糖尿病は、生活習慣病の中でも特に患者数が多く、世界中で5億人以上が影響を受けているとされます。
特に二型糖尿病は、加齢、運動不足、食習慣の乱れなどにより誰にでも発症の可能性がある病気です。
医療の現場では血糖値をコントロールするために、インスリン製剤や血糖降下薬が広く使用されていますが、副作用のリスクや継続的な服薬の負担といった課題も残されています。
こうした中で注目されているのが、食べ物に含まれる天然の化合物のひとつアブシジン酸(Abscisic Acid,;ABA)による病気の予防や改善への効果です。
イタリアのペルージャ大学は、植物ホルモンとして知られてきたアブシジン酸が、血糖値の自然な調整に寄与する可能性があすという研究結果を発表しました。
この研究結果は、代替医療や栄養療法の分野に大きなインパクトを与えています。
本記事では、以下参考研究を基に、アブシジン酸の作用や科学的根拠、そして糖尿病治療への応用可能性についてまとめていきます。
参考研究)
・Abscisic Acid: A Novel Nutraceutical for Glycemic Control(2017/06/13)
植物ホルモンからヒトの代謝制御物質へ:アブシジン酸とは

アブシジン酸(以下ABA)は、植物が乾燥や塩分などのストレスに直面した際に、その耐性を高めるために分泌するホルモンの一つです。
従来は植物学の分野で研究されてきたこの物質が、近年になって哺乳類の体内でも自然に生成されること、さらには代謝や免疫の調節に関与することが明らかになってきました。
ABAは、玄米をはじめ、ブルーベリーやブドウといった果物、トウモロコシやトマトなどの野菜など多くの植物に含まれており、私たちは日々の食事から自然に摂取しています。

その含有量は果物の熟度によっても変動しますが、加工食品やジュース類にまで加工したとしてもその成分が含まれていることが多く、食習慣によって体内のABA濃度が大きく変わるとされています。
血糖コントロールの鍵:ABAが働く「インスリン非依存経路」
現在の糖尿病治療は、インスリン分泌の促進やインスリン感受性の改善を軸とする治療薬に依存しています。
しかし、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」の状態では、これらの治療が十分に効果を発揮しないことも少なくありません。
その点、ABAが注目される理由は、インスリンを介さずに血糖値を低下させる作用を持っている点にあります。
ABAは、免疫細胞や脂肪細胞、筋肉細胞などに発現するLANCL2(LanC-like protein 2)という受容体に結合することで細胞内の代謝を活性化し、グルコースの取り込みを促進します。

これにより、血中の余分な糖が速やかに細胞内に取り込まれ、結果として血糖値が安定するのです。
この経路は、現在使われている血糖降下薬とは異なる作用機序であり、従来の治療法と併用することで相乗効果をもたらす可能性があります。
抗炎症作用という“もう一つの効能”
糖尿病の進行や合併症の背景には、「慢性炎症」が深く関係していることが広く知られています。
特に、肥満や脂肪組織の拡大に伴い、免疫系が活性化され、インスリンの作用を阻害する炎症性サイトカインが過剰に分泌されることが、病状の悪化を招いているのです。
ABAには、こうした炎症を抑える作用も確認されており、インスリン抵抗性の改善にも寄与すると考えられています。
研究では、ABAがT細胞やマクロファージなどの免疫細胞の働きを制御し、TNF-αやIL-6といった炎症性因子の産生を抑制する可能性が示唆されました。
すなわちABAは、血糖値の制御と同時に、糖尿病に伴う炎症や免疫異常に対しても多面的にアプローチできる物質といえるのです。
サプリメントとしての開発と将来の臨床応用
本研究は、「栄養素によって代謝を制御する」という新たな視点を糖尿病治療にもたらしました。
従来の薬物中心の治療だけでは対応が難しかったケースにも、ABAのような天然由来の成分が一助となる未来が近づいているのかもしれません。
ABAは食事から自然に摂取可能な栄養素であると同時に、サプリメントとしての応用にも高い将来性を秘めています。
特筆すべきは、ごく微量で効果を発揮すること、そして毒性が極めて低く、副作用の心配がほとんどない点です。
ヒトでの予備的な臨床試験においても、ABAを含む食品やサプリメントを摂取した群で、血糖値の上昇が穏やかになったとの結果が得られています。
今後、より大規模な臨床試験や長期的な投与研究が行われることで、安全性と有効性の裏付けがさらに強化されると期待されます。
また、薬物治療に抵抗を示す患者や、高齢者、軽度の糖代謝異常を持つ人々にとって、ABAは薬に頼らない自然な選択肢となる可能性を秘めています。
まとめ
・アブシジン酸は、植物だけでなく哺乳類にも作用し、血糖値を下げる機能性物質として注目されている
・ABAはインスリンに頼らずに血糖を調整し、炎症を抑える作用も併せ持つ多機能な天然成分である
・食品からの摂取及び、摂取成分の解析が進むことで、安全かつ自然な糖尿病予防・改善手段としての実用化が期待されている
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