近年、認知症は世界的に増加している深刻な健康問題であり、根本的な治療法が存在しない疾患として社会的関心が高まっています。
認知機能の低下は記憶、思考、判断力などに影響し、日常生活や社会生活に重大な支障を来たすため、発症前の予防戦略の確立は極めて重要です。
最新の研究では、肥満と高血圧が単なる関連因子ではなく、血管性認知症(vascular-related dementia)の「因果的なリスク要因」である可能性が示されました。
この研究では、肥満や高血圧の影響が遺伝的レベルから解析され、因果関係の有無を検証しています。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・High Body Mass Index as a Causal Risk Factor for Vascular-Related Dementia: A Mendelian Randomization Study(2026/01/22)
研究の目的と背景

認知症は、単一の疾患ではなく、アルツハイマー病や血管性認知症など複数の脳疾患を含む総称です。
これらは神経細胞の障害や消失を伴い、時間とともに進行する疾患群であり、記憶障害、言語能力の低下、判断力の低下、行動変化などを引き起こします。
特に血管性認知症は、脳血管の障害によって認知機能が低下するタイプの認知症であり、脳梗塞や微小梗塞の蓄積が病態に深く関わっています。
本研究は、コペンハーゲン大学病院およびコペンハーゲン大学、さらにはブリストル大学など国際共同チームが主導したものです。
主要な目的は次の二点です。
1. 高BMI(高い体格指数)が血管性認知症のリスク要因として因果的に作用しているかを検証すること
2. その可能性のある因果経路(例:高血圧、脂質異常、血糖値異常などの代謝異常)について解明すること
肥満は糖尿病、動脈硬化性疾患、特定のがん、そして死亡率の上昇と関係が深いことが知られていますが、認知症との関係については長年議論がありました。
特に従来の観察研究では、因果関係を明確にすることが困難でした。
研究チームは、この関係を明らかにすべくメンデルランダム化を用いて分析を行いました。
メンデルランダム化研究デザインとは?
メンデルランダム化(Mendelian randomization: MR)は、遺伝子の“生まれつきのランダム性”を利用して、因果関係を推定する統計手法です。
観察研究ではよく見られる「相関はあるけが因果かどうか分からない」という問題点を突破するアプローチでもあります。
本研究では、遺伝的にBMIが高くなりやすい変異を持つ人と持たない人を比較し、因果関係を検証しました。
遺伝子は生まれつき決まっており、生活習慣や環境要因の影響を受けにくいため、交絡因子の影響を排除してより因果関係の可能性を評価できます。
具体的には、以下のような解析が行われました。
• 標準的な遺伝的変異を用いた1サンプルMR
• より多くの遺伝的変異を含む2サンプルMR
• 高血圧、血糖値、脂質異常、低グレード炎症などがBMIと血管性認知症の関連にどの程度寄与するかを調べる媒介分析MR
「因果的関連」の主要な結果
研究の主な結果は次の通りです。
High Body Mass Index as a Causal Risk Factor for Vascular-Related Dementia: A Mendelian Randomization Studyより • BMIが1標準偏差高くなると、血管性認知症リスクは約1.5倍から2倍高くなるという結果が、複数の解析手法で一貫して確認された
• 1サンプルMRメタ解析では、OR(オッズ比)1.63(95% CI: 1.13–2.35)と報告されている
• 2サンプルMRでも逆分散加重法でOR 1.54、加重中央値法で1.87、加重モード法で1.98と一致した方向性が示された
これらの結果は、「肥満と血管性認知症は関連している」だけでなく、肥満が原因として作用している可能性が高いことを強く示唆しています。
どの因子が関連を媒介しているのか?
肥満が血管性認知症に影響を及ぼす際に、どの代謝因子が関与しているかを調べた結果、収縮期血圧はBMIと血管性認知症との関連の約18%を、拡張期血圧は約25%を媒介していることが推定されました。
これは、高血圧が肥満と認知症の関連を部分的に説明する重要な要因であることを示しています。
つまり、BMIが高くなると血圧が上昇し、それが脳血管に悪影響を与えることで認知機能に影響するという可能性が示唆されるのです。
血管性認知症は、脳の血管障害によって引き起こされるタイプの認知症であり、脳卒中や微小梗塞の蓄積が病態に寄与します。
一方で、高血圧は脳卒中の主要な因子であることが広く認められており、肥満が高血圧を介して血管障害を進行させる可能性が今回の解析から支持されたと言えます。
観察研究との比較

従来の観察研究では、BMIと認知症リスクの関連はU字型で示唆されたこともありました。
一例として、BMIが極端に低い場合にも認知症リスクが上昇するという報告がありますが、これは認知機能低下による体重減少が先行する「逆因果関係」による可能性が高いと考えられています。
一方、今回のメンデルランダム化解析では、遺伝的なBMIと血管性認知症の関連は直線的であり、BMIが高いほどリスクが上がる傾向が確認されました。
また、本研究の結果は次のような示唆を与えます。
• 肥満と高血圧は「修正可能なリスク因子」として認知症予防の対象になり得る
• BMIや血圧を若いうちから管理することは、血管性認知症のリスク低減につながる可能性がある
ただし、本研究は遺伝的関連を評価したものであり、実際に介入によって認知症リスクが低減するかどうかはまだ検証が必要です。
例えば、体重減少薬や生活習慣改善介入が認知症予防に直接的な効果を示すかどうかは、さらなる臨床試験による証明が求められます。
研究の強みと限界
強みとしては以下が挙げられます。
• 遺伝的変異を用いた因果推定手法(MR)により、交絡因子の影響が小さい
• 複数の研究データ(コペンハーゲン地域および英国)を組み合わせた解析
• 複数の遺伝子セットと異なる解析法による頑健性の確認
一方、限界としては次の点が指摘されています。
• 解析対象が主にヨーロッパ系の人々に限られるため、他の人種や地域への一般化には注意が必要
• BMIは体脂肪と筋肉量を区別しない指標であり、体重の成分によるリスク差は不明確
まとめ
・高いBMIは血管性認知症のリスクを因果的に高める可能性があり、遺伝的解析でも一貫した関連が確認された
・この関連の一部は高血圧を介して説明されており、肥満と血圧管理は予防戦略として注目される
・実際の介入効果についてはさらなる臨床試験が必要であり、結果を臨床に応用するには注意が必要


コメント