下剤の常用は認知症やうつ病リスクを高める──腸と脳をつなぐ意外な関係とは

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便秘に悩んだ経験がある人であれば、市販の下剤を使ったことがあるかもしれません。

 

下剤は処方箋なしで手に入るものが多く、排便を促す手段として広く利用されています。

 

特に高齢者では、排便機能を維持するために下剤に頼る人も少なくありません。

 

一方で、下剤を長期間にわたって常用することは望ましくないと、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

 

実際、慢性的な下剤使用による深刻な合併症はまれであるものの、完全にリスクがないわけではありません。

 

そのため、可能な限り、下剤の長期使用は医師の指導と経過観察のもとで行うべきとされています。

 

近年、こうした下剤の常用が、認知症やうつ病といった精神・神経疾患のリスク上昇と関連する可能性を示唆する研究結果が報告され、注目を集めています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Regular Laxative Use May Raise Risks of Dementia And Depression(2026/02/05)

 

参考研究)

Adverse drug event of hypokalaemia-induced cardiotoxicity secondary to the use of laxatives: A systematic review of case reports(2020/07/16)

 

 

下剤には主に5つのタイプがある

大黄(下剤の効果をもつ生薬)に含まれる成分 「センノシド」の構造式

   

世界的に経口で使用される下剤は、作用機序の違いから、主に次の5種類に分類されます。

   

1つ目は、膨張性下剤(食物繊維系下剤)です。

  

水分を吸収して便の量を増やし、腸の自然な収縮運動を促します。

  

サイリウム(オオバコ)小麦デキストリンなど食物繊維を含むサプリなどが代表例です。

   

2つ目は、浸透圧性下剤で、大腸内に水分を引き込み、便を柔らかくして排出しやすくします。

   

モビコール、ラクツロースなどが含まれます。

    

3つ目は、便軟化剤で、ドクサート(日本未承認)などが該当します。

  

界面活性剤のように作用し、脂肪と水分を便に混ぜ込むことで、硬い便を柔らかくします。

   

4つ目は、刺激性下剤です。腸管の筋肉に直接作用し、リズミカルな収縮を引き起こします。

ビサコジル製剤、センナ製剤(センノシド)などが知られています。

 

5つ目は、潤滑性下剤で、腸管の内側を覆うことで便の通過を助けます。

 

液状パラフィン(日本未承認)などが代表的です。

 

日本では近い作用のものにグリセリン浣腸があります。

  

 

下剤を使う前に試すべき生活習慣の改善

  

まず、便秘がある場合、いきなり下剤に頼る前に、食事や生活習慣の見直しを行うことが推奨されてます

  

具体的には、食物繊維を多く含むキウイフルーツ、トウモロコシ、オーツ麦、玄米などを積極的に摂取すること、水分摂取量を増やすこと、そして身体活動量を増やすことが重要です。

  

これらを試しても便秘が改善しない場合には、比較的作用の穏やかな膨張性下剤や便軟化剤から使用を検討するのが一般的です。

 

その際も、食事や運動といった基本的な対策は継続する必要があります。

 

また、下剤の使用を開始する際には、かかりつけ医に相談することが望ましいとされています。

 

便秘は、直腸出血などの症状を伴う場合、より重大な疾患のサインである可能性も否定できないためです。

 

さらに、他の薬剤との相互作用についても、慎重な判断が重要になります。

  

  

「腸が怠ける」という説

刺激性下剤を長期間使用すると、腸が働きにくく(カタル性結腸)になる、という説を聞いたことがある人もいるかもしれません。

  

この考え方は、1960年代に報告された症例報告に由来しています。

  

その報告では、40年以上にわたり刺激性下剤を使用していた患者の結腸を調べたところ、重要な細胞数が減少していることが観察されました。

 

これが、長期使用による腸管障害の懸念につながったのです。

 

しかし、その後に行われた70以上の文献、240症例を対象としたレビューでは、カタル性結腸の明確な症例は確認されませんでした

  

研究者らは、過去の報告例は、現在では推奨されていない下剤成分であるpodophyllinに関連していた可能性が高いと結論づけています。

 

さらに、刺激性下剤の安全性を検討した43件の研究をまとめたレビューでも、多くの研究が小規模で質が低く、年齢や併用薬といった交絡因子が十分に考慮されていなかったことが指摘されました。

 

その結果、刺激性下剤の慢性使用が腸管そのものを損傷するという明確な証拠は見つかっていません

  

 

電解質異常という見過ごせないリスク 

それでもなお、下剤を常用・乱用することには別の重大なリスクが存在します

 

下剤乱用とは、体重減少などを目的として、頻回かつ反復的に下剤を使用する状態を指します。

  

最も一般的な症状は下痢であり、腹部けいれん、吐き気、嘔吐、体重減少などを伴うことがあります。

 

さらに問題となるのが、体内の電解質バランスの乱れです。

 

便中に多く含まれる電解質の一つがカリウムです。

 

慢性的な下痢によりカリウムが失われると、血中カリウム濃度が低下し、全身の筋力低下、不整脈、重篤な場合には心停止に至ることもあります。

 

2020年に発表された症例報告の系統的レビューでは、下剤乱用が軽度から重度までの心臓合併症を引き起こしうることが示されています。

  

また、カルシウムやマグネシウムの低下により、痛みを伴う筋収縮が生じることもあり、慢性的な乱用では腎機能が深刻に障害される場合もあります。

 

ただし、推奨用量を守って使用している場合、重篤な電解質異常のリスクは極めて低いとされています。

 

  

うつ病と認知症との関連性

 

特に注目されているのが、下剤の定期的な使用とうつ病・認知症リスクとの関連です。

 

イギリスで行われた2つの大規模研究では、約50万人分のデータを解析した結果、下剤を定期的に使用している人は、うつ病や認知症を発症するリスクが高い傾向にあることが報告されました。

 

これらの研究は観察研究であり、下剤が直接これらの疾患を引き起こすと断定できるものではありません

 

しかし、有力な仮説として、腸内細菌と脳が相互に影響し合う「マイクロバイオーム・腸・脳軸」の変化が挙げられています。

 

慢性的な下剤使用が腸内細菌叢を変化させ、その影響が神経系や精神状態に及ぶ可能性があるという考え方です。

 

また、下剤乱用は摂食障害と関連することが多いため、乱用が疑われる場合には、包括的な精神健康評価と支援計画が必要であると指摘されています。

 

 

正しく使えば有用だが、慎重さが求められる

下剤は処方箋なしで入手でき、慢性便秘の治療において有用な手段であることは間違いありません。

 

しかし、下痢や電解質異常といった副作用の可能性、そして長期使用や過剰使用による健康リスクを考慮する必要があります。

 

本記事の執筆者であるVincent Ho氏(ウエスタン・シドニー大学の准教授・臨床消化器内科医)も、下剤の使用を開始する前には医師に相談することが重要であると強調しています。

 

特に、他の基礎疾患がある場合や、複数の薬剤を服用している場合には、専門的な判断が欠かせないでしょう。

  

  

まとめ

・下剤の常用は、うつ病や認知症リスクの上昇と関連する可能性があるが、因果関係は確定していない

・慢性的な下剤乱用は電解質異常や心臓・腎臓への深刻な影響を及ぼすことがある

・下剤は正しく使えば有用だが、長期使用は医師の管理下で行うことが望ましい

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