砂糖不使用でも安心できない?──人工甘味料ソルビトールが肝臓に及ぼす影響を示す新研究

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「砂糖不使用」「低カロリー」と表示された食品は、健康志向の人や糖尿病患者にとって、安全な選択肢だと考えられてきました。

   

とりわけ、ソルビトールのような糖アルコールは、血糖値を急上昇させにくい甘味料として広く利用されています。

 

しかし、こうした常識に疑問を投げかける新たな研究結果が報告されました。

  

最新の科学的証拠によれば、ソルビトールはこれまで考えられていたほど無害ではなく、肝臓にとって好ましくない影響を及ぼす可能性があるというのです。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Sugar-free sweeteners may still be harming your liver(2025/12/20)

  

参考研究)

Intestine-derived sorbitol drives steatotic liver disease in the absence of gut bacteria(2025/10/28)

  

 

研究の背景:フルクトースと肝臓の長年の関係

 

この研究は、ワシントン大学セントルイス化学・遺伝学・医学教授Gary Patti氏の研究チームによって主導されました。

 

Patt氏はこれまでの研究において、フルクトース(果糖)が肝臓で代謝される過程が、がん細胞の成長を促進する経路に転用されうることを示してきました。

   

また、別の研究では、フルクトースの過剰摂取が脂肪性肝疾患(現在は「脂肪性肝疾患(SLD)」と総称される)と関連することも明らかにされています。

   

この疾患は、現在、世界の成人の約30%が罹患していると推定されており、極めて身近な健康問題となっています。

 

今回の研究は、こうしたフルクトース研究の延長線上で、糖アルコールであるソルビトールが、実はフルクトースと極めて近い代謝関係にあることに注目した点が特徴です。

 

 

ソルビトールは「一段階でフルクトースになる」物質

今回の研究で最も意外な発見のひとつは、ソルビトールが「フルクトースまであと一段階」という非常に近い位置にある代謝物質であることです。

  

Patti氏は、ソルビトールについて「essentially one transformation away from fructose(本質的には、フルクトースまで一回の変換で到達する)」と表現しています。

 

Intestine-derived sorbitol drives steatotic liver disease in the absence of gut bacteriaより

   

この化学的な近さゆえに、ソルビトールは体内でフルクトースと似た生理作用を引き起こす可能性があると考えられます。

 

つまり、砂糖そのものを避けてソルビトールを選んだとしても、体内では結果的にフルクトース由来の代謝負荷が肝臓にかかる恐れがあるのです。

  

  

ゼブラフィッシュを用いた実験で分かったこと

研究チームは、ゼブラフィッシュ(熱帯魚の一種)をモデル生物として用い、ソルビトールの体内動態を詳しく調べました。

  

その結果、ソルビトールは食品として摂取されるだけでなく、体内、とくに腸内で生成されることが明らかになりました。

 

ソルビトールは、「低カロリー」キャンディーやガムなどの加工食品に多く含まれているほか、モモやスモモといった核果類にも自然に含まれています。

 

しかし今回の研究では、それ以上に重要な点として、腸内の酵素によってグルコースからソルビトールが生成される経路が示されました。

 

このようにして腸内で生成されたソルビトールは、血流を通じて肝臓へ運ばれ、最終的にフルクトースへと変換されることが確認されました。

  

  

フルクトースは複数の経路で肝臓に到達する

研究チームはさらに、肝臓がフルクトースを受け取る経路が一つではないことも明らかにしました。

 

どの経路が優勢になるかは、以下の要因によって左右されます。

• 摂取するグルコース量

• ソルビトールの摂取量

• 腸内に存在する細菌の種類やバランス

 

つまり、同じ食事内容でも、人によって腸内環境が異なれば、肝臓への影響も変わるということです。

 

この点は、個人差の大きさを示す重要な知見ですが、同時に「誰にとって安全か」を単純に判断できない難しさも示しています。

  

  

糖尿病でなくてもソルビトールは作られる

これまで、ソルビトール代謝の研究は主に糖尿病などの病態に焦点を当ててきました。

 

高血糖状態では、体内でソルビトールが過剰に生成されることが知られていたためです。

 

