アメリカでは若年層の体重増加が深刻な問題となっています。
医学誌『The Lancet』に掲載された分析によると、2050年までに15〜24歳のアメリカ人の3人に1人が肥満の基準を満たすと予測されており、将来的な健康リスクの増大が懸念されています。
肥満の背景には遺伝や身体活動量の低下など複数の要因がありますが、なかでも食事内容、とりわけ超加工食品の影響が重要視されています。
こうした状況を踏まえ、アメリカのバージニア工科大学の研究チームは、超加工食品を多く含む食事が18〜25歳の若年成人の食行動にどのような影響を及ぼすのかを検証しました。
今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・All you can eat: Ultra-processed foods affect young adults differently(2025/11/19)
参考研究)
・The Influence of Ultraprocessed Food Consumption on Energy Intake in Emerging Adulthood: A Controlled Feeding Trial(2025/11/19)
若年層の食生活を占める「超加工食品」

アメリカの若年成人が摂取する食品のうち、55〜65%が超加工食品で占められているとされています。
超加工食品はこれまで、代謝症候群、心血管系の健康悪化、その他の慢性疾患リスクと関連づけられてきましたが、10代後半から20代前半という発達段階に特有の影響については、十分に検証されていませんでした。
今回の研究を主導したのは、バージニア・テックのヒューマン・ニュートリション・フーズ・アンド・エクササイズ学部教授であるBrenda Davy氏と、同大学のフラリン生物医学研究所助教で神経科学者のAlex DiFeliceantonio氏です。
両名は、若年成人期が食習慣と肥満リスク形成の重要な分岐点であるという視点から研究を進めました。
厳密に管理された食事介入
本研究では、18〜25歳の男女27人が参加しました。
全員が少なくとも過去6か月間、体重が安定していた点が特徴です。
研究はクロスオーバー試験として設計され、参加者自身が対照となる形で実施されました。
参加者は以下の2種類の食事を、それぞれ2週間ずつ摂取しました。
The Influence of Ultraprocessed Food Consumption on Energy Intake in Emerging Adulthood: A Controlled Feeding Trialより • 総摂取カロリーの81%が超加工食品からなる食事
• 超加工食品を一切含まない食事
朝食は研究施設内で提供され、その他の食事は代謝キッチンで調理されたものが提供されました。
重要なのは、両方の食事が22項目にわたり厳密に一致するよう設計されていた点です。
具体的には、三大栄養素、食物繊維、添加糖、エネルギー密度、ビタミン、ミネラルなどが細かく調整されていました。
Brenda Davyは、「これほど多くの栄養学的要素を一致させた研究は、これまでほとんどなかった」と述べており、食品加工度そのものの影響を抽出することを重視した設計であったことがわかります。
NOVA分類による食品の定義
研究では、ブラジル・サンパウロ大学の研究者が開発したNOVA分類が用いられました。
この分類は食品を加工度に基づいて4段階に分けるものです。

非加工または最小限加工食品には果物、豆類、プレーンヨーグルトなどが含まれます。
加工用原材料には油脂や塩などが該当します。
加工食品はチーズや缶詰野菜、焼きたてパンなどで、家庭的な工程を経たものです。
一方、超加工食品には清涼飲料水、加糖ヨーグルト、多くの包装済み食品やスナック菓子が含まれ、家庭ではほとんど使われない添加物や工業的工程を特徴とします。
食べ放題実験で明らかになった年齢差
各2週間の食事介入後、参加者は約1,800キロカロリー分の朝食ビュッフェを自由に摂取しました。
これは一般的なアメリカの朝食の約4倍に相当します。
30分間、好きなだけ食べることが許されました。
その結果、全体としては、摂取した総カロリーや食事量に有意な差は見られませんでした。
性別やBMI(体格指数)による違いも確認されませんでした。
しかし、年齢別に解析すると、明確な差が浮かび上がりました。
18〜21歳の参加者は、超加工食品中心の食事を摂取した後に、より多くのカロリーを摂取していたのです。
一方で、22〜25歳の参加者ではこの傾向は見られませんでした。
「空腹でなくても食べる」行動の増加

さらに注目すべきは、満腹後のスナック摂取です。
ビュッフェ後、参加者にはスナックが提供され、味と印象の評価をした後、自由に追加摂取できる時間が与えられました。
18〜21歳の若年層は、空腹でないにもかかわらず、さらに多くのスナックを摂取する傾向を示しました。
Alex氏は、「空腹でない状態での間食は、将来的な体重増加を予測する重要な指標」と述べ、超加工食品への曝露がこの行動を強めている可能性を指摘しています。
この研究の重要性
過去の成人対象研究では、超加工食品を自由に摂取させると、摂取カロリー増加と体重増加が同時に起こることが示されていました。
しかし、それらの研究では、体重増加に伴うエネルギー需要の増加が結果に影響していた可能性があります。
本研究では、体重を維持する範囲でカロリーが厳密に管理されていたため、Brenda Davy氏とAlex氏は、「食品の加工度そのものが食行動に与える影響をより純粋に捉えられた」と説明しています。
研究の限界と今後の課題
ただし、本研究にはいくつかの制約があります。
研究期間が短く、1回の食事場面に限定されているため、日常生活における継続的な食品アクセス状況を完全には反映していません。
また、参加者数も比較的少数でした。
研究者らは今後、介入期間の延長、より若年の参加者の追加、現実に近い自由摂取環境の再現などが必要だとしています。
さらに、脳画像解析や生体指標を組み合わせることで、発達段階における神経メカニズムの解明が進む可能性も示唆されています。
本研究は査読付き学術誌『Obesity』に掲載されており、研究手法の信頼性は高いと考えられます。
ただし、短期間かつ限定的な条件下で得られた結果であり、長期的な体重増加を直接証明したものではありません。
将来的な影響については、追加研究が必要である点は明確にしておく必要があります。
まとめ
・18〜21歳の若年成人は、超加工食品中心の食事後に、満腹でも過剰摂取しやすい傾向が示された
・同じ条件下でも、22〜25歳では同様の影響は確認されず、年齢による感受性の差が示唆された
・短期研究であるため、長期的影響の解明には今後の追跡研究が不可欠



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