火星から大気が消えた理由──局所的砂嵐が示す新たな水消失メカニズム

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太古の火星は豊富な水を抱えた惑星だったと考えられていますが、現在では極冠や地下氷以外にはほとんど水が見られません。

  

「一体、どのようにして大量の水が失われたのか」これは惑星科学における長年の大きな謎です。

  

多くの研究がこれを解明しようとしてきましたが、今回の研究では、それまで予想されていなかった「季節外れの水の宇宙空間への逃亡」現象が、局所的な強い砂嵐と関係していることが明らかになりました。

  

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考研究)

Out-of-season water escape during Mars’ northern summer triggered by a strong localized dust storm(2026/02/02)

 

 

火星の水と大気逃亡の長年の課題

 

火星にはかつて川や湖、大洋が存在した地形的な痕跡が豊富にあり、古代の火星が現在よりも湿潤な環境であった可能性が強く示唆されています。

 

さらに、火星の大気中のD/H比(重水素対水素比)の観測結果は、軽い水素が宇宙空間へ失われ続けてきたことを示しています。

 

これは、通常の水素(Hydrogen)が重い重水素(Deuterium)よりも宇宙へ逃げやすいためです。 

  

このD/H比の上昇は、火星が古い水を失ってきた量と時間の長さを示す重要な証拠とされています。

 

加えて、これまでの研究では、季節的に南半球の夏に大気が暖まり、強い循環や砂嵐が発生することで水蒸気が上空へ輸送され、その後の紫外線分解と水素逃亡が促進されるというメカニズムが主流の説明でした。

 

しかしこれは季節依存的であり、北半球の夏など、従来水の逃亡は少ないと考えられてきた時期には当てはまらない部分がありました。

 

 

研究の中心となった現象:北半球夏の局所砂嵐

今回の研究では、火星年37(地球時間で2022~2023年に相当)に北半球の夏に発生した強い局所砂嵐が注目されました。

 

この嵐は従来の全球規模の砂嵐とは異なり、限定された地域に発生したローカルな現象でしたが、その後短期間のうちに中層大気の水蒸気量が通常の10倍程度まで増加したことが観測されています。

 

通常、北半球の夏は太陽から遠く比較的冷涼であり、水蒸気は低高度で氷の雲になってしまい、高層にはほとんど運ばれないとされてきました。

 

しかしこの嵐では、ダストが大気中に大量に供給され、太陽光の吸収が増加し中層大気が異常に加熱されました。

 

これによって水蒸気が氷として凝結することなく、高高度まで運ばれる条件が整ったのです。

 

 

中層大気への水蒸気輸送と水素逃亡

砂嵐によって40km以上の高度まで水蒸気が持ち上げられたことが観測されていますが、この領域では水蒸気が紫外線にさらされて分解しやすくなります。

 

 分解によって生じた軽い水素は、その後宇宙空間へと逃げやすくなる「エクソベース」と呼ばれる大気の最上部まで到達し、そこで水素の逃亡量が通常の同じ季節の2.5倍まで増加したことが検出されました。

 

Out-of-season water escape during Mars’ northern summer triggered by a strong localized dust stormより

  

このことは、局所的で一時的な強い砂嵐でも十分に水蒸気を高層大気へ押し上げ、紫外線分解・水素逃亡プロセスを活性化できることを示しています。

 

従来は大規模砂嵐や南半球夏の季節的条件が主な要因と考えられていましたが、この研究はその理解を更新するものです。

 

 

観測データと解析の方法 

Mars Reconnaissance Orbiter

 

この研究の重要な点の一つは、複数の火星探査機によるデータが統合されていることです。

 

具体的には、欧州宇宙機関(ESA)のExoMars Trace Gas Orbiter(TGO)のNOMAD観測データ、NASAのMars Reconnaissance Orbiter(MRO)、およびアラブ首長国連邦のEmirates Mars Mission(EMM)による上層大気の観測が活用されました。

 

これにより、中層大気の水蒸気分布と高層での水素逃亡が同時に観測・解析されています。

 

使用されたTGOのNOMAD装置は、赤外線・可視光・紫外線の観測を組み合わせることで、水蒸気の垂直分布を詳細に捉えることができます。

 

この観測結果から、嵐発生後の数日で中層大気の水蒸気濃度が大幅に増加していることが示されました。

  

 

なぜこの発見が重要なのか 

これまでの火星の水消失モデルは、季節的に限定された大規模砂嵐や熱的条件を中心に構築されてきました。

 

しかし今回示された結果は、季節や地理的位置に関係なく、局所的な強い大気現象が水の宇宙空間への逃亡に寄与する可能性を示しています。

 

 これにより、火星が過去に失った水の総量や逃亡過程の解釈が大きく広がることになります。

 

さらに、火星の軌道や傾きが変化した古代には、このような局所的な大気現象が頻繁に発生し得た可能性も示唆されています。 

 

その場合、火星の水は従来想定されていた以上に多様なプロセスで宇宙空間へ失われた可能性があるという新たな視点が得られました。

  

今回の記事は査読済み論文を基にした正確な情報を提供していますが、一部詳細な物理過程や量的な評価については、元論文のデータセットや補足資料と照合する必要があります。 

 

たとえば、水蒸気の増加がどの程度火星全体の水失われ量に寄与するかといった統合的な評価は今後の研究で深められていくでしょう。

 

 

まとめ

・複数の探査機データを統合した高精度観測により、水蒸気と水素逃亡の同時変動が初めて詳細に捉えられた

・局所的な強い砂嵐でも水蒸気が高層大気に押し上げられ、その後の分解・水素消失が進む新たな水消失経路が示された

・この現象は従来の季節的・大規模砂嵐に限定されない水逃亡のメカニズムを示し、火星の水消失の理解を広げる

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