科学

ビタミンDによる風邪の予防は期待されてる程ではないかもしれない

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ビタミンDが免疫力に良い影響を与えると信じられてきた中、最新の研究結果がこの常識に疑問を投げかけています。

 

ビタミンDはアメリカではマルチビタミンに次いで2番目に多く摂取されているサプリメントであり、多くの人が風邪や感染症予防に効果があると考えてきました。

 

しかし、ハーバード公衆衛生大学院のCarlos A. Carmago, Jr氏が主導した新たな大規模な研究は、ビタミンDの補給が風邪や急性呼吸器感染症(ARI)の予防に有意な効果を持たないことを明らかにしました。

 

本研究では、これまでの研究よりも多くのデータを含めて解析を行われ、その結果としてビタミンDが呼吸器感染症の予防には役立たない可能性があると結論づけられています。

 

以下、『The Lancet』に掲載された内容を参考に、記事にまとめます。

 

参考記事)

Can Taking Vitamin D Keep You From Getting Sick? What New Research Reveals(2025/04/22)

 

参考研究)

Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory infections: systematic review and meta-analysis of stratified aggregate data(2025/02/21)

 

 

研究の背景

  

ビタミンDは脂溶性ビタミンで、日光を浴びることによって体内で合成されるほか、いくつかの食品にも含まれています。

 

免疫機能をサポートする栄養素として注目されており、特に冬季や屋内で過ごす時間が長い現代人にとっては、サプリメントでの補給が推奨されることもあります。

 

Carmago氏は「ビタミンDが免疫系に影響を与える証拠は多くあり、実際に免疫が低い状態にある人の中には、ビタミンDの血中濃度が低い人も少なくない。そこで、サプリメントの摂取が感染症の予防につながるのかを改めて検証したい」と述べ、研究が実施されました。

 

 

最新の研究内容と方法

今回の研究は、過去に行われた46件の無作為化比較試験(RCT)を対象としたシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。

 

対象となった被験者は総勢64,000人以上にのぼり、過去の分析に比べて6つの新たな研究を追加する形で再検討されました。

 

研究では、ビタミンDを摂取したグループとプラセボ(偽薬)を摂取したグループを比較し、急性呼吸器感染症(くしゃみ、咳、鼻水など)の発症率に有意差があるかを統計的手法を用いて解析されました。

 

Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory infections: systematic review and meta-analysis of stratified aggregate dataより

 

さらに、年齢、摂取量、血中ビタミンD濃度などの要因によって効果が異なるかどうかも検討されました。

  

その結果、ビタミンDの摂取が感染症の発症リスクを統計的に有意に下げることは確認されませんでした。

 

  

ビタミンDの効果には個人差がある?

ニューヨーク・メディカル大学医学部の学部長で呼吸器専門医のNeil W. Schluger氏は、この結果について「特に驚きではない」とコメントしています。

 

彼は、以前の2021年のレビューでも「効果があったとしても非常に小さく、統計的有意性をかろうじて示す程度だった」と述べており、今回新たに追加された大規模研究の結果を踏まえれば、「臨床的に意味のある効果は認められない」としています。(High doses of vitamin D to reduce exacerbations in chronic obstructive pulmonary disease: a randomized trialより

 

また、Carmago氏も「ビタミンDの効果を単純に“ある”か“ない”かで語るのは難しい」と語っています。

 

例えば、もともとビタミンDの血中濃度が非常に低い人は、少量のサプリメントを継続的に摂取することで免疫に好影響を得られる可能性があります。

   

しかし、血中濃度がすでに十分な人にはその効果が見られず、結果として全体の平均効果が小さくなり、統計的に有意な結果が得られなくなる可能性が指摘されています。

  

  

ビタミンDはまったく不要なのか?

  

今回の研究結果が示すのは、「ビタミンDが急性呼吸器感染症を予防する決定的な手段ではない」ということに過ぎません。

  

ビタミンDが健康に重要な役割を果たしていること自体は疑いのない事実です。

    

ビタミンDは免疫機能だけでなく、骨の健康や神経・筋肉機能の維持、炎症の抑制にも深く関わっていますし、ビタミンDが欠乏しがちな人(特に子ども)は、ARIに罹りやすいことも確かです。(Randomized trial of vitamin D supplementation and risk of acute respiratory infection in Mongoliaより

    

そのため、特に日光をあまり浴びない生活を送っている人や、高齢者、骨粗鬆症のある人にはサプリメントの摂取が推奨される場合もあります。

    

栄養士のDarby氏は、「食品からもビタミンを十分に摂取できる」と述べており、食生活の質と多様性にも注目すべきだとしています。

   

特に、サケやサンマなどの魚介類、しいたいけやキクラゲなどのきのこ類を意識して摂取することが推奨されます。

  

  

風邪予防に効果的な方法とは?  

 

風邪や呼吸器感染症を完全に防ぐ「特効薬」は存在しませんが、生活習慣を整えることが最も確実な予防策だと専門家は述べています。

  

Schluger氏は、「健康的な食生活を保つこと、喫煙を避けること、肺炎などを引き起こすウイルスや細菌に対する予防接種を受けることが、感染症予防において最も効果的な方法です」と強調しています。

  

また、サプリメントに頼りすぎることについては慎重な姿勢を見せており、特定のビタミン欠乏症が医師によって確認された場合を除いて、サプリメントの摂取によって健康効果が得られる証拠は乏しい」と指摘しています。

  

今回の研究は、ビタミンDサプリメントが風邪を含む急性呼吸器感染症の予防において統計的にも臨床的にも有意な効果を持たないことを明らかにしました。

 

それでもビタミンD自体が重要な栄養素であることには変わりなく、状況によっては補給が有益な場合もあります。

  

大切なのは、サプリメントに過剰な期待をせず、日常の生活習慣を整えることが健康維持の鍵となるという点です。

 

 

まとめ

・ビタミンDの摂取は風邪予防に有意な効果を示さなかったことが、ハーバード大学の研究チームによって明らかにされた

・特定の条件下ではビタミンDが免疫に寄与する可能性もあるが、全体的な効果は限定的

・バランスの良い食事やワクチン接種、禁煙などの生活習慣が感染症予防においてより重要

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