糖尿病、とりわけ二型糖尿病は、世界中で増加の一途をたどっている重大な健康課題です。
その主たる原因は、食生活の乱れや運動不足といった環境要因が関与する一方、近年では「遺伝的素因」も病気の発症に強く関わっていることが遺伝子研究によって明らかにされてきました。(Genetics of Diabetesより)
そんな遺伝との関わりが深い糖尿病ですが、フィンランドのクオピオ大学病院らによる研究から、「遺伝的リスクが高い中高年男性でも、食生活と運動習慣を改善することで二型糖尿病の発症リスクを低下させられる」という研究結果が報告されました。
今回のテーマとして、以下に研究の内容をまとめます。
参考記事)
・Diet And Exercise Could Outsmart Your Genes in Risk For Type 2 Diabetes(2024/08/29)
参考研究)
・Effects of Genetic Risk on Incident Type 2 Diabetes and Glycemia: The T2D-GENE Lifestyle Intervention Trial(2024/06/18)
「高リスク」でも防げる:運動と食事による成果

研究では、50歳以上の男性600人以上を対象にした3年間の介入プログラムが実施されました。
参加者は遺伝的な糖尿病リスクに基づいて「高リスク群」と「低リスク群」に分類され、健康的な食事と定期的な運動を実践するよう指導を受けました。
このプログラムには以下の要素が含まれていました。
• グループセッションによる健康教育
• 管理栄養士による個別指導
• 食事と運動に関する冊子の提供
• 年2回の経過観察(経口糖負荷試験や身体測定)
また、同年代の男性345人が「対照群」として設定され、こちらには介入が行われませんでした。
この対照群にも「高リスク」と「低リスク」が含まれており、それぞれの違いが比較されました。
遺伝リスクの高さにかかわらず、介入群に明らかな健康改善効果

遺伝リスクは、糖尿病発症に関係する76種の遺伝子変異のスコアを用いて評価されました。対照群と比較したところ、次のような成果が明らかになりました。
• 遺伝的に高リスクな参加者でも、生活習慣改善によって発症率が6%低下
• 低リスク群においても、体重減少や代謝改善といった恩恵が得られた
• 年齢に伴う血糖コントロールの悪化も、介入群では明らかに抑えられていた
これらの結果は、遺伝的背景に関係なく生活習慣が健康状態に強く影響を与えることを裏付けています。
この研究に携わった東フィンランド大学の管理栄養士Maria Lankinen氏は、次のようにコメントしています。
「今回の結果は、すべての人に健康的なライフスタイルへの転換を促すものである。
また、グループ型やインターネットを活用した生活指導が、医療資源の効率的な活用にもつながることを示している。」
つまり、このアプローチは低コストかつ現実的な予防策としての可能性も兼ね備えているのです。
遺伝子と環境の影響を分離して解析
過去にも、生活習慣の改善によって糖尿病の発症率が下がることを示した研究はありました。
たとえば、イギリスで実施された1年間の糖尿病プログラムでは、患者の32%が寛解状態(薬不要)に達したという成果が報告されています。
しかし今回のフィンランドの研究は、遺伝要因と生活環境の影響を分離して評価できるよう設計された点が革新的です。
これにより、「遺伝リスクがあるから生活習慣を改善しても無意味」といった考えが否定されることになりました。
「予防可能な病気」としての糖尿病
研究チームは、今回の成果を次のようにまとめています。
「私たちの結果は、二型糖尿病は予防または発症を遅らせることが可能な病気であることを示している。
遺伝的なリスクの有無にかかわらず、すべての人がライフスタイルの改善を推奨されるべき。」
さらに、特に中高年男性を対象としたこのアプローチは、実用的かつ費用対効果に優れた対策であり、世界的な糖尿病予防戦略として有望であると述べています。
今後の課題
研究チームは、今回の結果を広く適用するにはより大規模かつ多様な対象者による追試が必要であると指摘しています。
たとえば、女性や若年層、異なる民族背景を持つ人々における効果を確認する必要があります。
それでも、本研究が示す「遺伝子を超える生活習慣の力」は、これまでの医療の常識を覆す可能性を秘めています。
医療機関や政策立案者にとっても、生活指導を医療の第一線に組み込む重要性が、より一層強調されることとなるでしょう。
まとめ
・遺伝的リスクが高い人でも、食事と運動の改善により2型糖尿病の発症リスクを低下できる
・生活習慣の改善は、遺伝リスクの低い人にも代謝や体重の面で有効
・グループ型やオンライン型の指導は医療資源を節約しつつ、効果的な予防策となる可能性がある
コメント