食事のスピードを意識することが、体重管理や過食の予防に大きく関係しているということが、最新の研究によって示されました。
これまでにも、「ゆっくり食べることが体に良い」とはよく言われてきましたが、その理由や具体的な方法は、はっきりとした科学的根拠が乏しいままでした。
しかし、藤田医科大学の飯塚 勝美教授らによる研究チームは、「食事をゆっくりとる」ための具体的な手段と、それがどのように過食を防ぐのかについて明らかにしました。
2024年3月に栄養学専門誌『Nutrients』に掲載された研究を基に、以下に内容をまとめます。
参考研究)
・Greater Numbers of Chews and Bites and Slow External Rhythmic Stimulation Prolong Meal Duration in Healthy Subjects(2025/05/10)
「ゆっくり食べる」ための3つの行動とは?

今回の研究では、以下の3つのシンプルな行動が、食事時間を長くし、結果として過食を防ぐ可能性があることが示されました。
1. 一口の量を減らす(小さく口に運ぶ)
2. 噛む回数を増やす
3. ゆっくりしたテンポの音楽を聴きながら食事をする
これらの行動はどれも難しいものではなく、意識さえすれば誰でも実践可能です。
重要なのは、「食事時間を長くする」ことが、満腹感の認識と摂取カロリーに大きな影響を与えるという点です。
研究の方法とその結果
飯塚教授らは、20歳から65歳の健康な成人33名を対象に、以下の条件下でカットされたピザを食べてもらい、食事時間、咀嚼(そしゃく)回数、噛むスピードなどを計測しました。
参加者は、以下の異なる状況でピザ(4切れ)を食べました。
• 音楽なし
• メトロノーム(テンポ40 bpm)
• メトロノーム(80 bpm)
• メトロノーム(160 bpm)
その結果、男女間で食事に関する行動に以下のような大きな違いが見られました。
• 一口あたりの咀嚼回数:女性は平均107回、男性は80回
• 一切れを食べるのに必要な噛む回数:女性は平均4.5回の咀嚼で完了、男性は2.1回
• 食事時間:女性は平均87秒、男性は63秒
ただし、性別の影響を除外した分析では、食事時間は「噛む回数」と「一口あたりの量」によって決まるということが分かりました。
つまり、一口の量を減らし、噛む回数を増やせば、自然と食事時間が伸びるということです。
また、テンポの遅い音楽(40 bpm)を聴いていたときには、食事時間が最も長くなる傾向がありました。
なぜ「ゆっくり食べる」ことが満腹感につながるのか?

「満腹感」は、食べた量だけでなく、「食べ始めてからの時間」でも決まります。
Dana Hunnes博士(UCLA フィールディング公衆衛生大学院)によれば、「満腹感は、摂取した量と同時に時間的な要素でも感じるようになります。食べ始めてから満腹を感じるまでに約20分かかる」とのことです。
したがって、小さな一口を繰り返し、よく噛むことで、脳と胃が連携して満腹を感じやすくなり、食べ過ぎを防げるのです。
Hunnes博士は、「早く食べる人は、満腹ホルモン(レプチン)が分泌される前に食べ終えてしまうため、空腹を感じたままで食べ過ぎやすい」とも述べています。
音楽が食事行動に与える影響とは?
音楽を聴きながらの食事は、一見すると単なる雰囲気作りのように思えますが、実際には「食事に集中する」ことを促す手段として有効です。
飯塚教授は、「落ち着いたテンポの音楽は心拍を安定させ、食事に対する注意力を高める」と説明しています。
Hunnes博士も、「心が落ち着いていると、味覚や噛みごたえ、食感といった食事の細かな感覚に集中できる」と語っています。
つまり、音楽は間接的に「一口を小さくし、よく噛む」という行動を支援するのです。
今後の研究と実践への応用
今回の研究は非常に有益な知見を提供してくれましたが、対象者数が少ない点や、食べた食品(ピザ)の特性に限りがあることなど、いくつかの限界点もあります。
Hunnes博士は、「次回はもっと多くの参加者や、ピザ以外の低カロリー・高栄養な食品(たとえばサラダなど)で研究することで、さらに広い応用可能性が見えてくる」と指摘しています。
しかし、日常生活においては、今回のような簡単な工夫を取り入れることで、食事スピードを自然とコントロールし、体重管理にもつなげることが可能です。
専門家がすすめる「ゆっくり食べる」ための実践法
飯塚教授によると、「最も重要なのは、ひと口の量を減らすこと」です。
しっかり噛み、次のひと口を口に入れる前に、今の食べ物を完全に飲み込んでからにすることが勧められています。
理想的な食事時間は15分程度とも言われており、この時間内で、少しずつ食べる意識を持つことが、体への優しさにつながります。
Hunnes博士は、「食事は競争ではない。早く食べれば食べるほど、摂取量が増えてしまう」と注意を促し、食事中には味、食感、温度などに意識を向ける「マインドフル・イーティング」の実践を推奨しています。
まとめ
・ひと口を少なく、よく噛む、ゆっくりした音楽を聴く……、と言った工夫が食事時間を自然に伸ばし、満腹感を高める効果があることが判明
・満腹感は、摂取量だけでなく「時間的な要素」にも大きく左右される
・「今この瞬間」に意識を向けたマインドフルな食事が、無理のない体重管理につながる
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