科学

速歩きは心臓の心拍リズム異常(不整脈)のリスクを下げる

科学

日常生活の中で取り入れやすく、健康効果が高い運動として知られるウォーキングですが、その歩くスピードによって、心臓の健康状態にも大きな違いが生まれることが、英国の研究チームによって明らかになりました。

 

特に「速歩き」を習慣化している人は、心拍リズムの異常を起こすリスクが有意に低下するという結果が報告されています。

 

この研究を主導したイギリス・グラスゴー大学の公衆衛生学者 Jill Pell氏らの研究チームは、40万人以上の中高年のイギリス人のウォーキング習慣と心拍リズムに関する医療データを解析しました。

 

対象者のデータは、英国バイオバンク(UK Biobank)から提供されたもので、平均して約13.7年という長期にわたる追跡調査が行われています。

 

研究の内容を以下にまとめます。

 

参考記事)

Brisk Walking Could Lower Your Risk of Heart Rhythm Abnormalities(2025/04/30)

 

参考研究)

Association of self-reported and accelerometer-based walking pace with incident cardiac arrhythmias: a prospective cohort study using UK Biobank(2025/04/15)

 

 

歩行スピードが心拍異常の発症率に影響

研究では、対象者を歩行スピードによって以下の3つのグループに分類しました。

 

Association of self-reported and accelerometer-based walking pace with incident cardiac arrhythmias: a prospective cohort study using UK Biobankより

ゆっくり歩く人(時速3マイル未満=時速4.83km未満)

普通の速さで歩く人(時速3~4マイル=時速4.83〜6.44km)

速歩きの人(時速4マイル以上=時速6.44km以上)

 

その結果、普通のスピードで歩く人では、心拍リズム異常のリスクが35%低下しており、さらに速歩きの人では、そのリスクが43%も低下していたことが判明しました。

 

スローペースでも効果が見られた結果のまとめ(他のペースは論文テーブル2にて)

 

つまり、歩くスピードが速いほど、心臓のリズム異常を発症するリスクは小さくなるという相関関係が明確に示されたのです。

 

ここでいう「心臓のリズム異常(不整脈)」には、以下のような状態が含まれます。

 

心房細動(Atrial fibrillation):心臓の鼓動が不規則になる

頻脈(Tachycardia):脈が異常に速くなる

徐脈(Bradycardia):脈が異常に遅くなる

 

このような心拍異常は、高血圧や脳卒中など重大な疾患のリスクにも関係しており、日常的な運動の重要性があらためて浮き彫りとなりました。

 

 

ウェアラブルデバイスによる詳細な追跡

調査対象者の中には、歩行速度をより正確に計測するためにウェアラブル機器を装着していた約8万人が含まれており、このサブグループのデータから、さらに踏み込んだ分析が行われました。

 

この分析によると、日常的に普通から速めの速度で歩行する時間が長い人ほど、心拍リズム異常のリスクが最大で27%低下することが示されました。

 

つまり、より長時間にわたり活発に歩くことが、心臓の健康を守るカギとなるのです。

 

 

代謝・炎症反応が中間的な役割を果たす

研究チームは、歩行スピードと心臓疾患の間にある関係を深掘りするため、代謝系や炎症反応などの生理学的要因を分析しました。

 

その結果、歩くスピードの違いによる健康効果の約3分の1は、代謝や炎症反応の改善に起因していると考えられることがわかりました。

 

Jill Pell 氏は、「速歩きは肥満や慢性炎症を抑える効果があり、それが心拍異常のリスクを下げていると推測される」と述べています。

  

血圧の安定や体脂肪の減少も、心拍リズム異常を防ぐための間接的な要因として機能しており、身体の代謝全体を活性化させる速歩きの重要性が科学的に裏付けられた形です。

 

 

特に効果が大きかった対象者

今回の研究では、特定の人々に対して、より顕著な健康効果が見られました。

 

具体的には、以下のような条件に該当する人々が、速歩きによる恩恵を大きく受けていたと報告されています。

 

60歳未満の人

高血圧のある人

肥満ではない人

複数の既往症を持つ人(2つ以上)

女性 

 

これらの人々は、日常のウォーキングを「少し速く」行うことで、より大きな健康改善効果を得られる可能性があります。

 

 

観察研究であることの留意点

本研究は観察研究であるため、因果関係を直接的に証明するものではないという点には注意が必要です。

 

つまり、「速歩きが不整脈を防ぐ」と断定するのではなく、「速歩きをしている人ほど不整脈が少ない」という相関関係が認められた、という表現がより正確です。

 

それでも、長期にわたる大規模データを用いた解析は、今後の予防医学や生活習慣改善の指針として、非常に有益な知見を提供していると考えられます。

 

Jill Pell氏はこの結果に対し、「これまでの疫学的研究では、歩行スピードは代謝指標と逆相関することが繰り返し示されてきた。本研究の結果は、生物学的にも整合性がある。」と述べています。

 

 

健康のためには「速さ」と「継続」がカギ

 

今回の研究結果を踏まえると、日常のウォーキングにおいては、ただ歩くだけでなく、少しスピードを意識することが健康にとって有効であるといえます。

 

加えて、定期的に歩くこと、できれば長時間にわたって歩くことが、心臓の健康を守るためのカギとなります。

 

また、近年の他の研究でも、「早歩きによって生物学的な老化の進行が遅くなる可能性」が示されており、日々の生活の中に運動をどう取り入れるかがますます注目されています。

 

次に外出する際には、少しだけ歩くスピードを上げてみることを意識してみてはいかがでしょうか。

 

日常のちょっとした工夫が、長期的な健康の差につながるかもしれません。

 

 

まとめ

・速歩きは、心拍リズム異常のリスクを最大43%低下させる可能性がある

・代謝や炎症反応の改善を通じて、心臓の健康を間接的に守る効果が期待される

・特に60歳未満や高血圧の人、既往症が複数ある人にとって有益性が高いとされている

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