エリスリトール(人工甘味料)が脳のバリア機能を混乱させる可能性がある

科学
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人工甘味料や代替糖への関心が高まる昨今。

 

多くの人がカロリー制限や糖質制限の一環として取り入れている「エリスリトール」という甘味料があります。

 

天然の果物や発酵させた食べ物から生成され、吸収されずに尿から排出されるという特性から、健康的に甘味を摂取できるとして人気の人工甘味料でもあります。

 

しかし、コロラド大学の研究から、このエリスリトールに思わぬリスクが潜んでいることが最新の研究により明らかになりました。

 

研究では、脳を保護する「血液脳関門(blood-brain barrier)」に対する影響が示唆されており、脳卒中のリスクを高める可能性があるというのです。

 

日本国内でも「シュガーフリー」や「糖質オフ」を謳った商品に広く使われているこの甘味料をどのように捉えればいいのか……。

 

以下に研究の内容をまとめます。

 

参考記事)

Common Sweetener Could Damage Critical Brain Barrier, Risking Stroke(2025/07/22)

 

参考研究)

The non-nutritive sweetener erythritol adversely affects brain microvascular endothelial cell function(2025/06/16)

 

 

エリスリトールと脳の防御壁「血液脳関門」

  

「血液脳関門(BBB)」は脳に影響のある物質をブロックする重要な防御機構です。

 

脳と血流を隔てる特殊な細胞構造をしており、ウイルスや有害物質などの侵入を防ぎながら、栄養素や酸素など必要な物質だけを通過させるという、極めて高度なバリア機能を果たしています。 

 

今回の研究では、市販の清涼飲料水を摂取した後の血中濃度に相当する量のエリスリトールを使って、血液脳関門の細胞に与える影響を調べました。

 

その結果、細胞が酸化ストレスにさらされ、機能障害や細胞死が誘発されるという深刻な影響が確認されました。

 

 

酸化ストレスと血管機能への悪影響

研究チームが注目したのは、エリスリトールが「酸化ストレス」を引き起こす作用です。酸化ストレスとは、活性酸素(フリーラジカル)が過剰に生成されることで細胞を傷つけ、老化や疾患の原因となる現象です。

 

今回の実験では、エリスリトールによって発生した大量のフリーラジカルが、細胞の抗酸化防御機能を抑制し、結果として血管内皮細胞の損傷を引き起こしましたことが示されています。

 

さらに、研究者らは血管の弾力性と血流調整に関わる重要な二つの物質、一酸化窒素(NO)とエンドセリン-1のバランスにも注目しました。一酸化窒素は血管を拡張させる役割を果たし、エンドセリン-1はその逆に収縮させます。

 

エリスリトールはこのバランスを崩し、NOの産生を減少させながら、エンドセリン-1の量を増加させていたのです。

 

この結果、血管が必要以上に収縮したままとなり、脳への酸素や栄養の供給が妨げられる状態が生じます。

 

これは虚血性脳卒中(血栓による脳血管の閉塞)のリスクを高める重要な兆候とされています。

 

さらなる懸念材料として、研究ではエリスリトールが血栓を自然に溶かす身体の防御反応「組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)」の働きを妨げることも明らかになりました。

 

本来、血管内に血栓ができた際には、このtPAが速やかに血栓を分解し、脳卒中などのリスクを回避する仕組みがあります。

 

しかしエリスリトールはこの反応を阻害し、血栓が解消されないまま残る危険性を生じさせるというのです。

  

 

人間における観察研究との一致

このような細胞レベルでの実験結果は、すでに行われている複数の大規模観察研究の結果とも一致しています。

 

これらの研究では、エリスリトールを頻繁に摂取する人は、心筋梗塞や脳卒中の発症率が有意に高くなることが報告されています。

 

ある研究では、数千人規模の参加者を追跡調査し、血中エリスリトール濃度が最も高かった群は、心血管イベントを起こすリスクが約2倍に跳ね上がるというデータが得られました。(The artificial sweetener erythritol and cardiovascular event risk

 

とはいえ、この研究にはいくつかの限界も存在します。

 

実験は「シャーレ内の細胞(in vitro)」で行われており、実際の血管組織や全身環境での再現性がまだ確認されていない点が挙げられます。

 

研究者らもその点を認めており、今後はより高度な技術を用いた再現実験が必要であると述べています。

 

 

「天然」でも安心ではない?エリスリトールの位置づけ

 

エリスリトールは、人工甘味料とは異なり「糖アルコール」に分類される天然由来の化合物であり、人間の体内でも微量ながら自然に生成されます。

 

このため、世界保健機関(WHO)が2023年に発表した「人工甘味料の使用を控えるべき」とする勧告には該当せず、今もなお多くの食品に使用され続けています。

 

とくに「糖質ゼロ」「ケトジェニック対応食品」といった製品では、エリスリトールは砂糖に近い味と使いやすさを兼ね備えた貴重な代替甘味料として重宝されています。

 

 

規制当局と消費者が直面する選択

現在、エリスリトールは欧州食品安全機関(EFSA)や米国食品医薬品局(FDA)によって「安全」と認定されており、販売や使用に制限は設けられていません。

 

しかしながら、今回の研究によって明らかとなったように、「天然」だから安全であるとは一概には言えない現実があります。

 

日常的に摂取する甘味料が、知らず知らずのうちに脳や血管の健康を蝕んでいる可能性があるという事実は、非常に重要な問題です。

 

 

今後の展望と消費者への警鐘

栄養科学の分野においては、「即効性」よりも「長期的な影響」を評価することがますます求められています。

 

甘味料の使用も例外ではなく、目先のカロリー制限だけでなく、体内での代謝・反応・蓄積といった生理的側面からの評価が不可欠です。

 

エリスリトールは確かに、血糖値の上昇を抑えたり、糖尿病予防に役立つ側面もありますが、その代償として脳の保護機構を侵す可能性があるのであれば、使用には慎重さが求められます。

 

私たち消費者は、製品のパッケージにある「ナチュラル」や「ゼロカロリー」といった表記だけで安心せず、自らが摂取するもののリスクとベネフィットを冷静に見極める力が問われていると言えるでしょう。

  

 

まとめ

・エリスリトールは脳の防御壁である「血液脳関門」に損傷を与え、脳卒中リスクを高める可能性があると示唆された

・酸化ストレスの誘発や血管機能の不全、血栓溶解メカニズムの阻害といった多方面の悪影響が確認された

・今後はより高度な研究による再検証が必要であり、消費者は「天然」甘味料にもリスクがあることを認識する必要がある

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