過敏性腸症候群(IBS)は消化器症状だけでなく性的なパフォーマンスにも影響する

科学
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過敏性腸症候群(IBS)の患者は、消化管症状だけでなく、うつ症状性生活への影響も訴えることが知られています。

 

この度、イランのハマダン大学医学科学から、IBS患者の性機能、うつ症状、生活の質(以下QOL)を、うつ症状ある非IBS群および健康対照群と比較検討した横断研究が発表されました。

  

横断研究(cross-sectional study)

ある一時点で集団の特徴や状態を調査する研究手法のこと

時間の経過を追わず、調査時点における情報を使って、対象となる複数の事象の関係性などを明らかにしようとする

 

比較対象は三群各49名で構成され、性機能評価ツール・抑うつ尺度・QOL尺度をもちいた定量的解析により、IBS患者における性機能低下の背景要因を探る試みです。

 

これまでもIBSとうつ症状の相関は知られてきましたが、今回は性機能との関連性が大規模に調査され、IBS症状の影響に新たな見知を見出すものとされています。

 

以下に研究の内容をまとめます

 

参考研究)

Sexual function, depression, and quality of life in patients with irritable bowel syndrome(2025/07/07)

 

 

研究概要と方法

  

本研究は、2021年3月から2022年3月までに大学付属クリニックを訪れたIBS患者を対象に行われました。

【対象者】

・IBS患者47名(2名回答不備)

DSM‑5基準でうつ症状を呈するがIBSを伴わない49名

・健康な対照49名から成る3群各49~47名構成

  

性機能は男女別にFSFI/MSHQ、抑うつはBDI-II、QoLはWHOQOL-BREFで評価されました。

 

【検討された主な指標】

・性機能(女性:FSFI、男性:MSHQ)

・抑うつ状態(BDI-II得点)

・生活の質(WHOQOL-BREF得点)

・相関分析による性機能・抑うつ・QoL間の関連性解析

 

 

主な結果──男女ともに性機能への影響が顕著

  

【抑うつ状態とQOL】

・IBS群と抑うつ群は、どちらも対照群に比べて抑うつスコアが有意に高い

・QOLでは、IBS群と抑うつ群に有意差はなかったが、いずれも対照群に比べて低かった

・IBS患者内では、QOLと抑うつが強い逆相関を示した

  

【性機能】

男性の性的パフォーマンスの比較 Table 3 Comparison of men’s sexual performance in different groupsより
女性の性的パフォーマンスの比較 Table 4 Comparison of women’s sexual performance in different groupsより

・男性と女性ともに、性機能スコアは三群間で有意差あり

・特に、男性では抑うつ群と対照群で勃起・射精・満足度が明確に低く、IBS群と対照群では有意差なし(例:勃起後のボンフェロニ検定でP = 0.002)

・一方、女性ではIBS群は対照群より低スコアで、特に満足度・痛みなどで両群に有意差あり

 

【相関解析】

・男性IBS患者ではQOLと性機能に正の相関が認められ、抑うつと性機能は負の相関

・女性IBSでは性機能とQOL・抑うつ間の相関は有意でない

 

上記の結果を受けて、IBS患者では、うつ症状が生活の質を低下させるだけでなく、性機能の低下にも関与している可能性があると言えます。

 

また、IBSに由来する身体症状が性機能に悪影響あることも示唆されました。

 

腹痛・腹部張満などの症状が性生活を妨げる恐れがあるため、うつ以外の身体的・薬理的・心理社会的ストレス要因も無視できない関係にあります。

 

本研究では女性IBS患者の性機能低下が男性より深刻に見られるものの、有意差は小さく、将来的な大規模研究での検証が望ましいとの論点が示されています  

  

 

研究の限界と今後の課題

本研究は、IBS患者において抑うつ・QOL・性機能が複合的に負に影響を及ぼしている点に焦点が当てられました。

 

特に男性の性機能におけるうつとの関係性とQoLの影響が統計的に示唆されました

 

しかし、横断研究ゆえに因果関係の特定はなされていません

 

また、回答偏りの可能性自己申告・低リテラシー層の理解困難・便宜サンプリングゆえの偏りなど変数の影響も考えられます。

 

結果の一般化には因果不明確性やサンプリング偏向などの留保が必要です。

今後は前向きコホート研究IBSサブタイプ別の分析性機能を含む介入試験などが期待されます。

 

 

まとめ

・過敏性腸症候群(IBS)患者は抑うつスコアが有意に高く、Q OLも低い傾向がある

・男性IBS患者では生活の質QOL)と性機能に正の相関、抑うつとは負の相関がみられる

・本研究は横断的研究のため因果解明には今後の追跡研究や介入研究が必要

・しかし、IBSが身体、精神に対して及ぼす影響は無視できないものである

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