長らく肥満や健康状態の評価に用いられてきたBMI(ボディマスインデックス)ですが、最新の研究はその信頼性に疑問を投げかけています。
アメリカ・フロリダ大学の研究チームは、BMIよりも「体脂肪率(Body Fat Percentage, BF%)」の方が死亡リスクを正確に予測できると報告しました。

この研究では、一般的な健康診断でも簡単に測定できるBF%が、将来的な死亡の可能性を把握するうえで、より有効な指標であることが示されました。
以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Study Suggests BMI Can’t Predict Your Risk of Death—But This Other Metric Can(2025/07/16)
参考研究)
・Body Mass Index vs Body Fat Percentage as a Predictor of Mortality in Adults Aged 20-49 Years(2025/06/24)
BMIの限界とは?ーー「高いから不健康」とは限らない現実

BMIは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ることで算出される数値で、国際的に肥満度の目安として広く使われてきました。
数値が高いほど、糖尿病や心血管疾患といった生活習慣病のリスクが高いとされ、医療機関や健康診断では今もなお主流の評価方法です。
しかし、BMIの根本的な問題は、「何が重さの正体か」を区別できない点にあります。
この点について、ノースウェル・ヘルスのスタテンアイランド大学病院で肥満に関する医学を担当するShiara Ortiz-Pujols医師は次のように指摘します。
「例として、エリートアスリートの多くはBMIが高い傾向にあるが、実際には筋肉量が多く、極めて健康です。BMIだけに注目すると、健康な人まで『肥満』と誤認される恐れがある」
またその逆も存在します。
見た目は「普通体型」でBMIも正常値の範囲にある人が、実際には体脂肪率が高く、糖尿病や高血圧、非アルコール性脂肪肝などの病気リスクが高いケースです。
このような人々は、「ノーマル・ウェイト・オビシティ(正常体重型肥満)」あるいは俗に「スキニーファット(見た目は細いけれど中身は脂肪)」と呼ばれます。
フロリダ大学医学部の地域保健・家庭医療学部で教授を務めるArch Mainous博士は次のように述べています。
「こうした人々の中には、糖尿病や高血圧、肝疾患といった健康上の問題を抱える人が少なくない。見た目だけでは健康状態を判断できない」
脂肪率の測定が「より正確な死亡リスク予測」につながる理由
こうした背景を踏まえ、フロリダ大学の研究チームは、BMIの限界を補完する新たな指標として、体脂肪率がどれほど死亡リスクと関連しているかを明らかにしようと試みました。
研究では、1999年から2004年の間に収集されたアメリカ成人4,252人(年齢20〜49歳)の健康データを分析対象としました。
これには、身長・体重・ウエスト周囲径・体脂肪率などのデータが含まれており、参加者のBMIと死亡記録(2019年まで)との関連性を検討しました。
体脂肪率の測定には、「バイオ電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis)」という技術が用いられています。
これは、微弱な電流を身体に流して、筋肉や脂肪、水分の割合を非侵襲的に推定する方法で、医療機関やジムなどでもよく使われています。
その結果、以下のような重要な知見が得られました。
• BMIが「肥満」とされる25以上の数値であっても、死亡リスクとの有意な関連は見られなかった
• 一方で、体脂肪率が高い人(男性で27%以上、女性で44%以上)は、死亡リスクが78%も高いことが判明した
• ウエスト周囲径も一定の相関はありますが、BF%ほどの信頼性はなかった
これらの結果から、研究者らは「体脂肪率こそが、健康状態と将来的な死亡リスクを予測するためのより直接的な指標である」と結論づけました。
BMIを完全に無視するべきか?
では、今後はBMIの利用をやめて、BF%のみに依拠すべきなのでしょうか。研究を主導したMainous博士は、次のように冷静に指摘します。
「BMIはあくまで簡易的なスクリーニング手段として使う分には有効である。しかし、それだけに頼ることは誤解を生みやすく、個別の健康状態を正確に捉えるには不十分。」
イェール大学のメタボリックヘルス・体重管理プログラムの責任者であるWajahat Mehal医師もこう述べています。
「BMI、ウエスト周囲径、体脂肪率、血圧、コレステロールといった複数の指標を組み合わせることで、より総合的に健康状態を評価できる。」
特に現代の医療機器では、体脂肪率の測定が1分以内で完了する簡便なシステムも普及しています。
価格も手ごろで、一般診療所でも導入可能な機種が増えてきています。
Mainous博士は、こうした新たな計測を活用することで、予防医療の実現につながると強調しています。
「痩せているから健康」ではない時代へ

今回の研究は、BMIの一元的な使用に警鐘を鳴らすと同時に、体脂肪率という新たな視点から健康を再定義するものとなっています。
「肥満=不健康」「普通体型=健康」というステレオタイプを超えて、見えないリスクに目を向ける医療の姿勢が、これからの時代にますます求められるのではないでしょうか。
予防医療や健康長寿を実現するためには、より正確で、かつ現場で簡単に使える指標の整備が不可欠です。
その候補として、体脂肪率という新たな評価軸が、今後ますます注目されることになることが予測されます。
まとめ
・BMIだけでは死亡リスクや健康状態を正確に評価するのが難しい
・体脂肪率は死亡リスクとの相関が強く、医療現場での測定も容易
・今後は複数の指標を用いた総合的な健康評価が必要とされる
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