「運動を習慣にしたい」「健康的な食生活を続けたい」など、新しい習慣を身につけたいと思ったことのある方は多いのではないでしょうか。
そしてその際、「習慣は21日で身につく」といった言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
この「21日神話」は、手軽で勇気づけられる言葉として広く信じられてきました。
しかし、心理学や行動科学の分野における最新の研究によれば、この説には科学的な裏付けがなく、実際の習慣形成ははるかに複雑であることが明らかになっています。
研究の内容を以下にまとめます。
参考記事)
・Here’s How Long You Need to Form a Habit, And 8 Tips to Stick With It(2024/01/24)
・How Long Does It Really Take to Form a Habit?(2025/05/04)
参考研究)
・Determinants of behaviour and their efficacy as targets of behavioural change interventions(2024/03/04)
・A Systematic Review Examining the Relationship Between Habit and Physical Activity Behavior in Longitudinal Studies(2021/03/04)
・How are habits formed: Modelling habit formation in the real world(2009/07/16)
習慣が本当に定着するまでの期間は?

「21日で習慣が形成される」という説は、1960年代の形成外科医Maxwell Maltz(マクスウェル・マルツ)が提唱した観察に由来しています。(Maxwell Maltz著 Psycho-Cyberneticsより)
彼は、自身の患者が身体的変化に順応するまでにおおよそ3週間かかると記録しました。
このアイデアが自己啓発本などで広まり、あたかも普遍的な法則のように語られるようになったのです。
しかし実際には、習慣の定着にはもっと時間がかかるということが、近年の研究で分かってきました。
2009年に発表されたある研究では、被験者が「朝食後に水を飲む」「毎日果物を1つ食べる」といった単純な行動を習慣にしようとする過程を追跡し、その行動が自動化されるまでに要した平均期間は66日だったと報告されています。(How are habits formed: Modelling habit formation in the real worldより)
また、サウス・オーストラリア大学のBen Singh氏とAshleigh E. Smith氏による最近の研究レビューでは、健康関連の習慣を対象にした複数の研究を分析した結果、習慣が自動的な行動として定着するまでには、平均して59日から154日かかることがわかりました。(Time to Form a Habit: A Systematic Review and Meta-Analysis of Health Behaviour Habit Formation and Its Determinantsより)
中にはわずか4日で習慣が形成された人もいれば、1年近くかかった人もいたといいます。
このように、習慣形成にかかる期間には個人差が大きく、一概に「○日」と決めることはできないのです。
習慣が定着しやすい条件とは?

では、どのような条件のもとで習慣は定着しやすくなるのでしょうか。
研究によれば、「習慣の強さ(habit strength)」が重要な役割を果たすとされています。
2021年の体系的レビューでは、運動習慣が強くなるほど、行動がより自動的かつ苦労なく行えるようになり、継続性が高まるという結果が出ています。(A Systematic Review Examining the Relationship Between Habit and Physical Activity Behavior in Longitudinal Studiesより)
つまり、歯磨きのように「考えずにできる行動」になるまで繰り返されると、習慣は持続しやすくなるのです。
また、習慣の複雑さや実施のしやすさも影響します。
例えば、「毎日ビタミンを摂取する」「水を飲む」といった低負荷の行動の方が、マラソンのトレーニングのような複雑な行動よりも早く習慣化する傾向があります。
モチベーションだけでは不十分。構造的サポートが鍵
習慣を形成するためには、単なる意志の力やモチベーションだけでは不十分です。
2024年ペンシルベニア大学が行った研究では、繰り返しやきっかけ、明確なルーティンなど、行動をサポートする「介入」が効果的であることが示されています。(Determinants of behaviour and their efficacy as targets of behavioural change interventionsより)
例)
• 毎日同じ時間に運動するようスケジュールを組む
• 食後に水を飲むようアプリでリマインドする
といった工夫は、行動の繰り返しを助け、忘れにくくすることで習慣化を促進します。
サウス・オーストラリア大学の研究では、2600人以上のデータを分析し、「習慣形成のための介入」が、フロスの使用や健康的な食事、定期的な運動など、さまざまな行動において効果を発揮したことを確認しています。
なかでも重要なのは、どんなに小さな行動でも、継続されれば強力な習慣に育つという事実です。
一晩で人生を一変させる必要はありません。むしろ、日々の繰り返しによって自然な行動へと育てていくことが、習慣形成の王道なのです。
習慣化を成功させる8つの科学的アドバイス

記事内では、新しい習慣を身につけたい方に向けて、以下の科学的に裏付けられた実践的なアドバイスが紹介されています。
1. 時間をかけることを恐れない
まずは60日以上の継続を目指す
完璧を求める必要はなく、1日休んだからといってリセットされるわけではない
2. 小さく始める
無理のない、毎日実行可能な行動からスタートすることがカギ
3. 既存の習慣に結びつける
たとえば、「歯を磨く前にフロスをする」など、すでに行っている行動の直後に新しい習慣を組み込むと記憶しやすい
4. 進捗を記録する
カレンダーやアプリで毎日の成功を記録することで、達成感が得られやすくなる
5. ご褒美を取り入れる
たとえば「朝の散歩の後にお気に入りのコーヒーを飲む」「一週間運動を続けたらドラマを見る」など、ポジティブな感情が習慣を定着させる
6. 朝の時間帯を活用する
朝はモチベーションが高く、誘惑が少ないため、新しい行動を定着させるには最適な時間となる
7. 自分で選んだ行動であることが重要
自分の意思で選んだ行動の方が、継続率が高くなる
たとえ自分で選んだ行動でないにしろ、自分が選んだと思いこむこと大切
8. 安定した環境で繰り返す
同じ時間、同じ場所、同じ流れで繰り返すことが自動化への近道
たとえば「昼食後に散歩する」といった具体的な設定が効果的
「21日神話」の落とし穴
「21日で習慣が定着する」という神話は、多くの人に誤解と挫折感を与える可能性があります。もし3週間で習慣化が実感できなければ、「自分には無理なのでは」と感じてしまい、継続を諦めてしまうこともあります。
ですが、実際の習慣形成には2か月以上かかることが一般的です。
こうした現実を理解しておくことで、変化のスピードが遅くても挫折しにくくなります。
繰り返しになりますが、習慣を形成する鍵は「スピード」ではなく「継続性」です。
たとえ小さな行動でも、日々積み重ねることで、やがてそれは無意識にできる「当たり前の行動」になります。
ですから、焦らず、毎日少しずつでも行動を重ねていきましょう。
時間をかければ、あなたの習慣もきっとあなたの一部になるでしょう。
まとめ
・習慣が定着するまでの平均期間は2か月以上で、個人差も大きい
・モチベーションだけでなく、繰り返しや環境などの工夫が習慣形成に不可欠
・行動のハードルを下げるなど小さく始めて、継続することが習慣化成功の鍵
コメント