しかしPatti氏は、糖尿病でない人でも、食後の腸内では十分に高いグルコース濃度が生じると説明します。

 

ソルビトールを生成する酵素は、グルコースとの結合効率が低いため、一定以上にグルコース濃度が上昇しなければ反応が起こりません。

 

そのため、この経路は長らく糖尿病特有の現象と考えられてきました。

 

ところがゼブラフィッシュの実験では、通常の食事後でも腸内グルコース濃度が十分に上昇し、ソルビトール生成が起こりうることが示されました。

 

Patti氏はこれらを踏まえ、体内で相当量が作られる可能性はあるが、腸内細菌の構成次第で問題にならない場合もあると述べています。

  

 

ソルビトールを無害化する腸内細菌の存在

研究では、Aeromonas 属の特定の細菌株が、ソルビトールを分解し、無害な副産物に変える能力を持つことも示されました。

 

これらの細菌が十分に存在し、正常に機能している場合、ソルビトールは問題を起こしにくくなります。

 

しかし、「適切な腸内細菌が存在しない場合、ソルビトールは分解されず、そのまま肝臓へ送られてしまう」とPatti氏は警告しています。  

  

肝臓に到達したソルビトールは、フルクトース誘導体へと変換され、肝臓への代謝的ストレスを高める可能性があります。

  

これは、砂糖不使用製品を多用する糖尿病患者や代謝疾患を持つ人にとって、特に重要な懸念点です。 

 

 Intestine-derived sorbitol drives steatotic liver disease in the absence of gut bacteriaより

食事として摂取されたソルビトールが、腸内細菌の有無によってどのように肝臓代謝へ影響するかを、安定同位体トレーサー(U-¹³C ソルビトール)を用いて解析した結果。

【要点】

・ソルビトールは腸を経由して肝臓に到達し、フルクトースへ変換される

・腸内細菌が枯渇すると、ソルビトール由来フルクトースと脂質合成が大幅に増加した

・「砂糖不使用」の甘味料であっても、肝臓代謝に深く関与する可能性が示された

  

 

摂取量が多ければ腸内細菌も処理しきれない

ソルビトールは、果物などに含まれる少量であれば、通常は腸内細菌によって十分に処理されます。

 

問題が生じるのは、腸内細菌の処理能力を超える量が体内に入った場合です。

 

この状況は、以下のようなケースで起こりえます。

• 大量のグルコース摂取によって、体内生成ソルビトールが増加する場合

• 食事そのものにソルビトールが多く含まれている場合

 

たとえ有益な腸内細菌を持っていても、グルコースとソルビトールの摂取量が多すぎれば、微生物の処理能力は容易に飽和してしまいます。

 

現代の加工食品には、複数の甘味料が同時に使われていることも珍しくありません。

 

Patti氏自身も、愛用していたプロテインバーに相当量のソルビトールが含まれていたことに驚いたと述べています。

  

 

「糖アルコールは安全」という前提の見直し

 

今回の研究から、糖アルコール(ポリオール類)は単に体外へ排出されるだけの無害な物質ではない可能性が浮かび上がりました。

 

実際に、動物実験では、投与されたソルビトールが全身の組織に分布することも確認されています。

 

Gary Patti は、「there is no free lunch(タダで得られるものはない)」という表現を用い、砂糖を代替すればすべてが解決するわけではないと強調しています。

  

多くの代謝経路は最終的に肝臓へと収束し、結果として肝機能障害につながる可能性があるというのが、今回の研究の重要なメッセージです。

   

本研究は主に動物モデル(ゼブラフィッシュ)を用いた基礎研究です。

 

人間における長期的影響については、今後さらなる研究が必要ですが、糖の代謝においては、糖アルコールだから安全と簡単に決めつけられるものではないことも確かなようです。

    

  

まとめ

・ソルビトールは体内でフルクトースに変換され、肝臓に負担をかける可能性が示された

・腸内細菌の種類や量によって、ソルビトールの影響には大きな個人差がある

・「砂糖不使用=安全」という単純な図式は、見直す必要があると考えられる

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