂から派生して、分かりやすいキュウリの匂いについてピックアップしました。
トマトなどもこれとよく似た原理で匂いを放ちます。
普段何気なく嗅いでいる匂いですが、知らぬところで酵素や分子たちがせっせと働いていたのですね。
ちみにスミレ葉アルデヒド(C9H14O)の形が少し変わると、トランス-2-ノネナール(C9H16O)になり、この分子は加齢臭と同じ臭いになります。
ほんの少し結合が変わっただけですが、人が感じる臭いに大きな差がでるのもまた面白いですね!
加齢臭は衣服についた皮脂の劣化が主な原因と言われています。
対策としては、油っこい料理を控える、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化作用のある食べ物を摂取する、適度に運動をする、ストレスを溜めないなどが挙げられます。
節制と運動、そしてリラックスは自分のためにも他人のためにも良い効果があるようです。
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