学び続けることが認知症のリスクを大幅に低減させる

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アルツハイマー病の発症リスクは、特別な治療薬だけでなく、私たちが日々積み重ねてきた生活習慣によっても大きく左右される可能性があることが、新たな研究によって示されました。

 

とりわけ、読書や文章を書くこと、外国語を学ぶことといった「言語」と「文字」に関わる活動を生涯にわたって継続してきた人々は、認知機能の低下を遅らせ、認知症の発症リスクを大きく減らせる可能性があると報告されています。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Simple Lifelong Habits Can Cut Your Alzheimer’s Risk by 38%, Study Finds(2026/02/17)

 

参考研究)

Associations of Lifetime Cognitive Enrichment With Incident Alzheimer Disease Dementia, Cognitive Aging, and Cognitive Resilience(2026/02/11)

 

 

生涯にわたる知的刺激が認知症リスクを大幅に低下させる可能性

 

本研究は、アメリカのラッシュ・ユニバーシティ・メディカル・センター(Rush University Medical Center)の研究チームによって実施されたものです。

 

研究チームは、幼少期から高齢期までの「認知的エンリッチメント」、すなわち知的刺激に満ちた環境や活動への関与が、アルツハイマー病および軽度認知障害(MCI)の発症リスクとどのように関連するかを検討しました。

 

対象となったのは1,939人で、研究開始時の平均年齢は80歳でした。

 

参加者は平均約8年間にわたり追跡されました。

 

その結果、認知的エンリッチメントのスコアが最も高かった群は、最も低かった群と比較して、アルツハイマー病の発症リスクが最大38%低下、軽度認知障害のリスクが最大36%低下していたことが明らかになりました。

 

さらに重要な点として、認知的エンリッチメントの高い人々では、アルツハイマー病の発症が平均5年、軽度認知障害の発症が平均7年遅れていたと報告されています。

 

これは単なる統計上の差ではなく、生活の質や自立期間に大きく影響し得る差であると考えられます。

 

 

評価された生活習慣

 

研究では、参加者に対して、12歳時点、40歳時点、現在(研究開始時)の3つの時点について、過去の生活習慣を尋ねました。

 

評価対象となった活動は以下のものです。

 

• 本を読む習慣

• 図書館や博物館への訪問

• 外国語の学習

• 辞書の使用

• 文章を書くこと

など 

  

研究を主導した神経心理学者のAndrea Zammit氏は、次のように述べています。

  

精神を刺激する活動や環境への長期的な曝露が、後年の認知的健康に強く影響していることが示唆された。」 

 

すなわち、一時的な知的活動ではなく、長期間にわたる継続的な関与が重要である可能性が示されたのです。

 

脳組織の分析から見えた“保護効果”の兆候

 

本研究では、追跡期間中に亡くなった参加者の脳組織も分析されました。

 

その結果、幼少期の認知的エンリッチメントのスコアが高かった人々の脳には、アルツハイマー病に関連するタンパク質の蓄積に対する一定の防御的特徴がみられたと報告されています。

 

アルツハイマー病では、アミロイドβやタウといった異常タンパク質の蓄積が神経細胞を損傷させることが知られています。

 

本研究は、生涯にわたる知的刺激が、こうした病理的変化に対して何らかの緩衝効果をもたらしている可能性を示唆しています。

 

ただし、この点については関連性が示されたにとどまり、明確な因果関係が証明されたわけではありません。

 

 

社会経済的地位との関係

研究チームは、社会経済的地位(SES)が結果に影響している可能性についても検討しました。

 

過去の研究では、SESが高いほど認知機能の維持に有利である傾向が報告されています。

 

しかし本研究では、認知的エンリッチメントの効果は、SESとは独立して存在している可能性があると結論づけられました。

 

つまり、豊かな家庭環境や高い教育水準だけでは説明できない、“行動としての知的関与”そのものが重要である可能性が示唆されたのです。

 

 

因果関係は証明されていないという重要な注意点

本研究は強い相関関係を示しましたが、読書や語学学習が直接アルツハイマー病を予防するとは断定できません。

  

その理由として、観察研究であること、生活習慣を自己申告で回想していること、睡眠や運動、食事など他の要因も影響することなどが挙げられます。

 

とくに、12歳や40歳当時の習慣を思い出すことは、記憶の正確性に限界がある可能性があります。

 

そのため、一部のデータには回想バイアスが含まれている可能性があり、事実関係の正確性に曖昧さが残る部分もあります。

 

それでもなお、知的活動と認知症リスク低下の関連性は、これまでの複数の研究とも整合しており、論理的にも妥当性があると考えられます。

 

 

脳にも“運動”が必要であるという考え方

 

パズルや問題解決課題が認知機能維持に役立つとする研究も報告されています。

 

これらの知見と合わせると、脳は身体と同様に、継続的な刺激と活動を必要としている可能性が高いという考え方が支持されつつあります。

 

読書や語学学習、文章作成といった活動は、単なる趣味ではなく、神経回路を活性化させ続ける“トレーニング”である可能性があるのです。

 

 

「遅すぎるということはない」 

 

Andrea Zammit氏は次のように述べています。

人生を通じて多様な知的活動に継続的に関与することは、認知機能に良い影響を与える可能性がある。

 

さらに彼女は、図書館や早期教育プログラムへの公共投資が、長期的に認知症発症率の低下につながる可能性にも言及しています。

 

つまり、個人レベルの努力だけでなく、社会全体として知的環境へのアクセスを広げることが重要である可能性が示唆されています。

 

 

まとめ

・生涯にわたる読書・執筆・語学学習などの知的活動は、アルツハイマー病リスクを最大38%低下させる可能性があることが示された

・この効果は社会経済的地位とは独立している可能性があり、継続的な知的関与そのものが重要であると考えられる

・ただし本研究は因果関係を証明したものではなく、回想データに基づくため一部に不確実性があることも留意すべきである

今の年齢がいくつであっても、読書や学習を始めることに遅すぎるということはないのかもしれません。脳を使い続けることが、将来の自分への最良の投資となる可能性があります

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