コレステロールよりも心疾患リスクを正確に予測する「あるタンパク質」とは何か

科学
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心疾患は、日本においてがんに次ぐ第2位の死亡原因です。

 

アメリカでは長いこと死亡原因の第1位であり、その原因究明と予防は大きな課題とされています。

 

1950年代に、食事、コレステロール、そして心疾患との関連が科学的に示されて以降、心疾患のリスク評価は主に血中コレステロール値を中心に行われてきました。(Effects of diet on blood lipids in man, particularly cholesterol and lipoproteinsより

 

医療現場では、血液検査によって容易に測定できることから、長年にわたりコレステロール値が重要な指標とされてきたのです。

 

しかし近年、この常識を変える研究結果が蓄積されてきました。

 

過去20年以上にわたる研究の積み重ねにより、C反応性タンパク(C-reactive protein:CRP)と呼ばれる炎症マーカーのほうが、コレステロールよりも心疾患リスクを正確に予測できる可能性が示されてきたのです。

  

こうした科学的知見を背景に、2025年9月、アメリカ心臓病学会(American College of Cardiology)は、すべての患者に対してコレステロール測定と並行してCRPの定期的な測定を推奨する新たな勧告を発表しました。

  

これは、心疾患予防の考え方が大きな転換点を迎えていることを示しています。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

One Protein Is a Better Predictor of Heart Disease Than Cholesterol(2025/12/22)

 

参考研究)

Inflammation and Cardiovascular Disease: 2025 ACC Scientific Statement: A Report of the American College of Cardiology(2025/11/29)

   

 

C反応性タンパク(CRP)とは何か

C反応性タンパク質の構造 RCSB PBDより

   

C反応性タンパク(C-reactive protein)は、肝臓で産生されるタンパク質です。

  

この物質は、体内で何らかの炎症が起こった際に増加します。

 

具体的には、感染症、組織損傷、自己免疫疾患のような慢性的な炎症状態、さらには肥満や糖尿病といった代謝異常に反応して産生量が高まります。

 

つまりCRPは、体内で免疫系がどの程度活性化しているかを示す指標であり、「炎症のバロメーター」とも言える存在です。

 

CRPは通常の血液検査で簡単に測定することが可能です。

 

アメリカでは、CRP値が1mg/dL未満であれば、体内の炎症は非常に少なく、心疾患リスクは低い状態であると考えられています。

 

一方で、CRP値が3mg/dLを超える場合は、慢性的な炎症が存在し、心疾患リスクが高い状態を示します。

 

日本では、この基準はさらに厳しく、「異常なし:0.30mg/dL以下、軽度異常:0.31-0.99mg/dL、要精密検査:1.00 mg/dL以上」となっています。

  

基準がやや甘いアメリカ人の基準でも、約52%がCRP高値を示していると報告されています。

 

これは、半数以上の人が自覚のない「低度炎症」を抱えている可能性を意味し、アメリカの死因第一位が心疾患であることと符合します。

 

  

CRPはコレステロールよりも優れた予測因子なのか

コレステロールの構造式

  

数多くの研究により、CRPはLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)よりも、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクをより正確に予測できることが示されています。

  

さらに、遺伝的要因が強いとされるリポ蛋白(a)と比較しても、CRPのほうが予測精度が高い可能性があるとされています。

  

ある研究では、CRPは血圧と同程度に心疾患リスクを予測できるという結果も示されました。

  

これは、従来の「脂質中心」のリスク評価から、「炎症中心」の視点へと移行する必要性を強く示唆しています。

 

 

なぜ炎症が心疾患にとって重要なのか

動脈硬化は、単に脂肪が血管にたまる現象ではありません。

 

実際には、炎症反応があらゆる段階で深く関与するプロセスです。

 

血管が高血糖や喫煙などによって傷つくと、その瞬間から免疫細胞が血管壁に集まります。

 

これらの免疫細胞は、血液中を漂うコレステロール粒子を取り込み、脂肪性プラークを形成します。

 

この状態が何十年にもわたって続くと、ある時点で免疫物質がプラークを覆う被膜を破壊します。

 

その結果、血栓が形成され、血流が遮断され、周囲の組織が酸素不足に陥ります。これが心筋梗塞や脳卒中の直接的な引き金となるのです。

 

この一連の過程から分かるように、コレステロールはあくまで一要素にすぎず、実際に病態を進行させているのは免疫系と炎症反応なのです。

 

 

食事や生活習慣はCRPに影響するのか

  

CRPの産生量は、生活習慣によって大きく左右されることが分かっています。

 

研究では、以下の食品や栄養素がCRP値を低下させる可能性が示されています。

• 食物繊維(豆類、野菜、ナッツ、種子類)

• ベリー類

• 緑茶

• チアシード、亜麻仁

  

さらに、体重減少や定期的な運動もCRPを有意に低下させることが確認されています。

 

これらの要因は、単に体重や血糖値を改善するだけでなく、慢性的な炎症そのものを抑制する作用を持つと考えられています。

 

 

それでもコレステロールは重要なのか

CRPが有力な指標であるとはいえ、コレステロールが無関係になるわけではありません

 

ただし重要なのは、単純な「量」ではありません。

  

同じLDLコレステロール値であっても、心疾患リスクが大きく異なる人が存在します。

 

その理由は、LDLが何個の粒子として存在しているかが重要だからです。

 

粒子の数が多いほど、血管壁に入り込む機会が増え、リスクが高まります。

 

この粒子数を評価する指標が、アポリポ蛋白B(apolipoprotein B)です。アポリポ蛋白Bは、総コレステロール値よりも正確に心疾患リスクを反映するとされています。

 

 

遺伝的リスク因子としてのリポ蛋白(a)

さらに、リポ蛋白(a)も重要なリスクマーカーです。

 

このタンパク質はLDL粒子の表面に存在し、粒子を「粘着性の高い状態」にすることで、動脈硬化プラークに捕捉されやすくします。

 

特徴的なのは、リポ蛋白(a)は生活習慣ではほとんど変化せず、完全に遺伝によって決まる点です。

  

そのため、一生に一度測定すれば十分だとされています。

 

 

心疾患予防の本質とは何か

心疾患は、単一の要因ではなく、複数のリスク因子が生涯にわたって相互作用した結果として生じる病気です。

 

したがって、「コレステロールを控えるだけ」で防げるものではありません。

 

LDLコレステロール、CRP、アポリポ蛋白B、リポ蛋白(a)を総合的に把握することで、より現実的で精度の高いリスク評価が可能になります。

 

この理解が、長期的な予防行動への動機付けにつながると考えられています。

 

ただし、CRPを心疾患予測の「最良の単独指標」と断定する点については、今後さらなる大規模研究による検証が必要であり、現時点では議論の余地が残されています。

 

 

まとめ

・心疾患リスクはコレステロールだけでなく、炎症マーカーであるCRPが重要な予測因子である

・生活習慣の改善はCRPやアポリポ蛋白Bを低下させ、心疾患予防に直結する

・遺伝要因と生活習慣要因を組み合わせた総合的なリスク評価が不可欠である

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