科学

フィチン酸の摂取が体内のミネラルバランスに及ぼす影響

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関西大学の研究グループが行った動物実験により、植物性食品に多く含まれる成分「フィチン酸」が、体内のミネラル濃度や尿酸の生合成、さらには血清脂質成分にまで影響を与える可能性があることが明らかになりました。

 

本研究は、植物性食品の摂取比率が高い食生活を送る人々にとって重要な示唆を与える内容となっています。

 

以下の研究を参考に、内容をまとめていきます。

 

参考研究)

Effect of Phytic Acid Administration on the Zinc concentration, Uric Acid Biosynthesis, and Serum Lipid Components in Rats(2021/10/15)

 

 

フィチン酸とは何か

  

フィチン酸(phytic acid)は、米や豆類、全粒穀物など、多くの植物性食品に含まれている天然の有機酸です。

 

イノシトールの水酸基に6つのリンがエステル結合していることから、イノシトール6リン酸とも呼ばれています。

 

ミネラルと強く結合する性質を持っており、亜鉛や鉄、カルシウムなどの必須ミネラルの吸収を阻害する「抗栄養素」としても知られています。

 

一方で、抗酸化作用や血糖値の上昇を抑える効果も報告されており、その生理作用にはポジティブな側面もあります。

 

今回の研究では、このフィチン酸がどのようにミネラルバランスや尿酸の代謝、脂質代謝に影響を及ぼすのかが詳細に検討されました。

 

 

研究の概要と方法 

研究を主導した関西大学のチームは、離乳直後の雄のラットに以下の3種類の食事を4週間にわたって与え、体内のミネラル濃度や酵素活性、血中成分の変化を調べました。

 通常の基礎食(AIN93G準拠)

 フィチン酸ナトリウムを0.5%添加した食事

 フィチン酸ナトリウムを1.0%添加した食事 

 

なお、使用されたフィチン酸ナトリウムは純度99.0%以上の高純度品で、食事全体のミネラル組成が一定になるよう調整されました。

 

分析対象となったミネラルには、亜鉛、鉄、銅、カルシウム、マグネシウム、マンガン、モリブデンなどが含まれており、さらに尿酸の代謝に関与する酵素(キサンチンオキシダーゼ)の活性や、血中の脂質成分(中性脂肪、コレステロール)への影響も評価されました。

 

 

研究で明らかになった主な結果

研究では、フィチン酸の摂取量が増えるにつれて、さまざまな栄養素と代謝に関わる指標に大きな変化が見られました

  

1. 亜鉛をはじめとするミネラルの吸収阻害

血清および大腿骨中の亜鉛濃度は、フィチン酸の摂取量に応じて用量依存的に減少しました。

 

さらに、肝臓や腎臓における鉄・銅・カルシウム・マグネシウム・マンガンなどの濃度も有意に低下しました。

 

これは、フィチン酸がそれらのミネラルと強く結合するため、腸管での吸収が妨げられた結果と考えられます。

 

 

2. モリブデン濃度の低下と尿酸生成の抑制

注目すべきは、肝臓中のモリブデン濃度が有意に減少した点です。

 

モリブデンは、尿酸の最終生成に関与するキサンチンオキシダーゼという酵素の構成要素として不可欠です。

 

実験では、この酵素の活性もフィチン酸の摂取によって低下し、それに伴い血清中の尿酸濃度も減少していました。

 

フィチン酸投与が血清尿酸濃度、肝XOX活性、肝モリブデン濃度に及ぼす影響

 

つまり、フィチン酸の摂取は、モリブデンの吸収阻害を通じて尿酸の生合成そのものを抑制していたことが示唆されました。

 

 

3. 血清脂質成分の低下

血中のトリアシルグリセロール(中性脂肪)および総コレステロール濃度も、フィチン酸を含む食事を摂取したラットで低下が認められました。

 

この結果は、フィチン酸の摂取が脂質代謝にも影響を与え、ひいては血中脂質の低下をもたらす可能性を示すものです。

 

 

総合的な考察と今後の展望

この研究は、フィチン酸の摂取が単に「ミネラルの吸収を阻害する」という従来の理解を超えて、尿酸代謝や脂質代謝にまで影響を及ぼす可能性を明らかにした点で重要です。

 

特に、尿酸の生成抑制という結果は、痛風や高尿酸血症の予防という観点からも注目されます。

 

一方で、過剰な摂取がミネラル欠乏につながるリスクも否定できません。

 

人間における摂取量や食生活のバランスを考慮しながら、今後はヒトを対象とした臨床研究によってさらなる検証が求められます。

 

また、フィチン酸がモリブデンやキサンチンオキシダーゼに与える作用を分子レベルで解明することで、より深い理解と栄養管理への応用が期待されます。

  

  

まとめ

・フィチン酸は、亜鉛やモリブデンなどの重要なミネラルの吸収を妨げることが明らかになった

・一方、これらのミネラルの吸収の減少は、重度の欠乏症の現れにつながらなかった

・フィチン酸の摂取は、尿酸の生成を抑制する可能性があり、高尿酸血症の予防効果が期待される

・血中脂質の低下も認められ、フィチン酸には脂質代謝に関する機能性もあることが示唆された

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