米国公衆衛生局長官(US Surgeon General)は新たな勧告を発表し、「アルコール消費には安全なレベルは存在しない」と強調しました。
この勧告は、アルコールとがんとの関連性に関する幅広い科学的研究をレビューした結果に基づいています。
一方、米国の健康ガイドラインとの矛盾が指摘されてる点も見られることから、どちらの主張を受け入れるかについて、認識の統一が必要としています。
今回は、その矛盾についても含めて、研究の内容をまとめていきます。
参考記事)
・Alcohol and Cancer Risk 2025 → 声明の詳細
アルコールとがんの深い関係
報告によると、アルコールは特に女性の乳がんや消化器系のがんに関連しており、米国では年間約10万件のがん症例と約2万人のがんによる死亡がアルコールによって引き起こされているとされています。
声明では、アルコール摂取と少なくとも7種類のがんリスク増加との因果関係を示していると主張しています。
・乳がん(女性)
・大腸がん
・食道がん
・肝臓がん
・口腔がん
・咽頭がん(喉)
・喉頭がん(声帯)
さらに、アルコール摂取量が多いほどがんリスクが高まるとし、乳がん、口腔がん、咽頭がんなどのリスクは、1日1杯以下の摂取でも増加する可能性があると警告しています。
米国の健康ガイドラインとの矛盾
これまでの米国飲食ガイドライン(では、適度な飲酒が心臓の健康などに良い影響を与える可能性があるとされてきました。
しかし、今回の新たな勧告では、「1日1杯以下でも多すぎる」と述べられています。
現在の米国飲食ガイドラインでは、男性では1日1~2杯以下、女性では1日1杯以下が「健康的な飲酒量」とされています。
しかし、実際にはこれらの範囲内であっても、アルコールによるがん死亡の17%が発生していると指摘されています。
2019年のデータでは、米国内でアルコールに関連したがんの発生件数は、男性でおよそ42,400件、女性でおよそ54,330件でした。
また、2020年には世界全体で741,300件のアルコール関連がん症例が確認され、そのうち約185,100件は1日2杯以下の飲酒量でも発生していると報告されています。
アルコールががんリスクを高める4つのメカニズム
アルコールがどのようにしてがんリスクを高めるかについて、主に以下の4つのメカニズムが挙げられています。
1. 酸化ストレスの増加
• アルコールが体内で酸化ストレスを引き起こし、DNAやタンパク質を損傷する
2. ホルモンバランスの変化
• アルコールがエストロゲンなどの乳がんリスクを増加させるホルモンレベルを変化させる
3. 発がん物質の吸収率増加
• アルコールが体が発がん物質を吸収する速度を加速させる
4. 有害化合物「アセトアルデヒド」の生成
• アルコールが体内で有毒なアセトアルデヒドに変化し、DNAを直接損傷する
特に影響を受けるがんの種類
米国において、アルコールによるがんの中で最も多いのは女性の乳がんです。
2019年の研究では、乳がん全体の約16.4%(44,180件)がアルコールに関連していることが報告されています。
また、乳がん以外にも、口腔がん、食道がん、大腸がんなど、多くのがんがアルコールとの関連性を示しています
アルコールと発がん性物質の認定
今日ではまだメディアで多く取り上げられていないこともあり、多くの人々はアルコールが発がん性物質であることを認識していません。
米国の調査においても、成人の約半数がアルコールとがんの関連性について知らないと回答しています。
しかし、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)では、アルコールをグループ1の発がん性物質に分類しています。
研究の今後
この勧告は、アルコールとがんの関連性についてより広範な教育を行い、国民の認識を高めることを目的としています。
具体的には次のような提案がされています。
1. アルコール飲料のラベルに「がんリスク」の警告文を追加
タバコのパッケージのように、飲酒によるリスクを明確に記載する。
2. 科学的根拠に基づいた教育活動の強化
学校や職場での啓発キャンペーンを実施する。
3. 健康ガイドラインの更新
アルコール摂取に関する指針を最新の研究に基づいて改訂する。
まとめ
・アルコール摂取には安全な量は存在せず、1日1杯以下でもがんリスクを高める
・乳がんを含む少なくとも7種類のがんにアルコールが関与している
・ラベル表示や教育活動を通じて、リスクを周知する必要がある
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