科学

【身近な化学⑤】油の仕組みと劣化する理由

科学

前回記事

 

この記事では著書「身の回りのありとあらゆるものを化学式で書いてみた」から、興味深かった内容や身の回りの物質の性質を紹介していきます。

   

今回取り上げるテーマは“油”です。

 

これまで砂糖ご飯(デンプン)ときました。

 

これに続いて調理に欠かせないものといえば“油”ですね。

 

油といえば縄文末期頃から栽培されていたエゴマや聖書におけるオリーブなど、人類と関わりが深い物質でもあります。

 

化学の世界では、液体のものを油、固体のものを脂肪として区別しこれら2つを合わせて油脂と呼んでいます。

 

では油はどのような構造を持つ物質なのでしょうか?

 

今回は油について化学の目を向けていきます。

 

  

油の共通点

油の構造の模式図

油の共通点は図で示した通り、

・左側に水素原子Hが5つ、炭素原子Cが3つ

・真ん中に酸素原子Oが3つ

・右側にOCのペアが3つ

ついていることです。

 

そして図のオレンジ色の部分には油の種類によって色々な構造が当てはまっていきます。

 

炭素Cがたくさんつながり、その炭素の周りを水素Hが取り囲むように結びついていますね。

結びつく水素の数によっても油の性質が異なります。

 

また、炭素のが強く結合する場合もあり、二重線で結ばれた場所は強制的に角度が決まって折れ曲がったりしています。

 

油脂はこの構造が様々な組み合わせで結びついており、その比率によって液体、固体のなりやすさが決まっていきます。

 

では油脂の液体、固体はどのように決まっていくのでしょう?

 

 

並べやすい=固体になりやすい

油脂の分子を上のように枠線で囲んだ模式図で表します。

 

Aタイプは水素と炭素の部分が直線的な構造の分子です。

 

Bタイプ折れ曲がった構造の分子です。

 

液体、固体になる傾向は、この分子の並べやすさによって変わります。

  

構造全体を線で囲んだものを並べてみると固まりやすさがより分かりやすくなります。

Aタイプは整列しやすい=固体になりやすい

直線的な構造の分子は整列しやすいことが分かります。

  

このような場合は固体になりやすいことを表しています。

 

  

Bタイプは整列しにくい=固体になりにくい

逆に、折れ曲がった構造の分子は形がいびつなため整列しにくいことが分かります。

  

このような場合は分子が動きやすくなるため、液体になりやすいことを表しています。

  

身の周りの油脂は、直線の構造と折れ曲がった構造の分子がごちゃ混ぜで含まれています。

 

なので実際にはAタイプの分子とBタイプの分子の比率によって固まりやすさが変わってきます。

 

ちなみに、固体の油脂の多くは牛脂やバターなどの動物から得られ、液体の油脂は菜種油や大豆油などの植物から得られます。

 

 

劣化する油

ここまで油の構造について触れてきました。

 

この先は油を扱ううえで心得ておくべき“油の劣化”についてまとめていきます。

 

油が劣化する原因の大きな要因は“酸化”です。

 

油由来の製品を常温で空気中に放置しておくと、味や風味が落ちるなんてことがよく言われます。

 

これは空気中の酸素と油脂が化学反応を起こし、匂いを発する分子に変わってしまうことが原因です。

酸素が油脂の折れ曲がっている部分目掛けて突撃してくっつきます。

こうしてできた分子は不安定なため、周りの水素分子と結合して安定化しようとします。

それでもまだ不安定なため、油脂の右側部分からちぎれてしまいます。

 

ちぎれた部分は新たな分子となり、その分子の中に刺激臭を持つものが現れてしまうのです。

 

この反応は熱を加えると促進されます。

 

高音調理の代表である揚げ物に使われた油は、本来の油ではない様々な分子が生まれてしまうため、頻繁に新しい油に取り替えるなど注意が必要です。

 

 

 

ヒドロキシノネナール

最後に油の変質が人体に影響を及ぼす事例について紹介します。

 

まず避けるべきなのがサラダ油やキャノーラ油です。

  

これらの油に含まれるリノール酸などが変化すると、毒性の強い“ヒドロキシノネナール(4-hydroxy-2E-nonenal)”が生成されることがあります。

  

このヒドロキシノネナール人体に様々な害があるのではないかという主旨の研究が多く見られます。(参考文献はこの項の最後に記載)

  

自分が文献を読んでまとめた内容を以下に記載します。

  

【ヒドロキシノネナールとは】

植物油(サラダ油やキャノーラ油など)に含まれる、リノール酸が変化した毒性の強い物質。

  

リノール酸が200度以上で加熱されるとヒドロキシノネナール(以下HNE)が急激に増える。(180度で30分以上加熱するなど、比較的低温でも加熱時間によってはHNEが増える)

  

・HNEが体内入ると血液によって体中に拡散、脳や臓器の細胞をアポトーシス(細胞の自己死滅)させる危険性がある。

  

・脳(特に海馬)の神経細胞を保護する役割がある、HSP(ヒートショックプロテイン)というタンパク質を損傷さてしまう。

  

・その結果記憶を司る海馬が萎縮し、認知症の原因になってしまう。

  

・その他のHNEによるとされる疾患:神経疾患、代謝疾患、癌など

 

リノール酸必須脂肪酸の一つです。

   

人間の体に必要なリノール酸は1日9g前後とされていますが、お米お肉を摂取することで充分足ります。

  

リノール酸が多く含まれるサラダ油の代わりに、オレイン酸が多く含まれるオリーブ油に切り替えたりと工夫が必要なようです。

  

ヒドロキシノネナールについての参考文献)

Hsp70 interactions with membrane lipids regulate cellular functions in health and disease 2019年

酸化障害の基点としての脂質ラジカルの検出および制御 2017年

Role of 4-hydroxy-2-nonenal (HNE) in the pathogenesis of alzheimer… 2016年

加熱した食用油に生じる有害アルデヒド4-hydroxy-2E-nonenalおよび類縁化合物4-hydroxy-2E-hexenalの定量分析法 2006〜2011年

油のタイプ知り上手に摂取 リノール酸の取りすぎ注意 日経電子版web

植物性なら安心なんて大ウソ!生活習慣病には「サラダ油」が一番危険 週間現代web

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか油の化学。

 

今回は油の構造や形に注目してまとめました。

 

分子の形によって固体になりやすいか液体になりやすいかが決まっていくことが分かりましたね。

 

また酸化することで、本来の油とは異なる分子が生まれてしまうことも分かりました。

 

特にキャノーラ油やサラダ油には要注意ですね。

 

またファストフード店の揚げ物など、どのような油を使っているのか分からない場合など知らず知らずのうちに質の悪い油を摂取していることがあるかもしれません。

 

付き合いなどでどうしても食べなければいけないときなど以外は、そういった油を避ける意識ができると人生で健康にいられる時間が伸びるかもしれませんね!

 

自分も気をつけていきます!

 

関連記事

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました