科学

砂糖の食べ過ぎと腸内細菌のバランスへの影響

科学

現代の食生活では、糖の過剰摂取が大きな問題となっています。

 

特に、西洋型の食生活(Western diet)は、加工食品の多用、飽和脂肪や糖の多量摂取、野菜・果物・食物繊維の不足といった特徴があり、肥満、代謝障害、心血管疾患のリスクを高めるとされています。

 

最近の研究では、このような食生活が腸内細菌のバランスを崩し、慢性炎症を引き起こす可能性があることが示されています。

 

特に、糖の過剰摂取が腸内の透過性を変化させ、腸内細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)が血中に漏れ出すことで、全身性の炎症が引き起こされると考えられています。

 

本記事では、糖の摂取が腸内細菌のバランスをどのように変化させ、炎症や代謝異常を引き起こすのかを詳しく解説します。

 

参考研究)

High Intake of Sugar and the Balance between Pro- and Anti-Inflammatory Gut Bacteria(2020/05/08)

High-Glucose or -Fructose Diet Cause Changes of the Gut Microbiota and Metabolic Disorders in Mice without Body Weight Change(2018/06/13)

  

   

西洋型の食生活と慢性炎症の関係

 

西洋型の食生活は、高脂肪・高糖質・低食物繊維の特徴を持ち、長期的な健康に悪影響を及ぼすことが知られています。

 

• 肥満やメタボリックシンドロームのリスクを高める

• 腸内環境を悪化させ、腸内細菌のバランスを崩す

• 腸のバリア機能が低下し、炎症を促進する

The Western Diet-Microbiome-Host Interaction and Its Role in Metabolic Diseaseより

 

この食生活が引き起こす影響の一つが、代謝性エンドトキシン血症です。

 

これは、腸内細菌由来のLPSが腸から血液中に漏れ出し、慢性的な炎症反応を引き起こす現象です。

 

特に、糖の摂取がこのプロセスに関与している可能性が指摘されています。

 

 

高糖質食が腸内細菌に与える影響

フィンランドの研究機関が主導した研究では、マウスを用いて高糖質食(グルコースまたはフルクトース)腸内細菌、腸の透過性、炎症、脂肪蓄積に与える影響が調査されました。

 

研究の主な結果

(図:高グルコース食(HGD)または高果糖食(HFrD)給餌マウスにおける代謝障害のパラメータ)High-Glucose or -Fructose Diet Cause Changes of the Gut Microbiota and Metabolic Disorders in Mice without Body Weight Changeより

   

腸内細菌のバランスの変化

• Bacteroidetes(バクテロイデス門)が減少し、Proteobacteria(プロテオバクテリア門)が増加

• 腸内細菌の多様性が低下し、バランスが崩れる

• プロ炎症性の細菌が優勢になり、炎症リスクが上昇

  

腸のバリア機能の低下と炎症の発生

• 腸上皮細胞に炎症が生じ、透過性が上昇

• 腸内のLPSが血流に入り込み、代謝性エンドトキシン血症を引き起こす

• 慢性的な全身性炎症が進行し、代謝異常のリスクが高まる

  

肝臓への影響と脂肪蓄積

• 肝臓に脂肪が蓄積し、脂肪肝が進行

• 体重は変化しないものの、代謝異常が進行する「正常体重肥満(サイレント肥満)」の状態に

• メタボリックシンドロームのリスクが増加

 

この結果は、高糖質食が直接的に腸内細菌のバランスを崩し、代謝異常を引き起こす可能性を示唆しています。

 

  

炎症性細菌と抗炎症性細菌のバランス

 

腸内細菌のバランスは、腸の健康や免疫機能の維持に重要な役割を果たしています。

  

特に、炎症性細菌と抗炎症性細菌のバランスが、腸内環境の安定に関わっています。

   

炎症性細菌:Proteobacteria(プロテオバクテリア門)

• Proteobacteriaの異常増殖は、炎症を引き起こす

• 特にEnterobacteriaceae(エンテロバクテリア科)は、LPS(エンドトキシン)を多く含み、強い炎症反応を誘発

• 腸の上皮細胞がIL-8(炎症誘発性サイトカイン)を放出し、腸のバリア機能が低下

   

抗炎症性細菌:Bacteroidetes(バクテロイデス門)

• 腸内の炎症を抑制し、バリア機能を強化

• IL-8の放出を抑え、腸の透過性を低下させる

• 短鎖脂肪酸(SCFA)やスフィンゴリピドが免疫調節に関与

 

Contentious host-microbiota relationship in inflammatory bowel disease–can foes become friends again?

IBD-what role do Proteobacteria play?

より

   

このバランスが崩れると、腸内環境が炎症性に傾き、代謝異常が進行するリスクが高まります。

  

   

人体に及ぼす影響

高糖質食の影響はマウスだけでなく、人間にも当てはまる可能性があります。(The Concept of Normal Weight Obesityより

  

正常体重肥満(サイレント肥満)のリスク】

• 体重は標準的でも、代謝異常を引き起こす状態

• 高糖質食が腸内細菌を変化させ、メタボリックシンドロームのリスクを増加させる可能性

• 腸内細菌の調整が、新たな健康管理の手段となる可能性

 

さらに、最近の研究では、健康な人間でも単純糖の多い食事が小腸の透過性を高めることが確認されました。(Simple sugar intake and cancer incidence, cancer mortality and all-cause mortality: A cohort study from the PREDIMED trialより

  

これは、炎症を促進し、長期的な健康リスクを増加させる可能性を示唆しています。

   

本研究においても、糖の過剰摂取が健康に及ぼす影響を再考する重要なデータが提供されています。

  

腸内細菌の調整や適切な食事管理が、健康を維持するための鍵となるかもしれません。

   

    

まとめ

・高糖質食は腸内細菌のバランスを崩し、炎症を引き起こす

・腸の透過性が高まり、代謝性エンドトキシン血症や脂肪肝を引き起こす

・「正常体重肥満」でも代謝異常のリスクが増加する可能性がある

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